交流所にて、毛糸さまに書いていただきました!!
『サイトのイメージテキスト』という一風変わった募集に、思わず飛びつきました!えぇ、飛びつきましたとも!!
毛糸さまがこのサイトのイメージを文章にしてくださいました!!
もしかしたら、あなたを助けてくれるその人は、人の心を見透かす悪魔かも…なんて!
春が来れば夏が来る。夏が過ぎれば秋が来て、秋から零れた寂しさが冬になった。
季節は正しく巡る。けれどその移り変わりは酷く唐突に思えてならない。ゆるやかに移り変わる四季があるのは、物語の中だけだ。現実には、寒暖を容赦なく行き交う荒っぽさで風の匂いが変わっていく。
だから、こんな風に、どの季節かもよく分からないという日もたまにあるのだ。寒くもない、暑くもない。見上げれば空には雲が薄く立ちこめていて、それなのに奇妙に明るい。
2時限目の授業が終わる。鳴り渡るチャイムの音色を聞きながら、少女はぼんやりと窓から外を見ていた。窓際、そして列の最後尾であるその席は絶好の内職ポジションであるが、彼女の授業態度は真面目なものである。
今さっきまで行われていた国語の授業も真摯に聞いていたからこそ、訪れた10分間の休み時間にこうして休息を取っているのだ。教師の話が終わった途端に眠りから覚め、がやがやと騒ぎ始めるクラスメイトとはまるで正反対である。
彼女は物心ついた頃から、何でも一生懸命に取り組んで偉いとよく褒められた。だから、何時しか真面目だけが取り得だと思い始めていたのだ。
けれど、それは真実なのだろうか――シャープペンの握った痕のついた指先を一瞥し、心の中で自嘲する。常に誰かの視線と評価を気にして生きてきた。果たして、これは正しく、無理のない生き方なのだろうか。
そんな事、誰に問いかけた所で答えなど返ってこないのに。
「おーい、魂抜けてんぞ。大丈夫か?」
不意に掛けられた声に振り返ると、先程まで空席だったそこへ一人の女子生徒が腰を落ち着けていた。横向きに椅子へ座り、上体を捻って此方に向き直ると、にんまりと笑った。少女は窓から視線を移すと、曖昧に微笑みを返して、小さく息を吐く。
高校生ともなると、こぞって髪を染めたがるものだが、眼前の女生徒は違った。顎のラインにそって短く切られた黒髪を耳の後ろにかけ、如何にも理知的な雰囲気を漂わせている。しかし、そこにインテリじみたとっつき辛さはなく、さっぱりとした印象の中性的な人物だった。
喧騒の中にあっても、彼女が発する芯の通った声は真っ直ぐに届く。少女自身、この相手に悪い印象は持っていない。それはこのクラスに所属する生徒の大部分と、ほぼ同じ意見であった。集団に埋もれる事はなく、かといって逸脱はしない。実に上手い世渡りを平然とやってのけ、かつそれに厭味がないのだ。つまるところ、ケチのつけようがなかった。
何も気負う必要もなかろうに、少女はどうも、相手の接触を内心疎ましく思う。より正確に言うのなら、クラスの中心的存在でもある彼女との会話を面倒がる自らにこそ、ある種落胆にも似た気持ちを抱いているのだ。つまるところ、自己嫌悪である。
ろくな返事もせずに思考へ没頭してしまったからだろう、すらりと伸びた細い指が、伏せた視線の先で揺れると、思わず小さく飛び上がってしまった。
「こりゃ相当参ってるみたいだ。そうだ、そんなお疲れちゃんにはこのイチゴミルクをあげるよ。疲れた時は甘いものって言うでしょ」
思い出したように、自らの席の上へ置いていた紙パックのイチゴミルクを取り上げると、そのまま少女の机上へ置く。水滴に煌く、桃色の可愛らしいパッケージを、当初はぽかんと眺めていたが、慌てて両手を顔の前で振った。
「いっ、いいよ、大丈夫。だってそれ、貴方が飲むために買ったんでしょ? 貰えないよ」
「ああ、いや。違うよ。これ、あたしが飲みたくて買ったんじゃないから」
事も無げに言われて、益々理解が追いつかない。返す言葉すら見失っていた少女に、まるで夏の陽射しを遮る木陰を思わす、涼やかな微笑が向けられた。
「それ、最初から君にあげるために買ったんだ。
ま、何か悩みがあるなら何時でも言ってよ。あたし、思いつめてる人を見ると放っておけないんだよね」
再び、チャイムが鳴る。ようやく我にかえると、既に教卓には教師の姿があり、3限目の数学の授業が始まろうとしていた。慌ててテキストを取り出そうとして、机上の飲み物の存在を思い出す。
目を上げれば、姿勢を正し、前を向いている相手が見えた。思いつめている人を放っておけない、だなんて、お節介以外の何ものでもない。胸中で呆れたように呟きながらも、少女は幾分柔らかさを取り戻した様子で目を細める。
しかし、このイチゴミルクと共に届けられた笑顔によって、ようやく思い出した。
今は秋。夏の暑さと、冬の寒さに挟まれた、ほんの一時の、感傷的な季節だ。
『 よろず屋★DEVIL 』
(実はさっきまで話していた短髪の少女は、人の心を見透かす悪魔なんじゃなかろうかと、窓辺の少女は密かに勘繰っているのである。一抹以上の、ロマンを込めて)
『サイトのイメージテキスト』という一風変わった募集に、思わず飛びつきました!えぇ、飛びつきましたとも!!
