同盟にて、灯里さまに書いていただきました。

琥珀がよろず屋を始めて、まだ間もない頃という感じのお話です。




この状態をなんと表現すればいいだろう。……やはり閑古鳥が鳴いていると言えばいいだろうか。静まり返った部屋で一人の少女が机に肩肘をつき、暇そうに欠伸を噛み殺していた。年の頃は十代後半ほどだろうか。
目も覚めるような美しい少女だ。蛍光灯の明かりのもとで長い白銀の髪がきらきらと輝く。

眠たげに細められた瞳は血を零したルビーを思わせる。光の加減によって色を変えるそれは人を惑わす魔性の色。
何の変哲もない風景の中で彼女だけが絵画から抜け出て来たかのよう。

銀の睫毛は影を作るほど長く、抜けるように白い肌はまるで雪花石膏(アラバスター)。形のよい朱唇は紅も引いていないのに薔薇の蕾のように艶やかだ。

「ふぁあ……暇だなぁ」

少女――琥珀が営んでいるのはよろず屋だ。文字通り、依頼されればペット探しからはたまた暗殺までやってのける。
他の人間から見ればまさかこんな少女が、と思うだろう。だが琥珀は純粋な人間ではない。

悪魔である父と人である母から生まれたハーフである。ただし、人の血が濃いためか父のような強い魔力は持っていない。
それでも母から受け継いだ忍法と我流だが体術を駆使して戦う様を見た者は彼女に魅せられるという。

しかし肩肘をつき、手に顎を乗せた琥珀は年相応と言うより年齢より幼く見えた。
ペット探しや浮気調査であっても仕事があるだけまだいい。だがここ二日は全くと言っていいほど依頼がないのだ。

すっかり体がなまった……ということはない。毎日鍛錬だけはしているから。その成果を披露する機会がここ最近ないだけで。
琥珀がもう一度つまらなさそうに欠伸をした時である。がちゃり、とドアが開く音がした。

開けられたドアから差し込む日の光がやけに眩しい。入ってきた『依頼人』を見た琥珀は居住まいを正し、艶やかに微笑んだ。

「ようこそ、よろず屋へ。あたしは琥珀。どんなご依頼でもお受け致します」


End
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。