某交流所にて、館長さまに描いていただきました!
以前、お子様を描かせていただいた時、ほんわかと優しい文章に一目惚れしてしまいまして…。
我が子、雪菜と柚希のお話を書いていただきました!!
もうすぐエイプリルフールという事で、エイプリルフールネタで書いてくださいました!
館長さまありがとうございました!!
「ねえ雪菜ちゃん、知ってる? 明日、地球が滅んじゃうんだって」
からり、と音を立てて、カップにティースプーンが滑り落ちる。そこにたっぷり掬われたジャムが、とろり溶ける琥珀の水面。何の前触れもなく告げられた言葉に、雪菜は思わず言葉を失ってしまった。とうの柚希はといえば、片手に持つスマートフォンの画面に指を滑らせながらあっけらかんとしている。
ちきゅうがほろぶ。
意味は簡潔明瞭に過ぎて、改めて考えるまでもない。しかし、何故・どうしてそうなるのかという理由を考えても、答えなど出そうになかった。
今日と同じ日が続いていく――少なくとも、明日は今日とほとんど変わらないものだと、当たり前に信じていた思考が、実は何の根拠もありはしなかった事に今更気づくのだ。
「柚希……それ、本当……?」
思った以上に茫然とした声が出る。
すると、それを聞いた柚希の方が、逆に驚いた様子で顔を上げてきたので、二人は暫し見つめあう格好となった。
「どうしたの? そんなに驚いちゃって」
「えっ、だって地球が滅ぶなんて言われたら」
驚かない、訳がない。勢い込んで机に置いた手が二人のカップを揺らす。対して、彼女の動揺を誘った柚希はといえば、ようやく合点がいったようで、顔の前で両手を合わすと僅かに眉尻を下げた。
「ゴメン! あのね。さっき見たサイトに載ってたジョークなんだ」
「ジョ、ジョーク?」
「ほら、もうすぐエイプリルフールでしょ。毎年この時期になると、何かしら出てくるよね。こんな風に、いかにも本物のニュース記事みたいに載せてみたりとか」
向けられた端末の画面を見れば、大々的に『巨大隕石接近 地球壊滅か』と物騒な見出しが掲載されている。内容が内容なだけににわかには信じ難いものの、尤もらしい観測データや、有識者の意見も書かれているため、段々嘘か誠かが分からなくなってしまった。
「でも、あんなにびっくりされると思わなかったから……本当にゴメンね、雪菜」
元来が誠実ゆえに、謝罪を重ねる柚希の態度に偽りなどありはしない。
「大丈夫だよ、嘘だから」
その“大丈夫《ことば》”に何度救われたか。
いつかの日。太陽の火は消えて、月は砕けて、星が落ち、地球は滅ぶだろう。終わりは絶対にやってくるけれど、それが明日なのか、100年後なのかはわからない。 だから、大丈夫と太鼓判を押す柚希の言葉だって絶対でないのは知っている。いくら彼女だってこの星の未来を知る術はないのだから。 それでも良かった。荒唐無稽なウソは、誰かに非現実だと暴かれるため存在するピエロのようなものなのだ。
「ううん、柚希が謝ることじゃないよ。私は……大丈夫だから」
気を取り直して、紅茶に浸したスプーンをかき混ぜる。端末のバックライトが消えた。そこに表示されていたデマゴギーも姿を消す。同時に、緩やかに話題は変わって、他愛のない雑談へと移っていった。 近所にある美味しいケーキ屋の話に花を咲かせつつ、雪菜は頭の片隅で考える。
いっそ地球なんて滅んでしまえばいい、と嘆いた時も確かにあった。しかし、今はそう思わない。少なくとも、滅亡の噂を聞いただけで思考停止をし、動揺を隠し切れない程度には、地球の存続を願っている。 口には改めて出しはしない。
けれど――そのささやかな事実が、少女には何より誇らしく、また愛しくもあったのだった。
END
以前、お子様を描かせていただいた時、ほんわかと優しい文章に一目惚れしてしまいまして…。
我が子、雪菜と柚希のお話を書いていただきました!!
