SILENT NIGHTより。キリーとマルロニの出会いの話。 ※流血、暴力表現あり。閲覧注意!!
「Bloody cat?」
「ああ、血を好む黒猫だ」
「ふーん・・・・・・」
「おい・・・真剣に聞けよ・・・」
「聞いてんよ」
「今回お前には、大事な取引に立ち会ってもらう」
「・・・・・・なんで下っ端の俺が?」
「お前そこそこ強いだろう?ボス直々のご指名だ。気ィ抜くなよ」
「・・・・・・・・・・もしかして、いやもしかしなくても、その『Bloody cat』とやらに遭遇したら、俺に戦わせるつもりか?」
「そういうことだ」
「はん!!要するに捨石だろ?はっきり言えやいいのによ」
「マルロニ・・・・・口の利き方には気をつけろ・・・・長生きしたかったらな・・・・・」
・・・・・・・ほんの数日前、仲間と交わした会話を思い起こしながら、今現在目の前にいる少女を眺める。
取引当日、現場に向かうボスに同行して仲間数人と車に乗り込んだ・・・・・・まではよかった。走り出してたった数分の内に車は大破し、それなりに手練と言われた仲間はすべて倒された。
ボスはどうしたかというと・・・・・・取引の品物と一緒に一目散に逃げた。全く、呆れてものもいえない。
「あら・・・・あなた一人?」
「ああ、そのようだな。あんたが『Bloody cat』かい?」
「?・・・・・・・ああ、そう呼んでる人もいるわ」
年の頃は17、8歳だろうか。透けるような白い肌、地面に付きそうな長い黒髪。
黒いコートに黒いブーツ、そしてマルロニを見つめる双眼は鮮血を思わせる紅。
とても美しい少女だ。たしかに美しいのだが表情が乏しく、彼女の思惑をその表情から推し量るのは無謀というものだ。
「で?なんで俺は君に殺気を向けられてんだ?」
「なんで?あなたが一番わかってるんじゃない?」
「は?いやわかんねーよ!!」
「・・・・・・さあ、おしゃべりはそのくらいにして。始めましょうか・・・・・死合いを、ね」
少女はそう言うのとほぼ同時に、一瞬でマルロニの懐に飛び込む。
(は・・・・早い!!)
あまりの素早さに構えが遅れた。・・・・・・・と、次の瞬間
バキィ!!!!
マルロニの左頬を少女の右ストレートが捉えた。衝撃で2、3歩後ずさりなんとか踏ん張る。
殴られた頬は痛いというより熱い。口の中に感じるかすかな鉄の味・・・・・・どうやら口内がきれたようだ。一方の少女は平然とした顔でマルロニを見つめる。無表情な感情を殺したその顔に戦慄を覚える。
(やれやれ・・・・・とんでもない奴とやりあうことになっちまったな・・・・)
マルロニは自分の体術に自信があった。今までだって負けたことはないし、驚異を感じることもなかった。しかし・・・・・・今回は正直、勝てるかどうかどころか命の危険をビンビン感じる。
初めて心のそこから(逃げたい)と思った。
しばらく黙ってにらみ合っていると、少女が再び構えに入った。そして・・・・・・
ガス!!!バキン!!!!!