毛糸さまがこのサイトのイメージを文章にしてくださいました!!
もしかしたら、あなたを助けてくれるその人は、人の心を見透かす悪魔かも…なんて!
春が来れば夏が来る。夏が過ぎれば秋が来て、秋から零れた寂しさが冬になった。
季節は正しく巡る。けれどその移り変わりは酷く唐突に思えてならない。ゆるやかに移り変わる四季があるのは、物語の中だけだ。現実には、寒暖を容赦なく行き交う荒っぽさで風の匂いが変わっていく。
だから、こんな風に、どの季節かもよく分からないという日もたまにあるのだ。寒くもない、暑くもない。見上げれば空には雲が薄く立ちこめていて、それなのに奇妙に明るい。
2時限目の授業が終わる。鳴り渡るチャイムの音色を聞きながら、少女はぼんやりと窓から外を見ていた。窓際、そして列の最後尾であるその席は絶好の内職ポジションであるが、彼女の授業態度は真面目なものである。
今さっきまで行われていた国語の授業も真摯に聞いていたからこそ、訪れた10分間の休み時間にこうして休息を取っているのだ。教師の話が終わった途端に眠りから覚め、がやがやと騒ぎ始めるクラスメイトとはまるで正反対である。
彼女は物心ついた頃から、何でも一生懸命に取り組んで偉いとよく褒められた。だから、何時しか真面目だけが取り得だと思い始めていたのだ。
けれど、それは真実なのだろうか――シャープペンの握った痕のついた指先を一瞥し、心の中で自嘲する。常に誰かの視線と評価を気にして生きてきた。果たして、これは正しく、無理のない生き方なのだろうか。
そんな事、誰に問いかけた所で答えなど返ってこないのに。
「おーい、魂抜けてんぞ。大丈夫か?」
不意に掛けられた声に振り返ると、先程まで空席だったそこへ一人の女子生徒が腰を落ち着けていた。横向きに椅子へ座り、上体を捻って此方に向き直ると、にんまりと笑った。少女は窓から視線を移すと、曖昧に微笑みを返して、小さく息を吐く。
高校生ともなると、こぞって髪を染めたがるものだが、眼前の女生徒は違った。顎のラインにそって短く切られた黒髪を耳の後ろにかけ、如何にも理知的な雰囲気を漂わせている。しかし、そこにインテリじみたとっつき辛さはなく、さっぱりとした印象の中性的な人物だった。
喧騒の中にあっても、彼女が発する芯の通った声は真っ直ぐに届く。少女自身、この相手に悪い印象は持っていない。それはこのクラスに所属する生徒の大部分と、ほぼ同じ意見であった。集団に埋もれる事はなく、かといって逸脱はしない。実に上手い世渡りを平然とやってのけ、かつそれに厭味がないのだ。つまるところ、ケチのつけようがなかった。
何も気負う必要もなかろうに、少女はどうも、相手の接触を内心疎ましく思う。より正確に言うのなら、クラスの中心的存在でもある彼女との会話を面倒がる自らにこそ、ある種落胆にも似た気持ちを抱いているのだ。つまるところ、自己嫌悪である。
ろくな返事もせずに思考へ没頭してしまったからだろう、すらりと伸びた細い指が、伏せた視線の先で揺れると、思わず小さく飛び上がってしまった。
「こりゃ相当参ってるみたいだ。そうだ、そんなお疲れちゃんにはこのイチゴミルクをあげるよ。疲れた時は甘いものって言うでしょ」
思い出したように、自らの席の上へ置いていた紙パックのイチゴミルクを取り上げると、そのまま少女の机上へ置く。水滴に煌く、桃色の可愛らしいパッケージを、当初はぽかんと眺めていたが、慌てて両手を顔の前で振った。
「いっ、いいよ、大丈夫。だってそれ、貴方が飲むために買ったんでしょ? 貰えないよ」
「ああ、いや。違うよ。これ、あたしが飲みたくて買ったんじゃないから」
事も無げに言われて、益々理解が追いつかない。返す言葉すら見失っていた少女に、まるで夏の陽射しを遮る木陰を思わす、涼やかな微笑が向けられた。
「それ、最初から君にあげるために買ったんだ。
ま、何か悩みがあるなら何時でも言ってよ。あたし、思いつめてる人を見ると放っておけないんだよね」
再び、チャイムが鳴る。ようやく我にかえると、既に教卓には教師の姿があり、3限目の数学の授業が始まろうとしていた。慌ててテキストを取り出そうとして、机上の飲み物の存在を思い出す。
目を上げれば、姿勢を正し、前を向いている相手が見えた。思いつめている人を放っておけない、だなんて、お節介以外の何ものでもない。胸中で呆れたように呟きながらも、少女は幾分柔らかさを取り戻した様子で目を細める。
しかし、このイチゴミルクと共に届けられた笑顔によって、ようやく思い出した。
今は秋。夏の暑さと、冬の寒さに挟まれた、ほんの一時の、感傷的な季節だ。
『 よろず屋★DEVIL 』
(実はさっきまで話していた短髪の少女は、人の心を見透かす悪魔なんじゃなかろうかと、窓辺の少女は密かに勘繰っているのである。一抹以上の、ロマンを込めて)
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