某交流所にて、灯里さまに描いていただきました!!
今回は今連載しているGhost Labyrinthからなるみと夕のお話をお願いいたしました。
相変わらずの表現力、言葉運び………尊敬いたします!!

灯里さま、ありがとうございました。




人はそれを既知感と呼ぶのだろう。高見沢なるみは華楠高校に通う二年生だ。修学旅行で訪れた先は荻月町と呼ばれる街だった。当然、初めて訪れる地である。それなのに胸騒ぎを覚えていた。自分はこの街を知っている、何故かそう確信していたのも事実で。胸騒ぎの原因となっているのが自分達が宿泊するホテルにあるような気がして。
 なるみ達が宿泊するホテルは元は貴人の屋敷であるらしく、文明開化の影響を大きく受けている。時を経ても色褪せる事の無い漆喰の壁、瓦屋根。日本の伝統的な建築技術が根底にありながらも、西洋の文化を取り入れた不思議な、それでいて独特の雰囲気を醸し出していた。
 その時のなるみは、まさか夢にも思っていなかっただろう。迷宮を彷徨う事になろうとは。

 振り子時計が夜半を告げる音と共に、『迷宮』は現われた。まるで自分一人が取り残された疎外感。どこからか霧が立ちこめ、一寸先すら見えない。日常から一転、非日常の始まり。
 どう考えても普通とは言えない状況でありながらも、なるみの心は凪いでいた。心のどこかでこれが当然と思う自分がいる。そんな時、偶然出くわしたのは昼間、懐中時計を拾ってくれた青年。否、後から考えれば偶然ではなく必然だったのだろう。
 羽山夕。それが彼の名前だ。彼もまた旅行でこの街にやって来たらしい。濡羽色の髪に端整な面差しをした青年で、いかにも女性受けしような印象を受ける。
 この異常な空間から抜け出すためにも一人より二人の方がいい。その結論に至り、なるみは夕と行動を共にする事にした。


「ねえ、夕くん。私たち、本当にここから出られるのかな? 私だって絆の力を信じたい。でも不安なの」

「なるみ……」

 この屋敷で起きた惨劇、前世の記憶。そのどれもが普通ならあり得ないことだ。馬鹿馬鹿しい、そう一蹴されてもおかしくない。実際、他人から聞かされればなるみだってそう思うだろう。でも、馬鹿にするにはあまりにリアルすぎる。それに夕とは会ったばかりなのに、まるで何年も前から知っていたような親近感が沸く。前世での繋がりを思えばそれも当然なのだが。
 老人は互いを信じ、助け合えと助言をくれた。自分達の絆は百年以上の時を経ても強固なものだと。それでも胸に掬う不安は中々消えてはくれない。

「大丈夫だ。俺達は絶対にこの屋敷から出られる。全てに決着を着け、因縁を断ち切るんだ。俺達なら出来る」

「……夕くんの言う通りね。ちょっと弱気になってたみたい」

「こんな状況なら当然だろ」

 力強い言葉と瞳に、嘘のように不安が消える。そうだ。絶対に自分達はこの迷宮から脱出する。強い思いがあればきっと成し遂げられる。自分がそう信じないでどうするのだ。そっけないように見えて、彼が自分を案じてくれている事をなるみは知っている。

「ありがとう」

「そろそろ行こう」

「うん!」

 ほら、と差し出された手に躊躇う事無く自分の手を重ねる。この手で悲しみの連鎖を断ち切ってみせよう。夕と一緒ならきっとそれが出来る気がした。


 了
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