蹴りと拳が嵐のようにマルロニに襲いかかる。
「く・・・・・・」
マルロニは完全防御体制に入っていた。反撃しようにもスキがなさすぎて、文字通り手も足もでない。
「どうしたの?きたら?」
「・・・・・・はは、冗談。無理に決まってんだろうが!!」
「無理?・・・・・・やられっぱなしじゃつまらないでしょう?」
「・・・・・お前、表情動かさねえで随分無茶苦茶言いやがるな・・・・・。ちっ・・仕方ねえか・・・」
マルロニは、僅かに出来たスキを見計らい、地面を蹴り間合いを空け素早く懐に手を入れた。
ズガーン・・・・・・・
その瞬間、少女の腕から鮮やかな紅・・・・・・・・・・・・マルロニが拳銃を撃ったのだ。
マルロニは拳銃を構えたまま呼吸を整える。
一方、少女は撃たれたことに少しも動じていないようで、傷口を押さえもせずにマルロニを見る。
「・・・・動くなよ・・・。もう撃たれたかないだろ?」
「・・・・・・・・・・・」
「もう終いだ。お嬢ちゃん」
「・・・・・・・・・・・」
次第に自分に向けられた殺気が薄れていき、マルロニはホッとした・・・・・・・・・・・が、
「ふうん・・・・・・オシマイ?・・・私が?・・・・・・・・・・笑えない冗談ね・・・・・・」
「・・・・・・・・・!!!」
「どっちがオシマイか・・・・教えてあげる・・・・・」
何とも言えない異様な雰囲気にマルロニは息をのんだ。少女はおもむろに背中に背負っている剣の柄に手を添えた・・・・・・。
こぉおぉおおおおおおおおおお・・・・・・
先ほどとは桁外れな、凄まじい殺気。その殺気だけで死んでしまいそうだ。
マルロニはガクガクとする膝を叱咤し、少女を見据える。と、次の瞬間、
ざしゅっ・・・・・・・・・
ぶしゅううううううううううう
背中から紅い赤い血が吹き出した。
「く、ぐあああああああああああ・・・・」
マルロニの絶叫がこだまする。
音速の速さで彼の背後に移動した少女が、身の丈ほどもある剣で袈裟切りしたのだ。
外傷のショックと痛みで、マルロニは膝から崩れるように倒れる。
朦朧とし、薄れていきそうな意識の中、少女を見遣ると、少女はやはり無表情でマルロニを見下ろす。しかし、紅かった眼は闇に浮かび上がる金色。まるで《猫》だ。マルロニは声を絞り出し、少女に問う。
「お・・・・・前・・何もんなんだ・・・・?」
「・・・・・・・・・・キルエリッヒ・・・・」
「キ、キルエリッヒ・・・・そ、か・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
キルエリッヒと名乗った少女は、剣を鞘に戻すと何も言わず闇に溶けるようにいなくなった。
マルロニは、キルエリッヒが去っていった場所をしばらく眺めたあと、意識を手放した。
マルロニはその後、たまたま通りかかったアンジェラに助けられる。長い入院と治療を続け、痕は残ったもののようやく傷が癒え、これを機にマルロニは組織を脱退した。
さて、ボスはどうなったかというと・・・・・・キリーがマルロニに重傷を負わせた後、追跡し仕留めた。頭がいなくなった組織は壊滅を余儀なくされたのだ・・・。
************************
ここはBAR《ハーフムーン》。マルロニはカウンターに座り、グラスを傾ける。
あれから10年以上たち、あの時自分を助けてくれたアンジェラとめでたく結ばれた。
そして・・・・・・・・・・・
隣には、あの黒猫がいる。
いまこの状況に心地よさを感じながら、マルロニは不思議な縁を感じるのだ。
もし、自分がこの黒猫に負けなかったら・・・・・。
もし、キリーと戦わず、逃げていたら・・・・・・。
もし、自分が取引に同伴していなかったら・・・・・・・。
