3粒目
……もう取り戻せない…
……もう戻れない………
Pure rain
―雪菜視点―
…なんでこんな事になったのか、自分でも解らない。
だって私は普通に生活していたはず。
…………原因はおそらく彼女だろう。
「あんたさ、鬱陶しいのよね」
「……え?」
「いっつも蓮汰くんに引っ付いてさ、何?あんた彼の何なの?」
その日も、いつものように学校に来て授業に出て……放課後が来て一日が終わるはずだった。
帰ろうと荷物を纏めていると一人の女子生徒に捕まったのだ。
彼女は愛莉ちゃん。学園のアイドルと呼ばれている美少女だった。
「な、何って幼なじみだけど…」
「ふーん。別に付き合ってる訳じゃないんでしょ?」
「え……う、うん」
「もうさ、彼に付き纏わないでくれる?」
「……あ、の…」
「目障りなのよ!!」
話を聞いていると、どうやら幼なじみの蓮ちゃん……蓮汰が好きなようで、私が蓮ちゃんといるのが気に入らないらしい。
蓮ちゃんとは幼稚園に上がる前から、家族ぐるみで付き合ってる。家が隣同士というのもあるけど、何よりも私は蓮ちゃんが好きだから。
蓮ちゃんはカッコイイ。俗にいうイケメンだ。その上、サッカー部のレギュラーでエース。地味でなんの取り柄もない私とは、不釣り合いな人。でも……これは自惚れだと言われたら、それまでになってしまうけど、蓮ちゃんは私を大切にしてくれている。
ただ、幼なじみだからというだけなのか、それとも………。
そう思い耽っていると、なんの返事もない私に苛立った愛莉ちゃんが、私の髪を鷲づかみにして引っ張ってきた。
「っいたいっ!!」
「返事くらいしなさいよ!!分かった?二度と蓮汰くんの傍に寄らないで!」
「……っ!!」
―ドンっガタガタ!!―
私は突き飛ばされ、机を倒しながら床に転がった。
愛莉ちゃんはふんっ鼻で笑うとツカツカと教室を出ていった。
私は、ただ呆然としたまま床に座り込んでいた。
その日から、私は蓮ちゃんを避けるようになっていた。一番の救いは同じクラスではなかった事。
朝も、毎日蓮ちゃんが迎えに来てくれた時間より少し早く時間をずらして登校し、放課後もホームルームが終わるとすぐに帰る……そんな日々が暫く続いた。
でも、さすがに蓮ちゃんもおかしいと思ったのか、放課後に捕まってしまった。
「雪菜…最近、俺の事避けてねぇか?」
「……そんな事……ないよ」
「嘘だな。なあ、どうしてだよ?俺なんかしたか?朝も迎えに行ってもいないし、放課後だって」
蓮ちゃんの整った顔が険しくなる。本気で心配してくれている時の顔……。嬉しかった。でも…………
「れ、蓮ちゃん、私たち別に付き合ってる訳じゃないでしょ?」
「そ、それは……」
「……止めて、もう。私、自分の事は自分でなんとかするから……」
「………雪菜…?」
言いたくない。こんな事。でも、これ以上蓮ちゃんといたら………
「もう、私に構わないで…」
私はそう言い捨てると、蓮ちゃんの脇をすり抜け走った。顔なんて見れない。きっと酷い奴だと軽蔑してるに決まってる。
「これでいいんだ、これで。ゴメンね、蓮ちゃん……」
その直後、私は校門から出た途端に数人の女子に囲まれ、無理矢理バスに乗せられて隣町まで連れていかれた。
外はいつのまにか雨が降っていた。公園に来た頃には土砂降りで、まるで私のかわりに泣いているようだった。そして草むらに引きずりこまれた。
「ちょっとあんた!愛莉と蓮汰くんの邪魔しないでよ!!」
「愛莉、すごく傷ついて…泣いてたのよ?あんたに蓮汰くんを奪われたって!!」
「人の好きな人を奪うなんて最低ね!」
「ホント意地汚い子!」
浴びせられる罵倒の言葉。愛莉ちゃんが泣いていた?どうして?
