某交流所にて書いていただきました、蓮汰と雪菜の裏小説です。

「初めて」をコンセプトに書いていただきました。

二人がどれだけ強く思いあっているかが、よく分かります。

上月さま、有難うございました!

※18禁です。閲覧注意!!




どうしようと思った。こんなに胸がざわめいているのは自分だけだという気がする。隣に座っている蓮汰の顔を見ようと思うことすら恥ずかしかった。できるなら早くこの時が過ぎてくれればいい。
 雪菜は頬に熱が集まるのを感じて僅かに俯いた。



あなたを知りたい



「あぁ……っ」
 画面の向こうから、女性の艶めいた声が聞こえてくる。
 雪菜は今、雪菜の家で蓮汰とDVDを見ている最中だった。兄は仕事で、両親もいない。蓮汰と二人で過ごせる時間は久しぶりなので、雪菜は今日のデートを楽しみにしていた。
 しかし、さきほど一緒に借りに行った話題のDVDを見た雪菜は固まってしまった。まさかこのように生々しい濡れ場があるとは思ってもいなかった。
 洋画を甘く見ていたのかもしれない。
 しかも重要なシーンであるようで、さきほどからそこばかりを重点的に繰り返している。どうも恋人のことをよく知りたいなら肌を重ねるべし、といった話らしい。唇を重ねたことはあるが、それ以上はない自分達にとって、このようなシーンは些か刺激が強すぎる。
 陶器人形のように白く滑らかな女性の体がぴくりと反応を示す度、ごめんなさいと謝りたくなってくる。
「あっ!」
 男性が愛を囁いている合間に、一際甲高い声が耳をつく。大切な人の全てを愛せることはなによりも素晴らしいことだと思う。これもそういうシーンなのだと理解できるが、気まずいものは気まずい。シーンが終わったのはいいがベッドの中で全裸で抱擁しあっているので、どうにも終わった気がしない。いつ女性が喘ぎ声を発してもおかしくない流れだ。
 洋画はスケールが違う……そう思い、それとなく俯いたままでいると、隣からどこか心配したような蓮汰の声が聞こえてきた。
「雪菜? どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
 いきなり名前を呼ばれ、びくりと肩が跳ねた。夜道で誰かに声をかけられたような反応だ。蓮汰が相手だというのに、なんだか自分でもおかしかった。
 びくびくしながら視線を持ち上げる。いつもと変わらない鳶色の瞳と目が合った。
「な、なんでもないよ、心配してくれて有り難う……」
 自然と声が震えた。平然としている蓮汰が少しだけ羨ましい。
 蓮汰も雪菜が大丈夫じゃないと気がついたようだった。童話に出てくる王子様のように整った顔が僅かに強張り、眉間に皺が刻まれる。
「雪菜……! 顔も赤いし、やっぱりどこか悪いんじゃっ!」
 蓮汰の手が、雪菜の存在を確かめるように手の甲に触れた。ひんやりとしたその手に、心の奥底まで見透かされてしまう気がして、冷や汗をかいてしまった。
 蓮汰がなにか言おうと唇を動かしたとき。蓮汰の声を遮るようにテレビ画面からまた声が聞こえてきた。
「あ!」
 画面を見なくても、二人が今なにをしているか容易に想像がついてしまった。蓮汰の重みを受けている方の手が、その声を聞いてびくりと震える。雪菜の動きに気付いた蓮汰は全てを把握したらしく、色素の薄い瞳が見開かれていくのが分かった。慌てた様子で重なった手が離れていく。
「あ、わ、悪い雪菜!」
 端正な顔が赤く染まっていく。そのことに気付いてしまったため画面を直視できなくなったらしく、そわそわと視線を動かしており落ち着きがない。
 蓮汰の顔を眺め、カーペットを軽く握り締める。
「ううん、わたしこそ……ごめんね。なんか、慌てちゃって」
 同じく落ち着きなく返す。カーペットに視線を落としふっと考えた。
 蓮汰と恋人になってから、それなりの時間が経過している。恋人になる前は幼なじみ同士だったのだから、蓮汰は雪菜の人生に欠かせない存在だ。雪菜がいじめにあっていた時も一番に気がついてくれた。こんなにも自分のことを理解してくれている蓮汰のことを、自分はどれほど理解しているのだろう?
