同盟にて斐獅谷さまに書いていただきました。
琥珀と湊をチョイスしていただき、女の子同士の楽しい時間を書いていただきました。
CAST…琥珀+湊
お菓子の形は
その人の想いが込められている
それは休日で、昼下がりの出来事だった。
琥珀が一人居間で寛いでいると、突然チャイムが鳴った。明るい返事をしながら、玄関へと駆けていく。扉を開けると、箱を提げた湊が立っていた。
「こんにちは」
「湊、急にどうしたの?」
「はい、実は」
家はロザリア達に教えてもらい、此処まで来たのだという。わざわざ家まで来てくれたことに、申し訳なさが残った。
湊は大家の娘で、次期当主といわれている女性だ。生まれて十八年間、一度も外に出たことがなかった。外の世界を琥珀達が教えたのを機に、自立をするために料理を始めたと聞く。あまり手の込んだものを作ることはできない。それを聞いたのか、琥珀もお菓子作りなら、と簡単なものから教えている。きっと、箱に入っているのもお菓子か何かだろう。
とりあえず上がって、と湊を家に上がらせた。
客間に湊を通し、冷たい緑茶を茶碗に注いだ。お茶を勧めながら、箱の中身のことを訊ねた。湊は箱の中を開けながら、お菓子を作っていましたと答える。箱の中には、カップゼリーだった。周囲にはぬるくならないように、保冷剤がいくつか回りを囲んでいる。
湊は頬を赤らめて言った。
「以前、教えてもらったものを一人で作ってみました」
ゼリーはゼラチンをふやかして、ジュースを注いで手早く混ぜるだけ。そこにカップなどに注ぎ入れ、冷蔵庫で冷やすだけのお手軽なものだ。琥珀は覚えてくれたのか、と教えてくれたときのことを思い出した。
最初作ったときは、かき混ぜるタイミングが悪くて失敗したと落ち込んでいた。失敗は成功のもとというように、いきなり上達するという人はあまりいない。琥珀が喜ぶのであれば、今度は一人で作ってみたいと思ったのだろう。
箱の中から顔を出すカップゼリーを手に取り、琥珀は瞳をこらした。
「た、食べていいの?」
「はい。皆様は既に食べてくださいました」
「じゃあ、頂きます」
備えてあった小さなスプーンをもらい、小さくゼリーをすくう。黄色からして、グレープフルーツのジュースを使って作ったのだろう。いい匂いがすると思えば、真ん中にミントの葉が小さく飾りつけられていた。
すくったものと交互に見つめながら、口へと運ぶ。甘酸っぱい味からして、グレープフルーツの味だった。
「いかがですか?」
自信喪失した湊の表情が曇る。誰にも教えてもらわずに、一人で作るというのは大変なこと。それでも、湊が自立するための一歩として温かく見守るのも仲間の役目だと気付く。
うん、と琥珀は頷く。
「おいしいよ。ちゃんと湊が頑張っている想いが形になって、いい味を出しています」
「本当ですか?」
曇っていた表情が少しずつ戻ってくる。ありがとうございます、と湊は頭を下げた。
その時、時計の鐘が小さく音を出した。中から鳩がパポーと鳴いている。そろそろおやつの時間だ、と琥珀は一度客室から出ていく。そして、台所から煎餅と柏餅を皿に置いて持ってきた。
お礼だよ、と軽く告げると湊は軽く笑った。
他愛のない会話が、ゆったりとした時間を少しずつ早めていくようだった。
終
琥珀と湊をチョイスしていただき、女の子同士の楽しい時間を書いていただきました。
CAST…琥珀+湊
お菓子の形は
その人の想いが込められている
昼下がりの鳩時計
それは休日で、昼下がりの出来事だった。
琥珀が一人居間で寛いでいると、突然チャイムが鳴った。明るい返事をしながら、玄関へと駆けていく。扉を開けると、箱を提げた湊が立っていた。
「こんにちは」
「湊、急にどうしたの?」
「はい、実は」
家はロザリア達に教えてもらい、此処まで来たのだという。わざわざ家まで来てくれたことに、申し訳なさが残った。
湊は大家の娘で、次期当主といわれている女性だ。生まれて十八年間、一度も外に出たことがなかった。外の世界を琥珀達が教えたのを機に、自立をするために料理を始めたと聞く。あまり手の込んだものを作ることはできない。それを聞いたのか、琥珀もお菓子作りなら、と簡単なものから教えている。きっと、箱に入っているのもお菓子か何かだろう。
とりあえず上がって、と湊を家に上がらせた。
客間に湊を通し、冷たい緑茶を茶碗に注いだ。お茶を勧めながら、箱の中身のことを訊ねた。湊は箱の中を開けながら、お菓子を作っていましたと答える。箱の中には、カップゼリーだった。周囲にはぬるくならないように、保冷剤がいくつか回りを囲んでいる。
湊は頬を赤らめて言った。
「以前、教えてもらったものを一人で作ってみました」
ゼリーはゼラチンをふやかして、ジュースを注いで手早く混ぜるだけ。そこにカップなどに注ぎ入れ、冷蔵庫で冷やすだけのお手軽なものだ。琥珀は覚えてくれたのか、と教えてくれたときのことを思い出した。
最初作ったときは、かき混ぜるタイミングが悪くて失敗したと落ち込んでいた。失敗は成功のもとというように、いきなり上達するという人はあまりいない。琥珀が喜ぶのであれば、今度は一人で作ってみたいと思ったのだろう。
箱の中から顔を出すカップゼリーを手に取り、琥珀は瞳をこらした。
「た、食べていいの?」
「はい。皆様は既に食べてくださいました」
「じゃあ、頂きます」
備えてあった小さなスプーンをもらい、小さくゼリーをすくう。黄色からして、グレープフルーツのジュースを使って作ったのだろう。いい匂いがすると思えば、真ん中にミントの葉が小さく飾りつけられていた。
すくったものと交互に見つめながら、口へと運ぶ。甘酸っぱい味からして、グレープフルーツの味だった。
「いかがですか?」
自信喪失した湊の表情が曇る。誰にも教えてもらわずに、一人で作るというのは大変なこと。それでも、湊が自立するための一歩として温かく見守るのも仲間の役目だと気付く。
うん、と琥珀は頷く。
「おいしいよ。ちゃんと湊が頑張っている想いが形になって、いい味を出しています」
「本当ですか?」
曇っていた表情が少しずつ戻ってくる。ありがとうございます、と湊は頭を下げた。
その時、時計の鐘が小さく音を出した。中から鳩がパポーと鳴いている。そろそろおやつの時間だ、と琥珀は一度客室から出ていく。そして、台所から煎餅と柏餅を皿に置いて持ってきた。
お礼だよ、と軽く告げると湊は軽く笑った。
他愛のない会話が、ゆったりとした時間を少しずつ早めていくようだった。
終
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