Episode4~件の男~



~Episode4 件の男~


マルロニと別れ、街の中心部まで来たキリーは、人混みを摺り抜けながら街の人達の話に聞き耳を立てる。
街の中心であり、テングルで最も人が集まる場所『セルオナ広場』。
だだっ広い敷地には、沢山の出店が並び、威勢のいい呼び込みの声に混じり、『噂』も飛び交う。

実はキリー、人混みは大の苦手。市場や商店街などは必ず裏路地から移動する。それは、行きつけの店である『ハーフムーン』も同じで、わざわざ人の少ない時間帯を選ぶのだ。
そこまで人混みが嫌いなキリーがなぜ、こんな人のごった返している場所に、自ら赴いたのか。


…アンジェラが話していた、『がっしりした男』の情報を掴んだからだ。

この小さな街にも、『Ripper』の被害者の情報は来ているらしく、切り裂き魔の正体はその男なのでは…?という噂が流れているのだ。

あくまで噂だが、今はそれに賭けるしかない。
相手は人間とはいえ、あの残虐な殺しをする男だ。手加減は無用だろう。もし、切り裂き魔で無くても、何か握っているのなら…。

「ま、彼が私と話をする気があれば…だけど」

最悪、相手が襲い掛かってくる可能性はあるが、如何せん、キリーは『兵器』だ。相手がただのサイコパスならば返り討ちにすることは容易だろう。

「なんにせよ、その男を見つけなくては…ね………ん?」

辺りを見回しながら呟くキリーの視界に、何かが入り込んできた。

―2メートルに届く身長に、スキンヘッド。
そして、がっしりとした筋肉質な体型。
路地の近くに立ち、流れる人混みを眺めている。

……件の男だった。

キリーは赤い眼を細め、男を凝視する。すると、サングラスを掛けており、どこを見ているのかは分からないが、キリーの存在に気付いたのか、少し顔を上げる。

「………?」

その瞬間、キリーは違和感を覚えた。『視線』は間違いなく自分に向けられている。…はずなのだが、その『視線』を全く感じないのだ。
人は他人に視線を向けられると、なんとなくだが、肌に刺さるような、擽られるような感じを覚える。
しかし、その男からはそれが無いのだ。

「………気のせいだったかしら。……まあいいわ。聞きたい事が山ほどある事だし」

そう呟くと、キリーは見失わないよう、男から視線を外さず人混みを掻き分け、歩いて行った。



つづく…
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