同盟にて天空朱雀さまに書いていただいた小説です。
天空朱雀さま宅のマナさん、リネットさんと我が家のエレナ、レジーナとのコラボです。


CAST…エレナ+レジ-ナ+マナさん+リネットさん




此処は、人間が住まう下界とはまた異なる世界。
魔力を持つ者、そして魔獣等普通の動物とは異なる生物達が共存し、穏やかな時を刻み続ける世界。

人はこの世界を、聖域と呼ぶ。
そして、聖域で最も特徴的なものといえば、聖域の中央に聳え立つ《時の塔》と呼ばれる建物である。

一体誰が、何の為に創られたのかは未だに謎に包まれているが、分かっている事と言えばもし時の塔に何らかの異変が起これば、世界中に災厄が訪れる…という事。
塔の均衡を保つ為、厳しい修行を積んで大賢者の称号を手に入れた者を塔の管理者に据える事となった。

現在、塔の管理を担っているのはレジーナと呼ばれる女性の賢者。
聡明で尚且つ母性的な穏やかさを持ち合わせた女性だ。

彼女にとって塔の管理が最優先される為、毎日のほとんどを此処時の塔で過ごしている。
レジーナ以外に塔で暮らす者は当然おらず、そのせいかひっそりとした空間で1人でゆったりと暮らす事が多い。

だが、そんな中、足繁く塔に通う人物がたった1人だけ存在した。
──そう、その人物こそレジーナの大切な親友…その人である。

「御免下さい…レジーナ、居ますか?」

「あら…エレナ、いらっしゃい。お待ちしていましたよ。さぁ、お入りなさい」

「ありがとう、じゃあ早速お邪魔します」

時の塔にやってきたのは、修道服に身を包んだ1人の女性。
彼女は《白魔女》とも呼ばれている人物で、聖域の北部を守護する任務を担っている。

だが、それだけでなくレジーナとは親友同士でもあるのだ。
こうして頻繁にレジーナがいる時の塔を訪れては、お茶を飲みながらまったりお喋りをしているようだ。

「エレナがいらっしゃるのは分かっていたから、ハーブティを用意しておきましたよ」

「わぁ、本当? レジーナの淹れるハーブティはとっても美味しいから、私大好きなんです。…あ、私もクッキーを焼いてきたので、一緒に食べましょう?」

「あら、いつも手土産を持ってきてくれて、本当にありがとう。それじゃあ参りましょうか」

レジーナがハーブティを淹れてくれていると知るなり、まるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべながら心底嬉しそうにするエレナ。
そんなエレナを優しげな瞳で見守りながらテーブルへと案内すると、テーブルに置かれたティーポットからはハーブの爽やかな香りが辺りを包み込んだ。

レジーナはエレナに空いている椅子に座るよう勧めると、エレナは持参してきたクッキーをお皿に並べてから言われるがままに椅子に腰掛ける。
そんな彼女を見遣りつつ、それぞれのカップにハーブティを注ぐとそのうちの一つをエレナの眼前に差し出すレジーナ。

「さぁ、どうぞ。召し上がれ」

「ありがとうございます、レジーナ。頂きます……ふふっ、やっぱりレジーナが淹れるお茶は最高ですね。それに、何だか凄く気持ちが落ち着くんです」

「ふふっ、ありがとう。エレナが持ってきてくれたクッキーも、とても美味しいですよ」

カップをゆっくり口につけるなり、ふわりとハーブの爽やかな香りが鼻を擽る。
…と同時に、ほんわかと心の奥が温かくなってゆき、安らいでゆくのを感じた。

ゆったりとした、穏やかで優しい時間が辺りを包み込む。
お喋りに花を咲かせながらお茶をしていた2人であったが、不意にレジーナの双眸に鋭い光が宿った。

「……! 塔の近くで、空間の歪みが発生するのを感じました…。もしかしたら、何か異変が起きたのかもしれません。様子を見て来てまいりますので、エレナは此処で待機していて下さい」

「え、本当ですか…? それなら、私も行きます。私だって、この世界を守護する役目があるんですから」

「エレナ…。分かりました。一緒に参りましょう」

一瞬にして穏やかな空気は消え去り、代わりに現れたのは一触即発の張りつめた空気。
2人は神妙な顔つきで頷き合うと、警戒心を一層高めながら塔を後にした。

◆◇◆


エレナ、レジーナとは場所を別にして。
此処は聖域の一角にある深い深い森。

辺り一面鬱蒼とした木々が生い茂り、空を覆い尽くした木の枝や葉が日差しを完全に遮ってしまっている為、どことなく薄暗い。
さわさわと木の葉が風に揺れる音だけが辺りに響き渡り、吹き抜ける風は少々冷たささえ感じる程。

