―雪菜の場合―





寒さも本格的になり、マフラーや手袋が手放せない今日この頃、雪菜は一人商店街を歩いていた。

「う~…どうしよう;」

先程から同じ言葉を呟いている雪菜。実は大好きな蓮汰にあげるプレゼントで悩んでいるのだ。
手作りチョコレートにしようかなと思ったが、よくよく考えてみれば、自分は料理が苦手。毎年大惨事になり、母親に手伝ってもらっている始末。ならば買えばいいと思うのだが、雪菜はどうしても手作りをあげたかった。

「どうしよう…あと少しなのに……」

親友の柚希に頼もうと思ったが、チョコひとつにわざわざ隣町から来てもらうのは申し訳なさ過ぎる。それに今、両親は夫婦水入らずで旅行中。よって母親にも頼る事は出来ない。

「はあ~…」

雪菜が一際大きなため息を付くと、

「あんまりため息ばっかり吐いてたら、幸せが逃げるよ」

ふいに後ろから声がした。驚いて振り向くと、

「あ、ゆ、柚希!」

助けて欲しいと思っていた人物、柚希がいた。

「あ、どうしてここに?」
「うん、用事があって。でも折角近くまで来たから、雪菜に会いに行こうかなって」

これ、お土産のケーキ!と包みを差出し笑う柚希に、雪菜は思わず抱き着く。

「ど、どうしたの?」
「お願い柚希!!手作りチョコの作り方教えて!」
「チョコ?」

キョトンとしている柚希に、雪菜は半ベソをかきながら縋り付いた。




「じゃあ、まずチョコレートを溶かそう!」
「はい!先生!」

所変わって、ここは雪菜の家。事情を聞いた柚希は快く引き受け、手作りチョコを指南する事になった。と、言ってもあまり難しいのはハードルが高いので、一番簡単なハート型チョコを作る事にした。

「チョコはそのまま火にかけちゃダメだよ。湯煎って知ってる?」
「ううん」
「それじゃ、お手本見せるね」

柚希は深めの鍋にお湯を沸かし、ブロックチョコを細かく刻みボールに入れる。それを沸いた鍋の上に乗せ、ゴムべラで丁寧に混ぜながら溶かしていく。雪菜は柚希の手元を真剣に見つめる。

「それで、この溶けたチョコを型に流し込むよ。熱いから火傷しないようにね!」
溶けたチョコをゆっくりと型に流し入れる。そして、へらで平らにならし、粗熱を取ってから、冷蔵庫に入れる。

「後は固まるのを待つだけ。簡単でしょ?」
「うん、私に出来そう!」
「良かった!あ、チョコを溶かす時、お湯が入らないように、後、冷蔵庫に入れるときは必ず少し冷めてからね。これさえ気をつければ失敗しないよ」
「分かった!あ、アレンジとかは?どうしたらいいかな…」
「うーん。アーモンドスライスが一番オススメかな。パリパリしてて美味しいし。もし、入れるときはチョコを流し込む前に型に入れておくといいよ」
「うん、分かったよ。やってみる!!」
「頑張ってね!あ、ケーキ食べようよ!」
「そうだね!私お茶煎れるね!」

そのあとは、ケーキを食べながらおしゃべりをし、夕闇が迫る頃、柚希は帰っていった。




2/14…ついにこの日が来た。雪菜が抱えている、綺麗にラッピングされた箱には、柚希に教わり何度も練習した手作りチョコ。はたして蓮汰は喜んでくれるのだろうか………。不安と期待を抱えつつ待ち合わせの場所に向かう。
駅前に着き、辺りを見回すと…………いた。端正な顔立ちに柔らかい栗色の少し癖のある髪。……やっぱり蓮汰は王子様だと雪菜は思った。胸に抱えた箱をぎゅっと抱きしめ、愛しい彼の元へ向かう。


「蓮ちゃん!Happy Valentine!!」



END
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。