もし、組織に所属していなかったら・・・・・・敗北を知らないまま自分の実力を過信し、もっと悲惨な最後を迎えていたかもしれないし、なにより・・・・・・アンジェラに出会うことすら出来なかった。
「ふ・・・・・・・」
「なに・・・・・・マルロニ」
「いや、昔を思い出した」
「ふ~ん・・・・・」
「なかなか壮絶だったよなあ・・・・・」
「・・・・・・・・謝らないわよ・・・・?」
「はいはい・・・・・・別に謝って欲しいわけじゃねえから(笑)」
「・・・・・・ニヤニヤ、気持ち悪いわね・・・・・」
「ひどっ!!!!!」
今だから思う。
この黒猫は死の使いでも、血を好む悪魔でもない・・・・・思い上がった愚か者の目を覚まさせる存在なのかもしれない。(少々やりすぎるきらいもあるが・・・・)
(本当に不思議な奴だ・・・・・・・)
訝しげに横目で見るキリーの視線を苦笑いで受け流し、マルロニはグラスのウイスキーを飲み干した。
血に飢えた猫は、獲物を求め闇夜を駆ける・・・・・・
「Bloody cat?」
「ああ、血を好む黒猫だ」
「ふーん・・・・・・」
「おい・・・真剣に聞けよ・・・」
「聞いてんよ」
「今回お前には、大事な取引に立ち会ってもらう」
「・・・・・・なんで下っ端の俺が?」
「お前そこそこ強いだろう?ボス直々のご指名だ。気ィ抜くなよ」
「・・・・・・・・・・もしかして、いやもしかしなくても、その『Bloody cat』とやらに遭遇したら、俺に戦わせるつもりか?」
「そういうことだ」
「はん!!要するに捨石だろ?はっきり言えやいいのによ」
「マルロニ・・・・・口の利き方には気をつけろ・・・・長生きしたかったらな・・・・・」
マフィアと黒猫
・・・・・・・ほんの数日前、仲間と交わした会話を思い起こしながら、今現在目の前にいる少女を眺める。
取引当日、現場に向かうボスに同行して仲間数人と車に乗り込んだ・・・・・・まではよかった。走り出してたった数分の内に車は大破し、それなりに手練と言われた仲間はすべて倒された。
ボスはどうしたかというと・・・・・・取引の品物と一緒に一目散に逃げた。全く、呆れてものもいえない。
「あら・・・・あなた一人?」
「ああ、そのようだな。あんたが『Bloody cat』かい?」
「?・・・・・・・ああ、そう呼んでる人もいるわ」
年の頃は17、8歳だろうか。透けるような白い肌、地面に付きそうな長い黒髪。
黒いコートに黒いブーツ、そしてマルロニを見つめる双眼は鮮血を思わせる紅。
とても美しい少女だ。たしかに美しいのだが表情が乏しく、彼女の思惑をその表情から推し量るのは無謀というものだ。
「で?なんで俺は君に殺気を向けられてんだ?」
「なんで?あなたが一番わかってるんじゃない?」
「は?いやわかんねーよ!!」
「・・・・・・さあ、おしゃべりはそのくらいにして。始めましょうか・・・・・死合いを、ね」
少女はそう言うのとほぼ同時に、一瞬でマルロニの懐に飛び込む。
(は・・・・早い!!)
あまりの素早さに構えが遅れた。・・・・・・・と、次の瞬間
バキィ!!!!
マルロニの左頬を少女の右ストレートが捉えた。衝撃で2、3歩後ずさりなんとか踏ん張る。
殴られた頬は痛いというより熱い。口の中に感じるかすかな鉄の味・・・・・・どうやら口内がきれたようだ。一方の少女は平然とした顔でマルロニを見つめる。無表情な感情を殺したその顔に戦慄を覚える。
(やれやれ・・・・・とんでもない奴とやりあうことになっちまったな・・・・)
マルロニは自分の体術に自信があった。今までだって負けたことはないし、驚異を感じることもなかった。しかし・・・・・・今回は正直、勝てるかどうかどころか命の危険をビンビン感じる。
初めて心のそこから(逃げたい)と思った。
しばらく黙ってにらみ合っていると、少女が再び構えに入った。そして・・・・・・
ガス!!!バキン!!!!!