 関係の長さからある程度は理解しているつもりだが、一つだけ雪菜には分からないことがあった。それは蓮汰の体だ。サッカー部なだけに人よりも焼けたその体が、何に喜び、何を嫌うのか一つも知らなかった。
 体を繋げれば、よりその人を理解できる。
 さきほど女性が語っていた言葉を思い出し、思わずごくりと唾を飲み干していた。
 自分はもっともっと蓮汰を理解できるのだ。それはなんと魅力的なことなのだろう。
 そのためには――。
「……蓮ちゃん」
 勇気を出して、蓮汰の袖に腕を伸ばしている自分がいた。その手は蓮汰が着ているセーターをつまんでいる。
 雪菜の呼びかけに気がついた蓮汰が、顔をこちらに向ける。
「ん?」
 蓮汰が小首を傾げる。
 テレビからは滑らかな英語の発音が聞こえてくる。いつの間にか、普通のシーンに戻っているようだった。それでも構わなかった。
「あのね、笑わないでほしいんだけど……」
「雪菜の言葉を笑うわけないだろ。なんだ?」
 画面から視線を外した蓮汰が身体をこちらに向けてくる。蓮汰の言葉を嬉しく思う反面、一層気恥ずかしくなったのも確かだ。
「私、蓮ちゃんのこと……その、もっと知りた……い……の」
 恥ずかしくて恥ずかしくて、後半は蚊が鳴くような声で伝える。自分と目を合わせていた蓮汰の瞳が、それを聞いて僅かに開かれる。この状況で、雪菜の言葉の意味が分からないような蓮汰ではない。理解したい――それがどのような意味か分かっているに違いない。
 だからこそ驚いているのだ。雪菜が切り出すなど、かけらも思っていなかったのだろう。
「駄目、かな……?」
 頬に熱が集まるのが分かりながら、蓮汰の様子を窺うように言う。まじまじとこちらを見つめてくる蓮汰の視線が少し痛い。
 部屋の中を沈黙が包んだ。
「雪菜……雪菜がそう思ってくれて嬉しい。オレも、雪菜をもっと知りたい」
 慎重に一言一言言葉にする蓮汰を見て、胸の中に温かな気持ちが押し寄せてくるのが分かった。
 雪菜は張り詰めた糸が切れたかのようにへにゃりと蓮汰にもたれ掛かり、微笑を浮かべて返す。
「蓮ちゃん……ありがとう。好き」
 自分を受け入れてくれた蓮汰が嬉しい。肩から伝わる僅かな体温が余計に嬉しかった。
「オレも好きだ、大好きだ、雪菜」
 優しく、太陽のように明るい大好きな人の笑顔。それに安心感を覚え、雪菜は全てを蓮汰に委ねるようにふっと目を閉じた。
 唇に柔らかな感触が触れたのはそれからすぐだった。

 誰も家にいないとは言え、服を脱いで裸になるのは恥ずかしい。蓮汰も服を脱ぎ、思ったよりもがっしりとした肉体を露にしたため恥ずかしさも増してしまった。思えば蓮汰の裸を見るのは幼稚園ぶりな気がする。一つ、蓮汰を知れた気がして嬉しかった。
 改めて向き合い触れるだけの口づけをしばらく交わしていると、雪菜の肩にそろりと蓮汰の手が乗る。壊れ物を触るように慎重な手は蓮汰も緊張しているからなのだろう。彼らしくない動作が少しだけ可笑しくて、くすりと笑いが漏れてしまった。
「……なんだよ」
 雪菜をカーペットの上に寝かせていた蓮汰が、僅かに目尻を赤く染め拗ねたように言ってくる。
「なんでもないよ」
 笑顔で返すと、背中に固いものが触れるのが分かった。横になったのだろう。
「雪菜、痛くないようにするけど、もし少しでも痛かったら言えよ。分かったな?」
