Episode7~接触~



「ん?なんだい?お嬢さん、俺に何か用か?」
「…聞きたい事があるのよ。来て…」

キリーは巨漢の青年を路地へと連れていく。
別にどうしようとは思っていない。ただ、少しでも情報が欲しかったし、それに言葉を交わした限りでは、彼は別段普通で、サイコパスには見えなかった。
もしかしたら、自分の知らない情報を握っているかもしれない……そんな期待をしながら、キリーは声を掛けた。一方の彼は、一瞬面食らったようだったが、無言で頷き、キリーの後に続いた。

しばらく路地を進み、少し拓けた所に着くと、キリーは彼に振り返り、切り出した。

「貴方、切り裂き魔を知ってる?」
「!!………ああ。何故そんな事を聞く?」
「アルマの花売り………彼女が切り裂き魔に襲われたのも……?」
「勿論知ってる。………お嬢さん、何が言いたいんだ?」
「いつもここにいるのは、切り裂き魔を待伏せるため」
「…………」
「切り裂き魔の犯行時間は夜中だけど、なんでこんな時間から?」
「………じっとしていられないんだ…」
「…………ふぅん」

ここまで話して、キリーは確信した。
彼は『切り裂き魔』ではない。そして、

「アルマの花売り…彼女は貴女の知り合い?」
「…………ああ。大切な…人だった」
「そう……そして、貴方は切り裂き魔を探している…彼女の仇を討つため?」
「ああ、奴を許すわけにはいかないからな…」

ふと俯く男。サングラスのせいで表情は分からないが、きゅっと結ばれた口が彼の今の心情を表していた。
それを見たキリーは、彼を見据え本題に入る。

「実は、私も切り裂き魔を探しているのよ」
「……何故だ?」
「知り合いがさらわれたの。今はまだ無事みたいだけど、あまり時間が無いわ」
「!!……そうか。それは気の毒だが、俺は助けにはなれない」
「?何故?目的は一緒でしょ?何も掴めていないのも一緒」

キリーがそう言うと、彼はサングラスを取った。

「っ!!」

キリーは思わず息を飲んだ。サングラスの下にはあるはずの物がない。ただ一文字に切り付けられた後が生々しく残っていた。
そう、彼は……

「貴方、盲目だったの…?」
「ああ、切り裂き魔にやられた。もう何も見えない。それにやられた時、最後に見たのは黒いフードを被った人物だった……それだけしか情報はない。それにこんな盲目の俺では、君の足手まといになるだけだ…」

悪いなと脇をすり抜けようとする男の腕を、キリーは素早く掴んだ。男は驚いて振り返り立ち止まる。

「…悔しくない?知りたくない?誰が何のために、恋人を殺したのか…」
「っ!!そ、それは」
「……そして、なぜ貴方の目を奪ったのか……」
「………」

俯き黙り込む男にキリーはチラリと視線を向ける。

「手を貸して」
「しかし……俺は…」
「その体、軍人でしょう?実践で培った癖や身のこなしは、たとえ何年、何十年経とうと衰えない。そう……例え、視界を失ってもね。貴方にとって、目が見えないなんて大したハンデじゃない筈だわ」
「…………君は一体」
「何でそんな事が分かるんだって顔ね。私はキルエリッヒ……兵器よ。サンテロットの試験体であり、完全体」
「キルエ…リッヒ!!!……そうか、だからか…懐かしい匂いがしたのは……」

彼は、初めてキリーに会ったあの時、彼女に纏う空気を感じていた。懐かしい、そして……何度も命を晒し、闘った奴らの匂い……忘れるわけがない。
サンテロット壊滅後、自我の無い兵器は、すべて処分されたと聞いていたが、この目の前の少女が、完全体と呼ばれ恐れられた少女、キルエリッヒだったとは。

「まさかこんな所でお目に掛かれるとはな…」
「私が怖い?」
「……いや。君の纏う空気は緩やかで清々しい。恐れる必要はないさ」
「それはどうも……で?どうするの?」
「ん…………」

手を貸したい気持ちはある。だが、自分は一度切り裂き魔と接触しているのだ。いくら兵器とは言え、キリーは女性だ。どれ程の実力があるかは知らないが、自分と一緒にいることで、危険に晒したくない。
しかし、今のまま調査を続けても、見えないハンデを持つ自分が得られる情報は限られる。
モタモタしている内に、彼女の知り合いが殺されてしまったら………申し訳ないどころでは済まない。

……これ以上、犠牲を増やす訳にはいかないのだ。
きっと、エナもそう言う筈だ。

青年は決心したように頷くと、キリーに体を向ける。
「協力……させてくれ。もう…誰にも死んで欲しくない……俺と同じ思いをして欲しくないからな」
「感謝するわ。貴方、名前は?」
「あ、悪い。俺はハンス。よろしくな、キルエリッヒ」
「………キリーでいいわ。言いにくいでしょ?それにキルエリッヒって呼ぶ人は殆どいないから…」
「そうなのか?ほかにはなんて呼ばれてるんだ?」
「……黒猫とかBloody catとか」
「ぷ、はははは!!黒猫はまだしも『血塗れの猫』は酷いな」
「……?そう?」
「キリー、さっきも言ったが、君からは血生臭さは感じない。君は完全体なんだろう?自分をしっかり制御出来る筈だ。だから、俺は協力させてくれと言ったんだよ」
「っ!?わ、分かったから、もういいわ!!行きましょ!!時間が無いわ」
「ああ、行こうか」

思いがけない賛辞にキリーは思わず赤面し、ハンスの腕を引っ張る。目には見えない。だが、雰囲気や口調から照れているのが、何となくだが分かる。そんな黒猫の反応を密かに楽しみながら、ハンスはゆっくり確実に、真相に向かって足を進めた。




続く
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