そんな静まり返った森の奥底で、蠢く二つの人影。
こんな鬱蒼とした森に人が居るのは珍しく、しかも2人共まだ若い少女のようであった。

「…ってか何、ココ? 何か超田舎の森って感じだし、全然訳分かんないし…もうホント有り得ないんだけどー」

人影のうち1人、人工的に茶色く染めたような髪を肩位の長さに伸ばし、何処と無くやる気の無さを感じる少女は些か混乱と辟易を綯い交ぜにしたような顔つきで辺りを見渡す。
その一方で、彼女の傍らに居るもう1人の少女は何故か瞳をキラキラ輝かせて興奮している模様。

「まぁ…っ! 素敵っ、素敵ですわ~! こんな摩訶不思議な体験、本当にあるんですのね~!」

金色の長い髪を腰辺りまで伸ばし、髪と同じ色の獣耳を生やしたかなりの美少女。
そんな彼女をジト目で見やりつつ、茶髪の少女は心底やる気の無さそうな、覇気の無い溜め息を零した。

「はぁ…ったく、こんな状況で何でそんなテンション上げられんのか訳分かんないっつーの。あ~もう、虫に刺されたら超ヤなんだけど」

「あら、マナったらご機嫌斜めなのですね。本当にこんな不思議な世界に迷い込む事があるだなんて…貴重な経験だとは思いませんこと?」

「別に~? つーか、あたしそれ以前にも似たような経験してるしー」

「……あ、そういえばそうでしたわね。さぁさぁ、折角の機会ですもの、この辺り歩いてみませんこと? きっと何かあるかもしれませんわっ!」

「え~? 超めんどい…でもまぁ、此処で突っ立っててもしょうがないしね。誰かいればいいんだけ……ん?」

2人の少女の間に大分温度差があるような気もしなくもないが、早速歩き出そうとした少女達は不意に耳に飛来する一つの唸り声のようなものに思わず顔を強張らせる。
第六感にも似た感覚が背中を撫でつけ、冷や汗が背中を伝った。

──刹那。2人の前に姿を現したのは、狼型の魔物が数匹。
向こうは彼女らを敵と見なしているのか、狂気に支配された双眸をぎらつかせていた。

「ちょ、やばくないコレ?」

「あらあら、いきなり物騒な歓迎ですわね~。でも、私達ならきっと大丈夫ですわっ!」

「いやいや、その根拠の無い自信なんなの!? ……ってヤバっ、向こうヤル気満々なんだけどぉっ!」

2人の会話など気にも留めず、一際大きな咆哮を上げてから鋭い牙で噛みつこうと飛び掛かってくる魔物。
マナと呼ばれた茶髪の少女は横に跳んでそれを回避すれば、まるでその位置に魔物が迫り来るのを予見していたかのように正確にリネットの放った苦無が魔物の眉間に突き刺さる。
魔物は苦痛な呻き声を上げていたが、次第に力尽きてその場に崩れ落ちた。

「狙い通りに行きましたわ~! やりましたわね!」

「……! リネット、後ろッ!」

「……え?」

叫びにも似たマナの声が辺りに緊迫した空気を創り出す。
何事かと背後へ振り返ったリネットと呼ばれた少女の視界に映り込むのは、今まさに自分に襲い掛かろうとする魔物の姿。
どうやら一匹、茂みに隠れて様子を窺っていた魔物がいたようだ。

回避は不可能と判断したのか、身構えつつ衝撃に備えてぎゅっと目を瞑るリネット。
しかし、その代わりに訪れたのは何故か魔物の悲鳴。
恐る恐る目を開けてみれば、そこには魔術と思われる光の矢が突き刺さり悶絶する魔物の姿が映り込んだ。

「……ふぅ、ギリギリ間に合ったようですね。お2人とも、お怪我はありませんか?」

些かホッと安堵したような、穏やかな女性の声が辺りに響き渡る。
マナとリネットが驚いて声のする方へと視線をずらせば、そこにはエレナ、レジーナの姿があった。
どうやら、先程の光の矢を放ったのはレジーナのようだ。

「え、ええ…私達は平気ですけれど…。それより貴方達は一体、どちら様なんですの?」

「私達はこの聖域で暮らしている者です。詳しい話は…そこの魔物を倒してからにしましょう」

いきなり現れた救世主に、目を白黒させながら茫然とするしかないリネット。
しかし、残念ながら一同に呑気にお喋りをしている暇はどうやら無さそうだ。
何故なら、エレナとレジーナの登場にも全く物怖じせず、むしろ敵と認識したようで殺意むき出しの視線をぶつけるばかり。

それからは、形勢は完全に一同に傾いた。
マナが敵陣に突っ込んで行って魔物を殴り飛ばし、リネットは中距離から苦無を放ったり自ら剣を手にして斬りかかり。
そして、レジーナとエレナは後方から2人の援護に回った。

あっという間に魔物達を蹴散らしていき、最後の一匹は戦意を喪失したらしく尻尾を巻いて一目散に逃げて行った。
そんな魔物の背中を見遣りながら、マナが不満そうに溜め息をついた。