 念を押してくる蓮汰が嬉しかった。自分を気遣ってくれているのだと分かる。蓮汰も緊張しているはずなのに人を気遣えるなんてそう出来ないことだ。胸の中に温かな感情が流れてくるのが分かり、強張っていた体からゆっくりと力が抜けていく。
「うん、分かった」
 小さく頷くと、小ぶりながらも形のいい雪菜の胸に蓮汰の手が触れた。自分の体を誰かの手が這うなんて初めてだ。蓮汰の触れているところからぴりぴりと不思議な感覚が伝わってきて、少しだけ痛痒い。
「ん……っ」

 その感覚を紛らわせるように鼻にかかった吐息を漏らすと、自分の物とは思えないほど甘ったるい声になった。聞いている自分まで恥ずかしくなるような声に、蓮汰は慌てて目を丸め驚いた。
「わ、悪い! 痛かったか?」
「ちが……!」
 真剣に謝られて、なにを言っていいか分からなくなってしまった。今自分が感じた気持ちを口にするのも躊躇われる。
「な、なんでもないから……ごめんね」
 なるべく目を合わせないように答えると、蓮汰も察するものがあったらしく、どこか困ったように俯きながら「あ、ああ」と頷いていた。
 言葉で言い表せないこの気恥ずかしさはなんだろう。蓮汰との間にある空気が擽ったい。
 そして再び蓮汰の手が、雪菜の柔らかな膨らみを包むように宛がわられる。さきほどよりも少し、大胆な手つきだ。
「ん……っ」
 蓮汰の手に力が入る度、そこから電気が走るような甘い感覚が伝わってくる。気付けば雪菜は蓮汰の手が動くたび、鼻にかかった声を漏らしていた。
 今度は蓮汰の手は止まらなかった。そして蓮汰の手が胸の突起を掠めたとき、脇腹の下が無性に切なくなるのが感じられた。同時に、今までで一番大きな声を漏らしていた。
「ああっ!」
 眉根を寄せ表情を歪めると蓮汰は宝物にでも触れるかのように慎重に、もう一度雪菜の突起を触ってくる。
「ふ」
 蓮汰の指が触れているところから甘ったるい電流が走っている気がした。強張っていた体が、心地好いその刺激によって弛緩していくのが分かる。
 ちらりと視線を持ち上げると、いつもよりも余裕のない蓮汰の顔が視界に映る。その顔は今まで生きてきた中で初めて見る蓮汰の顔だった。
(あ……)
 その顔を見たとき、「良かった」と思った。蓮汰の知らない一面を確かに見れたのだ。
 体を重ねるとその人のことがよく分かる。
 映画の中で聞いたあの言葉は本当だったのだ。
「ふ……っ」
 雪菜の胸の飾りを弄る手つきは次第に大胆になっていく。雪菜は更なる刺激が欲しくなり、太ももを無意識の内にすり合わせていた。
 その動きを合図にしたように、蓮汰の手が雪菜の下腹部に下げられるのが分かった。それだけで肌に心地好い違和感が走って仕方ない。
「……っ」
 その動きに次に起こることが簡単に予想できた。初めてとは言え、ある程度のことは知っているつもりだ。
 そして、その予想は当たった。
 一番敏感な場所に、蓮汰の手が触れたのだ。確かめるように慎重に動いていた。
「んぁ……」
 唇から、自分の物とは思えないような甘い声が零れる。手の動きに合わせて、声は大きくなったり弱くなっていく。段々と、蓮汰の顔を見ているのも辛くなっていく。
「んんっ……蓮ちゃん……」
 熱に浮かされたように最愛の人の名前を呼ぶ。
「雪菜……」