もうすぐエイプリルフールという事で、エイプリルフールネタで書いてくださいました!
館長さまありがとうございました!!
「ねえ雪菜ちゃん、知ってる? 明日、地球が滅んじゃうんだって」
からり、と音を立てて、カップにティースプーンが滑り落ちる。そこにたっぷり掬われたジャムが、とろり溶ける琥珀の水面。何の前触れもなく告げられた言葉に、雪菜は思わず言葉を失ってしまった。とうの柚希はといえば、片手に持つスマートフォンの画面に指を滑らせながらあっけらかんとしている。
ちきゅうがほろぶ。
意味は簡潔明瞭に過ぎて、改めて考えるまでもない。しかし、何故・どうしてそうなるのかという理由を考えても、答えなど出そうになかった。
今日と同じ日が続いていく――少なくとも、明日は今日とほとんど変わらないものだと、当たり前に信じていた思考が、実は何の根拠もありはしなかった事に今更気づくのだ。
「柚希……それ、本当……?」
思った以上に茫然とした声が出る。
すると、それを聞いた柚希の方が、逆に驚いた様子で顔を上げてきたので、二人は暫し見つめあう格好となった。
「どうしたの? そんなに驚いちゃって」
「えっ、だって地球が滅ぶなんて言われたら」
驚かない、訳がない。勢い込んで机に置いた手が二人のカップを揺らす。対して、彼女の動揺を誘った柚希はといえば、ようやく合点がいったようで、顔の前で両手を合わすと僅かに眉尻を下げた。
「ゴメン! あのね。さっき見たサイトに載ってたジョークなんだ」
「ジョ、ジョーク?」
「ほら、もうすぐエイプリルフールでしょ。毎年この時期になると、何かしら出てくるよね。こんな風に、いかにも本物のニュース記事みたいに載せてみたりとか」
向けられた端末の画面を見れば、大々的に『巨大隕石接近 地球壊滅か』と物騒な見出しが掲載されている。内容が内容なだけににわかには信じ難いものの、尤もらしい観測データや、有識者の意見も書かれているため、段々嘘か誠かが分からなくなってしまった。
「でも、あんなにびっくりされると思わなかったから……本当にゴメンね、雪菜」
元来が誠実ゆえに、謝罪を重ねる柚希の態度に偽りなどありはしない。
「大丈夫だよ、嘘だから」
その“大丈夫《ことば》”に何度救われたか。
いつかの日。太陽の火は消えて、月は砕けて、星が落ち、地球は滅ぶだろう。終わりは絶対にやってくるけれど、それが明日なのか、100年後なのかはわからない。 だから、大丈夫と太鼓判を押す柚希の言葉だって絶対でないのは知っている。いくら彼女だってこの星の未来を知る術はないのだから。 それでも良かった。荒唐無稽なウソは、誰かに非現実だと暴かれるため存在するピエロのようなものなのだ。
「ううん、柚希が謝ることじゃないよ。私は……大丈夫だから」
気を取り直して、紅茶に浸したスプーンをかき混ぜる。端末のバックライトが消えた。そこに表示されていたデマゴギーも姿を消す。同時に、緩やかに話題は変わって、他愛のない雑談へと移っていった。 近所にある美味しいケーキ屋の話に花を咲かせつつ、雪菜は頭の片隅で考える。
いっそ地球なんて滅んでしまえばいい、と嘆いた時も確かにあった。しかし、今はそう思わない。少なくとも、滅亡の噂を聞いただけで思考停止をし、動揺を隠し切れない程度には、地球の存続を願っている。 口には改めて出しはしない。
けれど――そのささやかな事実が、少女には何より誇らしく、また愛しくもあったのだった。
END
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