『私は愛される為に生まれてきたの。お姫様は美香一人で十分』


《歪んだ姫》
美香Side




「美香は可愛いわね」

「きっと愛される為に生まれてきたんだよ」


…私は昔から、そう言われて育ってきた。欲しいものもなんでも手に入れてきた。その為の手段も習得した。ちょっと甘えた声を出して、目を潤ませ上目遣い。堕ちない男はいなかった。
転校する前の学園では、私はいつも羨望と憧れの的。自分の美貌を自覚していたし、何よりも楽しみがあった。

それは…人を陥れ、絶望に満ちた日常を与える……私にとってとても甘美で優越感に浸る行為だった。だって私が悲劇のヒロインになれば、皆が私を守ろうとしてくれるでしょ?こんな楽しい事はないわ……。

最初の玩具は、大人しそうな女子。確か…茜とか言ったわ。始業式の後、私は彼女を呼び出した。


「あんた邪魔なのよねぇ……消えて?」

「え…?いきなりそんな事言われても……」

「あ、そうだ!!私の玩具になってよ。楽しませてくれたら、赦してあげる」

「そ…そんな……ひどい……」

「つべこべ言わないでよっ!どブスが!!…さて、こんな事しちゃったら……クラスの子たちは、どんな反応するかな……」

手にしていたのは剃刀。それを自分の腕に当て…………シュッと引いた。
動脈は避けたので、血飛沫にはならなかったが、腕を伝い落ちる…


赤い紅いアカい……血…


それを見た茜が、顔を真っ青にして震えている。

―ワライガトマラナイ―



「ふふ……あんたはもうオシマイ。私を沢山楽しませてね……
きゃああああ!!いやぁあ!!


叫ぶと同時に、持っていた剃刀を、驚いて固まっている茜の足元に投げる。そして私はその場にうずくまり、嗚咽を漏らし泣くフリをする。すると、すぐに何人かの足音が聞こえた。


「おい!どうし……!!美香!!」

「酷い!どうしてこんな……大丈夫?美香!!」

ほらね……みーんな美香のドレイνν…私は笑いを堪えながらも、演技を続ける。

「ふぇぇ…こ、怖かったよぉ……」

目に涙を浮かべ上目遣いで、駆け寄ってきた男子にしがみつく。男子は顔を真っ赤にしていた。ま、当然よねν美香可愛いしνν

「!!おい!茜、まさかお前が……」

「ち、違う!違うよ!私じゃな……」

「お前しかいなかっただろう!?よくも美香に……!!」

「違うってば!!信じてよ!!」

「あんたがやったに決まってるでしょ!!いくら美香が可愛いからって、妬んで傷つけるなんて……最低よ!!」

「わ、私……本当に……きゃっ!!」


茜がそう言いかけた時、男子の一人に平手打ちされ倒れ込んだ。それを合図に、その場にいた生徒達が茜に暴行を始めた。



―アア……
ナンテタノシインダロウ……―



殴打の鈍い音と茜の呻き声が心地好い…。
……さて、そろそろ、かな……。


「や、やめてよぅ!!可哀相だよぅ……」

「美香!?」

「どうして?だって茜は…」


ほらね…?私のシナリオ通り……。私はさらに嗚咽をもらしながら、健気で優しい子を演じる。


「だ、だって…茜ちゃんは友達だもん。きっと美香が何かしちゃったんだょ……」

「美香……こんな最低女に優しくする必要ねぇよ!!」

「優し過ぎるよ美香!こんな子を庇う事ないわ!!もっと痛め付けてやらなきゃ!!ね?」


……馬鹿な奴らね。単純で正義感に酔いやすくて……まあ、その方が扱いやすいけどね!精々、私の駒になって退屈させないでよ?
心の中で毒づきながら、ぐったりしている茜の傍に駆け寄り、手を広げ立ち塞がる。……もちろんこれも演技。私がお姫様になるための布石なの。こんなふうにすれば、ますます私は皆に愛されるお姫様になれる。

「ちょ……美香!?」

「美香、そいつから離れろ!また切り付けられるぞ!」

ふふふ……茜にやられたって、本気で信じてるんだ……本当馬鹿ね。


「ダメ!これ以上茜ちゃんを傷つけたら、嫌いになっちゃうからっ!!」

「!!……美香、なんで!!」

「そんな……!!ちょっと、茜!!美香の事脅してるんでしょ?本当最低!!ゴミね!!」


「こんなやつゴミ以下だぜ!……美香に嫌われるのは嫌だしな……。茜……運が良かったな!!」

「美香に庇って貰えたからっていい気にならないでよ?」

「私はもぅ大丈夫だょ?だから…もぅ教室に戻って?ね?」


息巻き、興奮している皆に、小首を傾げ辛そうに微笑めば、皆ほんのり頬を染める……。ふふ、私の笑顔は世界一可愛くて守ってあげたい……って思わせるだけの魅力があるしね。でも、長居されると何かと都合悪いのよね……。そう思った私に味方するように、チャイムが鳴った。


「ほら、チャイムなっちゃったょ?早く……ね?」


私がそう言うと、皆は納得出来ないと言った顔で、教室に帰って行った。
皆の後ろ姿を見送ると振り返り、倒れ込み朦朧としている茜に話し掛ける。


「ふふ……さあ、玩具は玩具らしく、壊れるまで私を楽しませて貰うわよ。わかった?茜……」


と言うと、茜の腹部をおもいっきり蹴り上げる。茜の顔が苦痛に歪み、声にならない呻き声を出す。


―アア…タノシイ…タノシイ…ヒトノフコウハ、ナンテカンビナノダロウ…―


「キャハハ!!酷い顔ννきったな~いνννさっさとあんたも教室行きな!そして続きして貰いなよ!バイバ~イν」


傷ついた左腕を掲げ、嘲笑いながら茜に背を向け歩き出す。



…―
……――
それから一ヶ月後……茜は自殺した。自室で首を吊ったらしい。

なーんだ、割と早く壊れたわね……つまんないの…。まあ、脆そうだったし…たいして期待してなかったケドね……。
それから私は、手を変え品を変え、獲物を見つけては、嵌めてどん底に陥れ、自殺に追い込んだ。良心?そんなもの必要ないわ。大事なのは『私が愛される』と言うことだけ。玩具が死のうがどうなろうが知った事じゃない。





だって…私は愛される為に生まれて来たんだから………そうでしょ?






…でも、そんな事を続けている内に、クラスの中で疑問を持ち始める奴らが出始めた。ちっ……ドレイのくせに……。もう…オシマイかな、ここは……。見切りを付けた私は、『イジメに堪えられない』と言う理由で転校した。



そして……転校早々、新しい玩具を見付けた。しかも、真二君と付き合ってるなんて……!!ブスのくせに生意気……。でもその玩具もそろそろ壊れる。

雛……あんたはまだまだ死なせない。ずたぼろになるまで遊び倒してあ・げ・るνν

茜みたいに、勝手に自殺しないように釘をさしておかないとννν



この時、私はまだ知らなかった……茜の正体を。自分に降り懸かる救いのない恐怖を………。




《歪んだ姫》
END

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