 蓮汰もすぐに言葉を返してくれた。そして数秒後には、雪菜の首筋に柔らかな感触が触れた。それが蓮汰の唇であると分かったのはすぐのことで、雪菜は唇の感触に全てを委ねるように目を閉じていた。
 今まで以上に強い快感が雪菜の体を襲ったのはそのときだった。普段は下着に覆われている場所に手を伸ばされたのだ。
「んっ……ぁ、汚いよ……」
 体を再び緊張に強張らせながらも、雪菜は小さな声で制止しようとする。しかし蓮汰は止めようとはしなかった。それどころか、秘部を確かめるようにそこをなぞりあげていく。
「雪菜の一部なんだ、汚くなんかない。だけど、痛くないか?」
 その言葉に即座に否定をしてみせた蓮汰は、次に自分の体を心配してきてくれた。どこまでも優しい蓮汰に胸が締めつけられたが、言葉は返さなかった。下手に口を開くと、喘ぎ声に変わってしまいそうだったからだ。声を出さない代わりにこくこくと何度か小さく頷いて答える。
「……よかった」
 そう言った蓮汰は明らかに胸を撫で下ろしているようだった。そして指を上下に動かしてくる。
「んぁ」
 指の動きが再開されたことにより、雪菜の意識は強制的に下腹部に移った。入口をなぞられる度に頭が甘く痺れ、体の力が抜けていく。
 雪菜の意識に靄をかけていくその気持ちは、さきほどの胸の比ではなかった。堪えようにも唇からは声が零れてしまう。
「んっ、ああっ」
 ぴくりと爪先に力が入る。
 もっと……、そんなことを思っている自分がいた。
「ここ、気持ちいいのか?」
 質問をしてくる蓮汰の指は次第に奥へと進んでいく。彼の指を飲み込んでいたとしても、今の自分ならなんの不思議はないように思えた。
「もう……っ、そんなこと聞かないで……」
 頬に熱が集まるのが分かり、顔を背けて小さな声で返す。
 部屋の中に粘り気の強い水音が響き、雪菜は部屋の隅に逃げたくなるような羞恥を覚えていた。
「悪い、悪い。……オレの手で雪菜が気持ち良くなってくれるなんてすげー嬉しいから、つい、な」
 蓮汰は悪びれた様子なくそう告げ、ははと笑う。最愛の人の笑顔を前に、雪菜はなにも返せなかった。
 そして暫くしてからぽつり、と呟く。
「……ズルい……」
 好きな人が笑顔を見せてくれるのは、どんな状況であれ嬉しい。その言葉に蓮汰は笑みを向けてくるだけだった。
 そのやり取りでなにかのスイッチが押されたかのように、陰部を刺激する手の動きが早くなっていく。
「あっ……ん」
 体の奥から広がっていく快感に、雪菜の背筋がびくりと跳ねる。無意識の内に両腕を蓮汰に回していた。
 腕を首に回すと、より蓮汰と密着できた。
「蓮ちゃん、大好きだよ……っ」
 喘ぎ声の合間に呟く。と、蓮汰も頷いてくれた。
「俺も、大好きだ」
 言葉を交わすと施される口づけに心まで蕩けそうになる。
「あ……」
 高ぶった体が蓮汰の胸に抱き寄せられたとき、雪菜はあることに気が付いた。
 なにか、硬いものが脇腹に当たっているのだ。
 なんだろうと不思議に思い手を伸ばしそれに触れると、蓮汰の声が詰まるのが聞こえてきた。
「っ」
 その声で、今触れたものの正体がなんなのか分かった気がする。
 あれは、蓮汰の――。
「ご、ごめん蓮ちゃん! わたし、分からなくて、その……っ!」
 腰をくねらせ蓮汰の手から逃れながら謝る。そうすると、少し呼吸が楽になる気がした。その言葉に、蓮汰の手の動きが止まった。
「あっ、俺こそわる、い……こんなにしちゃってさ……」