―泣きたいのは私なのに―
スカートをギュッと握り、涙を堪えていると、
―バシッ―
左の頬に痛みが走った。
叩かれたと認識したとき、
―バササササ―
荷物を取り上げられ、雨にぬかるんだ地面に投げ捨てられる。女子たちは私を突き飛ばし、『最低』とか『死んじゃえばいいのに』とかいいながら去っていった。何もいう気にもなれず、泣くに泣けずにただ呆然と、散らばった鞄やノートを見つめていた。
すると、前に人の気配がした。そして、その人は落ちいるノートや教科書を拾っていた。ふと顔を上げてみると、ピンクブラウンのお下げ髪の目の青い女の子と目が合った。
「あ、…余計な事だったかな?」
眉尻を下げ、申し訳なさそうに聞いてきた。お礼を言ったほうがいいのかもしれないが、今の私にはそんな気力はなかった。なので、左右に首を振り自分も拾いはじめた。
彼女が拾ってくれた物を、無理矢理鞄に詰め込み、逃げるように立ち去ろうとした。だって、体中泥だらけでぐしょぐしょ。しかも、先程の会話を聞かれた可能性もある。
―この子も私を…―
怖くなってしまったのだ。もう、誰も信じられない。すると、
「あ、待って!」
「!!え…」
腕を掴まれ引き止められ、振り向いた。自分の顔が、驚きと恐怖で引き攣っているのが分かる。対するお下げの女の子はそんな私を見て、少しの間固まっていたけど、表情をふっと和らげ、
「ウチすぐ近くなの。寄っていって!!」
「……え」
驚いた。まさかそんな言葉を掛けてくれるなんて、微塵も思っていなかったから。私が戸惑っていると、
「そんなずぶ濡れのままじゃ風邪引いちゃう。ウチで暖まって行って」
……ああ、私はなんて馬鹿なんだろう。この子はあの子たちとは違うのに。
「……いいの?」
恐る恐る聞く私に、その子はお日様みたいに暖かい笑顔で、
「うん!!」
と言ってくれた。
「あ、りがとう…」
そのあと、私は彼女の傘に入れてもらい、彼女の家にお邪魔させて貰う事になった。
無くした物はとてもとても大きくて。取り戻す事は難しいけど、
でも私はこれから、かけがえのないものを手に入れることになる。
そんな予感がしたんだ。
Pure rain
―無くしたものを悔やむより、戻れない事を嘆くより…
諦め、心が折れてしまうほど―
~無くしたモノは大きくて~
……もう取り戻せない…
……もう戻れない………
Pure rain
―雪菜視点―
…なんでこんな事になったのか、自分でも解らない。
だって私は普通に生活していたはず。
…………原因はおそらく彼女だろう。
「あんたさ、鬱陶しいのよね」
「……え?」
「いっつも蓮汰くんに引っ付いてさ、何?あんた彼の何なの?」
その日も、いつものように学校に来て授業に出て……放課後が来て一日が終わるはずだった。
帰ろうと荷物を纏めていると一人の女子生徒に捕まったのだ。
彼女は愛莉ちゃん。学園のアイドルと呼ばれている美少女だった。
「な、何って幼なじみだけど…」
「ふーん。別に付き合ってる訳じゃないんでしょ?」
「え……う、うん」
「もうさ、彼に付き纏わないでくれる?」
「……あ、の…」
「目障りなのよ!!」
話を聞いていると、どうやら幼なじみの蓮ちゃん……蓮汰が好きなようで、私が蓮ちゃんといるのが気に入らないらしい。
蓮ちゃんとは幼稚園に上がる前から、家族ぐるみで付き合ってる。家が隣同士というのもあるけど、何よりも私は蓮ちゃんが好きだから。
蓮ちゃんはカッコイイ。俗にいうイケメンだ。その上、サッカー部のレギュラーでエース。地味でなんの取り柄もない私とは、不釣り合いな人。でも……これは自惚れだと言われたら、それまでになってしまうけど、蓮ちゃんは私を大切にしてくれている。
ただ、幼なじみだからというだけなのか、それとも………。
そう思い耽っていると、なんの返事もない私に苛立った愛莉ちゃんが、私の髪を鷲づかみにして引っ張ってきた。
「っいたいっ!!」
「返事くらいしなさいよ!!分かった?二度と蓮汰くんの傍に寄らないで!」
「……っ!!」
―ドンっガタガタ!!―
私は突き飛ばされ、机を倒しながら床に転がった。
愛莉ちゃんはふんっ鼻で笑うとツカツカと教室を出ていった。
私は、ただ呆然としたまま床に座り込んでいた。