蹴りと拳が嵐のようにマルロニに襲いかかる。
「く・・・・・・」
マルロニは完全防御体制に入っていた。反撃しようにもスキがなさすぎて、文字通り手も足もでない。
「どうしたの?きたら?」
「・・・・・・はは、冗談。無理に決まってんだろうが!!」
「無理?・・・・・・やられっぱなしじゃつまらないでしょう?」
「・・・・・お前、表情動かさねえで随分無茶苦茶言いやがるな・・・・・。ちっ・・仕方ねえか・・・」
マルロニは、僅かに出来たスキを見計らい、地面を蹴り間合いを空け素早く懐に手を入れた。
ズガーン・・・・・・・
その瞬間、少女の腕から鮮やかな紅・・・・・・・・・・・・マルロニが拳銃を撃ったのだ。
マルロニは拳銃を構えたまま呼吸を整える。
一方、少女は撃たれたことに少しも動じていないようで、傷口を押さえもせずにマルロニを見る。
「・・・・動くなよ・・・。もう撃たれたかないだろ?」
「・・・・・・・・・・・」
「もう終いだ。お嬢ちゃん」
「・・・・・・・・・・・」
次第に自分に向けられた殺気が薄れていき、マルロニはホッとした・・・・・・・・・・・が、
「ふうん・・・・・・オシマイ?・・・私が?・・・・・・・・・・笑えない冗談ね・・・・・・」
「・・・・・・・・・!!!」
「どっちがオシマイか・・・・教えてあげる・・・・・」
何とも言えない異様な雰囲気にマルロニは息をのんだ。少女はおもむろに背中に背負っている剣の柄に手を添えた・・・・・・。
こぉおぉおおおおおおおおおお・・・・・・
先ほどとは桁外れな、凄まじい殺気。その殺気だけで死んでしまいそうだ。
マルロニはガクガクとする膝を叱咤し、少女を見据える。と、次の瞬間、
ざしゅっ・・・・・・・・・
ぶしゅううううううううううう
背中から紅い赤い血が吹き出した。
「く、ぐあああああああああああ・・・・」
マルロニの絶叫がこだまする。
音速の速さで彼の背後に移動した少女が、身の丈ほどもある剣で袈裟切りしたのだ。
外傷のショックと痛みで、マルロニは膝から崩れるように倒れる。
朦朧とし、薄れていきそうな意識の中、少女を見遣ると、少女はやはり無表情でマルロニを見下ろす。しかし、紅かった眼は闇に浮かび上がる金色。まるで《猫》だ。マルロニは声を絞り出し、少女に問う。
「お・・・・・前・・何もんなんだ・・・・?」
「・・・・・・・・・・キルエリッヒ・・・・」
「キ、キルエリッヒ・・・・そ、か・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
キルエリッヒと名乗った少女は、剣を鞘に戻すと何も言わず闇に溶けるようにいなくなった。
マルロニは、キルエリッヒが去っていった場所をしばらく眺めたあと、意識を手放した。
マルロニはその後、たまたま通りかかったアンジェラに助けられる。長い入院と治療を続け、痕は残ったもののようやく傷が癒え、これを機にマルロニは組織を脱退した。
さて、ボスはどうなったかというと・・・・・・キリーがマルロニに重傷を負わせた後、追跡し仕留めた。頭がいなくなった組織は壊滅を余儀なくされたのだ・・・。
************************
ここはBAR《ハーフムーン》。マルロニはカウンターに座り、グラスを傾ける。
あれから10年以上たち、あの時自分を助けてくれたアンジェラとめでたく結ばれた。
そして・・・・・・・・・・・
隣には、あの黒猫がいる。
いまこの状況に心地よさを感じながら、マルロニは不思議な縁を感じるのだ。
もし、自分がこの黒猫に負けなかったら・・・・・。
もし、キリーと戦わず、逃げていたら・・・・・・。
もし、自分が取引に同伴していなかったら・・・・・・・。
もし、組織に所属していなかったら・・・・・・敗北を知らないまま自分の実力を過信し、もっと悲惨な最後を迎えていたかもしれないし、なにより・・・・・・アンジェラに出会うことすら出来なかった。
「ふ・・・・・・・」
「なに・・・・・・マルロニ」
「いや、昔を思い出した」
「ふ~ん・・・・・」
「なかなか壮絶だったよなあ・・・・・」
「・・・・・・・・謝らないわよ・・・・?」
「はいはい・・・・・・別に謝って欲しいわけじゃねえから(笑)」
「・・・・・・ニヤニヤ、気持ち悪いわね・・・・・」
「ひどっ!!!!!」
今だから思う。
この黒猫は死の使いでも、血を好む悪魔でもない・・・・・思い上がった愚か者の目を覚まさせる存在なのかもしれない。(少々やりすぎるきらいもあるが・・・・)
(本当に不思議な奴だ・・・・・・・)
訝しげに横目で見るキリーの視線を苦笑いで受け流し、マルロニはグラスのウイスキーを飲み干した。
血に飢えた猫は、獲物を求め闇夜を駆ける・・・・・・
キリーはたぶん本当にマルロニを仕留めようと思った訳じゃない…と私は思いたい……;;;
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