 雪菜が謝ると、蓮汰は決まりが悪そうに呟いてくる。ちらりと視線を持ち上げると、蓮汰の頬が僅かに赤みを帯びているのが見えた。
「ううん、謝らないで……変かもしれないけど、嬉しい……から」
 ぽつりと呟き自分の気持ちを言うと、蓮汰はどこか面食らったように、嬉しい? と聞き返してきた。
 こくりと首を縦に振る。そして唇を開いて続けた。
「うん、だって……蓮ちゃんも、その、わたしに興奮してくれてるんだよね? それってやっぱり嬉しいよ……」
「雪菜……」
 たどたどしく告げ最後に笑みを浮かべると、蓮汰が嬉しそうに笑みを返してくる。その笑顔を見ていると、自分も嬉しかった。
 同時に、少しだけ複雑だった。
「蓮ちゃんも……気持ち良くなりたいよね……ご、ごめん」
 今の状況を゛前戯゛と呼ぶのは、インターネットを通じて得た知識があるから分かる。そしてそれが、雪菜しか快感を得られないものだと言うことも。

 それは凄く申し訳ない気がしたし、恥ずかしかった。自分だけが喘いでいるということになるからだ。
「わ、わたしさ……もう、大丈夫だと思うから、そんなに気にしないで、ね」
 しどろもどろに今思っていることを話すと、蓮汰は一段と顔を赤くし自分から目線を外すように俯く。
「……雪菜って結構大胆なんだな」
 いかにも意外といった声に、申し訳なさと恥ずかしさを覚えてしまった。小さな声で、子供が喧嘩しているときのように言い返す。
「……蓮ちゃんも男の子、って感じだよ?」
 その言葉を聞いた蓮汰は罰が悪そうに続ける。
「雪菜が可愛いから、仕方ないだろ……」
 ともすれば聞き逃してしまいそうな小さな声だった。
 嬉しくて、恥ずかしくて、雪菜はどのように返していいのか悩んでしまった。そっと目を伏せる。
「雪菜、痛かったら爪立てていいからな」
 少ししてから、そのような声が聞こえてきた。これからなにをするのか分かり、雪菜はそっと視線を逸らす。
「……うん」
「あっ、だけど我慢もするなよ」
「う、うん」
「オレは、雪菜に痛い思いをさせたいわけじゃないんだからな」
 念を押されて、くすりと笑い声を漏らす。そんなに念を押さなくてもいい気がしたが、蓮汰のおかげで緊張が解けた気がした。自分では緊張していないつもりだったが、どうやらいつの間にか緊張していたらしい。
 笑われたことに、不満そうに唇を尖らせている蓮汰が視界の隅に映った。しかし蓮汰はなにも言わずに、力なく開かれた雪菜の股の間に入ってくる。
 足の間に誰かが入ってくるなど初めてだ。慣れぬ感覚に嫌でも身構えてしまった。
 不安そうに蓮汰を見上げると、蓮汰は大丈夫だとばかりに自分の額に唇を落としてくれた。優しいそれに心も身体も緩まる。
「んじゃ、行くからな」
 そう言い蓮汰はよく濡れた己の入口に、自身の熱を宛てがってくる。
 もうすぐ、蓮汰と一つになるのだ。
 同級生がよく話している、初めてを失う痛さというのはどれくらいのものなのだろうか。まるで想像がつかなかった。そしてそれを越えた先は、どれほど気持ち良いのだろう。
 考えていると、内側からこじ開けられるような圧迫感と、指でされた時以上の快感が下半身から込み上げてくる。
「ぅんっ」
 蓮汰の熱が進むにつれ、今まで感じたことのない痛みが背筋を走った。針が刺さったような鋭い痛みとも違う、なんともつかない痛みに目をきつくつむり蓮汰にしがみつく。