「ったく、逃げるくらいなら最初から襲い掛かんなっつーの。あーあ、爪で肌がちょっと切れちゃったじゃない、サイアク~。傷痕残ったらどうしてくれんのよ」

「ごめんなさい、傷の具合をちょっと見せて貰ってもいいですか? このくらいなら私の治癒魔術で何とかなりそうですね…。少し、じっとしていて下さいね」

「……? え、ちょっと何よ…?」

非難の声を上げるマナであるが、そんな声はエレナの耳には届いていないようだ。
マナの左腕に刻まれた傷口の前に手を翳せば、手のひらから生み出される温かく柔らかな光が傷口を優しく包み込み、あっという間に傷を塞いでしまったのだ。
これには、マナも驚きを隠せない。

「ど、どういう事コレ? 何したの?」

「回復の魔術をかけました。もう傷は完全に治っている筈ですよ。私、治癒の魔術は得意なんです」

鳩が豆鉄砲食らったような顔つきでぽかんとするマナをよそに、にっこりと聖母のような微笑みを浮かべるエレナ。

「へぇ~、治癒ねぇ…まぁ何にせよ助かったわ、ありがとう」

「私からもお礼を言いますわ。お2人とも、助太刀して下さり本当にありがとうございました」

綺麗さっぱり傷口が塞がった腕をまじまじと眺めながら礼の言葉を口にするマナに、便乗する形で深々と頭を下げるリネット。
しかし、此処まで畏まって礼を言われるとは思っていなかったのか、エレナとレジーナは恐縮した様子でぶんぶん手を振ってみせた。

「いえ、礼には及びません。目の前に困っている人がいれば、助けるのは当然の事でしょう?」

「エレナの言う通りですよ。気になさらないで下さいね。ところで貴方達は、一体何処からいらしたのです? 見ない顔ですから、聖域に住んでいる方とは思えませんし…」

もう一度失礼にならない程度にマナとリネットの顔を眺めるも、やはり知らない顔。
小首を傾げるレジーナと同じように、マナとリネットもまた困惑した様子。

「ええ、私達も困ってるんですの。仰る通り、私達は別の世界から来た、と思うんですけれど…。いきなり目の前に眩しい光が現れて視界が真っ白になったかと思えば、気が付けばこの森に迷い込んでいたんですの。
全く見た事無い場所でしたし、どうやって帰ればいいのか…」

「成程…事情は分かりました。それならば、私が貴方達を元の世界に送り返して差し上げましょう」

リネットの説明に、ようやく合点がいったらしくすっきりした顔つきでこくこくと頷くレジーナ。
すると、今まで黙っていたマナまでもが2人の会話に乱入してきた。

「え、マジで? マジでそんな事出来んの? 良かった~、帰れなくなったらどうしようってめっちゃ焦っちゃったっての」

キラキラと目を輝かせながらレジーナを見遣りつつ、心底安心したように息を吐くマナ。

「ええ、出来ますよ。それでは今直ぐにでも…」

「あら、折角こうしてお会いできたのにもうお別れなんて、ちょっと寂しいじゃないですか。…あ、そういえば先程までレジーナとお茶していたんです。良ければ、貴方達も如何ですか? 皆さんでお茶した方が、きっと楽しいですよ」

レジーナの言葉を遮る様にして、身を乗り出してきたのはエレナだ。
ほんわかと、まるで綿菓子のように甘い笑顔を浮かべながら。

一瞬ぽかんとするマナとレジーナであったが、唯一違う反応をする者がいた。
…そう、リネットだ。

「あらあら、お茶だなんて素敵ですわ~! 私達がお邪魔しても、本当に宜しいんですの?」

「ええ、勿論ですよ。それに、レジーナが淹れてくれるお茶は本当に美味しいんですよ」

「そうなんですの? きゃーっ楽しみですわっ! ねぇ、マナも勿論一緒にお茶しますわよね?」

手を組みながら完全に暴走モードに突入しているらしい。
目をキラキラと輝かせながら、勝手にどんどん話を進めていくばかり。
流石にこの暴走っぷりには、マナもどうにもならないと判断したらしく半ば諦め気味に、

「…へ? あ、あたし? あたしはぁ~…帰りたいっちゃ帰りたいけど、ちょっとくらいの寄り道ならまぁいっかな~とか」

「本当ですの? じゃあ決まりですわね!」

待ってましたと言わんばかりに捲し立てて、にこにこと満面の笑みを浮かべるリネット。
エレナもリネットの反応には純粋に嬉しさを感じているらしく、つられるように柔らかな微笑みを零した。

「ふふっ、こんなに喜んで貰えて、提案した甲斐があるってものです。…さ、レジーナも一緒に帰りましょう? …あ、4人でお茶しても大丈夫ですよね?」

今更レジーナの意見を聞きそびれていた…と思い、恐る恐る彼女を見遣りながら問い掛けるエレナ。
すると、クスクスと口元に笑みを零しながら、

「勿論ですよ。ゆっくりお茶をしてのんびりしてから帰っても、遅くはありませんからね」

時の塔に向かう道中、そういえば互いに名前さえ知らなかった事に今更気づいた一同は遅ればせながらの自己紹介を行う。
そして、4人の女性達の賑やかなお茶会は、その後日が暮れるまで延々と繰り広げられたのであった。


END.
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