その日から、私は蓮ちゃんを避けるようになっていた。一番の救いは同じクラスではなかった事。
朝も、毎日蓮ちゃんが迎えに来てくれた時間より少し早く時間をずらして登校し、放課後もホームルームが終わるとすぐに帰る……そんな日々が暫く続いた。
でも、さすがに蓮ちゃんもおかしいと思ったのか、放課後に捕まってしまった。
「雪菜…最近、俺の事避けてねぇか?」
「……そんな事……ないよ」
「嘘だな。なあ、どうしてだよ?俺なんかしたか?朝も迎えに行ってもいないし、放課後だって」
蓮ちゃんの整った顔が険しくなる。本気で心配してくれている時の顔……。嬉しかった。でも…………
「れ、蓮ちゃん、私たち別に付き合ってる訳じゃないでしょ?」
「そ、それは……」
「……止めて、もう。私、自分の事は自分でなんとかするから……」
「………雪菜…?」
言いたくない。こんな事。でも、これ以上蓮ちゃんといたら………
「もう、私に構わないで…」
私はそう言い捨てると、蓮ちゃんの脇をすり抜け走った。顔なんて見れない。きっと酷い奴だと軽蔑してるに決まってる。
「これでいいんだ、これで。ゴメンね、蓮ちゃん……」
その直後、私は校門から出た途端に数人の女子に囲まれ、無理矢理バスに乗せられて隣町まで連れていかれた。
外はいつのまにか雨が降っていた。公園に来た頃には土砂降りで、まるで私のかわりに泣いているようだった。そして草むらに引きずりこまれた。
「ちょっとあんた!愛莉と蓮汰くんの邪魔しないでよ!!」
「愛莉、すごく傷ついて…泣いてたのよ?あんたに蓮汰くんを奪われたって!!」
「人の好きな人を奪うなんて最低ね!」
「ホント意地汚い子!」
浴びせられる罵倒の言葉。愛莉ちゃんが泣いていた?どうして?
―泣きたいのは私なのに―
スカートをギュッと握り、涙を堪えていると、
―バシッ―
左の頬に痛みが走った。
叩かれたと認識したとき、
―バササササ―
荷物を取り上げられ、雨にぬかるんだ地面に投げ捨てられる。女子たちは私を突き飛ばし、『最低』とか『死んじゃえばいいのに』とかいいながら去っていった。何もいう気にもなれず、泣くに泣けずにただ呆然と、散らばった鞄やノートを見つめていた。
すると、前に人の気配がした。そして、その人は落ちいるノートや教科書を拾っていた。ふと顔を上げてみると、ピンクブラウンのお下げ髪の目の青い女の子と目が合った。
「あ、…余計な事だったかな?」
眉尻を下げ、申し訳なさそうに聞いてきた。お礼を言ったほうがいいのかもしれないが、今の私にはそんな気力はなかった。なので、左右に首を振り自分も拾いはじめた。
彼女が拾ってくれた物を、無理矢理鞄に詰め込み、逃げるように立ち去ろうとした。だって、体中泥だらけでぐしょぐしょ。しかも、先程の会話を聞かれた可能性もある。
―この子も私を…―
怖くなってしまったのだ。もう、誰も信じられない。すると、
「あ、待って!」
「!!え…」
腕を掴まれ引き止められ、振り向いた。自分の顔が、驚きと恐怖で引き攣っているのが分かる。対するお下げの女の子はそんな私を見て、少しの間固まっていたけど、表情をふっと和らげ、
「ウチすぐ近くなの。寄っていって!!」
「……え」
驚いた。まさかそんな言葉を掛けてくれるなんて、微塵も思っていなかったから。私が戸惑っていると、
「そんなずぶ濡れのままじゃ風邪引いちゃう。ウチで暖まって行って」
……ああ、私はなんて馬鹿なんだろう。この子はあの子たちとは違うのに。
「……いいの?」
恐る恐る聞く私に、その子はお日様みたいに暖かい笑顔で、
「うん!!」
と言ってくれた。
「あ、りがとう…」
そのあと、私は彼女の傘に入れてもらい、彼女の家にお邪魔させて貰う事になった。
無くした物はとてもとても大きくて。取り戻す事は難しいけど、
でも私はこれから、かけがえのないものを手に入れることになる。
そんな予感がしたんだ。
Pure rain
―無くしたものを悔やむより、戻れない事を嘆くより…
諦め、心が折れてしまうほど―
~無くしたモノは大きくて~
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