「雪菜……っ」
 心なしか雪菜の体を受け止める蓮汰の声もさきほどとは違って聞こえる。苦しそうな、切羽詰まった声だ。蓮汰にこのような声を上げさせたくないのは自分も同じだ。では、どうすればいいのだろう。
 考えている間も身を割くような痛みは、強まりも弱まりもしなかった。このままの状況が続けば涙がこぼれ落ちそうだ。
 その時、恋人を受け入れるときは力を入れてはいけないのだと、先日クラスメイトに言われたことを思い出す。どれほど痛みに効くか分からないが、試してみるしかない。
「んん……っ」
 無意識の内に背中が反り返っていた。極力力を入れないように努めると、さきほどまでとは比べものにならないほど痛さが和らいだ。
「……サンキュ、雪菜」
 しばらくしてから蓮汰の声が降ってきた。優しい、けれどいつもとは違う掠れた声。その声を耳にしただけで、胸の奥が締め付けられる。
「……っ!!」
 蓮汰の声に耳を傾けていると、次の瞬間、ぐんと圧迫感が増すのが分かり、雪菜は声にならない声を上げていた。
 痛い。
 頭の中がそれしか考えられなくなったが、その分蓮汰と密着する面積が増えた気がする。今は外からだけではなく中からも蓮汰のことを感じられるのだ。
 嬉しさと痛みが頭の中を支配し、なにも考えられなくなったころ、蓮汰の深い溜息が耳に届いた。
 一息ついている蓮汰の声を聞き、彼の熱を全て受け入れたことを理解した。どうやら、最愛の人と一つになることが出来たらしい。
「ぁ……」
 それを自覚した時、唇から高い声が零れ落ちた。
 痛みが吹き飛ぶほど嬉しかった。トク、トク、と早鐘を打っている蓮汰の鼓動が伝わってくるのもまた嬉しい。
「……雪菜、大丈夫か?」
 鼓動を感じていると、蓮汰の声が鼓膜を擽ってくる。その声を聞いているだけで胸が締め付けられる。
 問いには答えず頷いて返す。本当はまだ違和感が残っているが、言うほどのことでもない。
「じゃあ動くぞ? あっ、……変でも笑うなよ」
 腰を動かそうとしてはその動きを止める蓮汰に愛おしさを覚え頷く。そしてぞくりとするような快感が雪菜を襲った。
「あっ」
 声が漏れるのを我慢できなかった。それだけ強い刺激だったのだ。
「ん……っ!」
 蓮汰が動くたびに指先が撥ねるのが分かった。蓮汰の息遣いが、徐々に乱れていく。
「は……ぁ」
 身体が揺れる度に声を出していた雪菜の手に、熱を持った蓮汰の手が重ねられる。その感触を受け、やはり蓮汰は優しいのだと再認識する自分がいた。
「蓮ちゃぁ……、好きっ」
「オレも、オレも雪菜が、好きだっ」
 言葉を交わすと、蓮汰の動きが一層早くなるのが分かった。楔で身体の中を掻き回されている気がして、雪菜は大きくなっていく声を堪えるようにきつく目をつむる。家に誰もいないとは言え、どうしても気になってしまう。
「っ、雪菜……大丈夫か?」
 声を抑えていると、蓮汰が荒く乱れた呼吸の間に尋ねてくる。
「あっ、ぅ……ん!」
 語尾に力が入ってしまったがなんとか頷くと、安心したような蓮汰の吐息が耳を掠めた。
「よかった……、大丈夫じゃないって言われても、動かないでいる自信がなかったから」
「ぇっ……そ、それってどういう、ぁんっ」
 どういう意味だと問おうとしたが、喘ぎ声が邪魔をしてできなかった。
 蓮汰が勢いよく自分を突き上げてきたのだ。今まで以上に激しい動きは、強い快感を与えてくれた。
「はぁ……あ、蓮ちゃん、蓮ちゃん……っ!」
 視界が上下に揺れるほどの動きにきつく目をつむり、蓮汰の名前を繰り返し呼ぶ。名前を呼ぶと、重ねられた手が一層強く握られた。それはまるで大丈夫だと言ってくれているようにも思えた。
「あぁっ!」
 自分の体内にあるものが動く度快感の波が押し寄せてくるのが分かり、雪菜は思わずびくりと喉を反らす。
「……可愛い」
 蓮汰から呟きがこぼれ落ち、反らした喉に蓮汰の唇が落ちるのが分かった。少しざらついた独特の感覚に、それだけでクラクラしてしまう。
「んん……ぁっ!」
 喉から唇が離れると、蓮汰が自分に腰を打ち付けてくる動きが早くなっていく。室内に、肌と肌とがぶつかる音が響いた。その音の大きさに、限界が近付いているのだと知る。雪菜も、今まで経験したことのない階段を上っている気がして、少しだけ怖かった。縋り付くように手に力を込めると、すぐに手を握り返してくれた。
「雪菜、オレもう……っ!」
「蓮ちゃ、わたしっ!」
 部屋の中に自分と蓮汰の声が響いたのは同じ時だった。そして、今までで一番激しく体を突き上げられる。強く揺さぶられると、体がびくびくと痙攣し、目をつむりたくなってしまうほど強い快感に襲われた。
「っ」
 続いてすぐ、蓮汰のうめき声が頭上から聞こえてくる。
 そして今まで密着していた蓮汰の体が離れ、腹部に生暖かいなにかがかかるのが分かった。
「んっ……」
 それを感じながら雪菜は心地好い疲労を味わっていた。
「はぁ……」
 蓮汰も今は喋る余裕がないらしく、カーペットの上に座り荒く乱れた呼吸を繰り返していた。
「雪菜……だ、大丈夫だったか?」
 二人の呼吸が落ち着いた頃、それでもどこか疲れたような蓮汰の声が聞こえてきた。
「う、うん……蓮ちゃんこそ、大丈夫?」
 そろりと視線を持ち上げて聞き返す。どのような顔をしていいのか分からず、うまく蓮汰を見つめられなかった。行為に及んでいないというのに、頬に熱が集中するのが分かる。
 蓮汰のことをもっと知りたかったとは言え、少し大胆すぎたかもしれない。はしたないと思われてしまっただろうか。
 そのようなことを考えだすと、ますます蓮汰の顔が見れなくなってしまっていた。徐々に視線を落としていくと、ぽふとなにかが頭の上に乗っかるのが分かった。
「……っ?」
 驚いて顔を上げると、頭上に乗ったのは蓮汰の手だった。
「サンキュ、オレは大丈夫だ。雪菜、可愛かった。本当、愛してる」
 その手が雪菜を励ますように左右に動かされる。
 蓮汰にそう言われると、さきほどの気持ちが嘘のように晴れ渡っていく。躊躇いがちにではあるが、気付けば雪菜は笑顔を浮かべていた。
「有り難う、蓮ちゃん……わたし、いつも蓮ちゃんに励まされてばっかりでごめん……。だけどね、それがすっごく嬉しいんだ。蓮ちゃん、わたしも蓮ちゃんのこと……愛してるよ」
 今蓮汰に抱いている気持ちを一言一言噛み締めるように紡ぐ。その言葉を受けた蓮汰が照れ臭そうに、けれど嬉しそうに笑った。
 そして蓮汰の顔が近付いてくるのが分かった。雪菜もそれに合わせて目をつむる。
 一拍後、唇に柔らかな感触が触れ、雪菜は改めて感じていた。
 蓮汰の隣にこれからもいたい、と。
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