『ツキノセカイ』のかぐやのお話。本編はまだあまり進んでませんが、かぐやが『ツキノセカイ』を創る力を持つきっかけとなる話を書いてみました。『かぐや』の名前についてもちらりと触れています。ネタバレ注意!




私はなぜ
生まれてきたのだろう……




 私が四歳の時、両親が死んだ。
 突然の永遠の別れ。
 その直後だった。私が原因不明の病に侵されたのは。

「最善は尽くすつもりです。しかし、原因も病名も解らないとなると…最悪の場合を覚悟してください」
「ということは……この子は……かぐやが死ぬという事ですか!?」
「………今の状況ではなんとも……」
「なんて事なの……かぐや…」

ぼんやりとした意識の中で聞こえた、医師と祖母の会話。
 (もうじき自分は死ぬのか)
何故か落ち着いている自分。あまりにも非現実的で、とても不思議な感じがしたのを覚えている。

―――…
――…
―…
 気が付くと私は、暗い場所に立っていた。
今いる場所を把握しようと首を巡らせてみるものの、どこもかしこも真っ暗で解らない。ただ、耳に入った僅かなせせらぎの音で、水辺の近くだと分かった。

「おばあちゃん、どこ?」

 祖母を呼んでみるが反応はない。急に心細くなり、鼻がツーンとしてくる。………と、その時だった。

「何してるの?」

 鈴の音のような可愛らしい声。すっかり気弱になっていた私は、ほかに人がいた事が嬉しくて、振り返った。


 ………そこには、黒髪に白い着物、真っ赤な帯とリボンを付けた、自分と同じくらいの少女が立っていた。

「だれ?」
「ん?私はユキ。君は?」
「わたし…かぐや」

 名乗ったその少女は、私の名前を聞くと、軽く目を見開いた。

「かぐや……そう、君が」
「?」

 そう呟くユキは少し悲しげなでも、優しげな目をして私を見つめた。疑問に思い、ユキを見つめ返すと、はっと気が付いた顔をして、表情を戻した。

「ごめんね、マジマジ見て。知り合いに似てたの。だから……」
「ううん。わたしはだいじょぶ。あの……」
「なに?」
「ここはどこ?」

 私は今までの疑問をユキに聞いてみた。するとユキは少し考えた後、微笑む。

「ここは、天国への入口……かな」
「てんごく?ママとパパがいるところだ!」
「え?かぐや…君……」
「うん、パパとママしんじゃったんだ。じこで」
「!!……そう…ごめんね」

 悲しそうに歪むユキの顔。そして謝罪の言葉。小さな私には、ユキの行動は解らなかった。しかし、悲しませてしまったのは事実。私はユキに笑顔を見せる。

「でも、わたしはへいきだよ!わたしはひとりじゃないもん。おばあちゃんやおじさんおばさん……なつめおねえちゃんとまもるおにいちゃん……かぐやにはたくさんかぞくがいるから」
「かぐや……」
「わたし、さびしくない。だから、そんなかおしないで、ね?」
「………ふふ。本当に不思議な子だね。ありがとう、かぐや」
「?うん!」

―笑ってくれた―

それが堪らなく嬉しくて。私も自然と笑っていた。

しばらくユキと話をし、ここが『賽の河原』という、本来なら親より先に死んでしまった子供たちの来る場所だと教わった。

「なんで、わたしがここにきたのかな…」

だって自分の両親はもういないのだ。何か悪い事でもしてしまったのだろうか…………。
 不安が顔に出ていたのだろう。ユキは優しくかぐやを抱きしめる。

「違う。君がここに来たのは、私が望んだから」
「ユキが?」
「うん。かぐやに会いたいって願ったからだよ」

 だから安心していいよと笑うユキに、かぐやは安心して微笑む返した。

「…君はソックリなんだね。あの人…いえ、あの方に……。きっと君ならこの力を使える」

 ユキはそう言うと、かぐやの手をとり、強くしかし優しく握る。

「ユキ?」
「たった今から君は、『かぐや姫』…月の民のお姫様だよ。この力を生かすも殺すも君次第」

 真っすぐ見つめる緋色の瞳を何故か反らせず、見つめ帰すかぐや。しかし、なぜか怖いとは感じなかった。

「君にこの力をあげる。夢に世界を創り出す力……『ツキノセカイ』を創る力を…」

 突如、頭に流れ込む映像や声。

―私はこの世界に試練を与えます―

―夢の中なら私の理想郷ができる…そう思うの―

―なぜ?なぜ、こんな事に…?―

―こんなはずではなかった…―

―苦しみや憎しみしか生まれないのなら…―


―コンナチカライラナイ―

「かぐや姫の声、聞こえた?」
「うん……」
「この力…夢の世界を創る力は、たった今から君のものになった。君は死ぬまでこの力と向き合わなければならない」
「………」

 幼い自分には難しい事は解らないが、たった今授かったこの力は、かなり危険なものであると感じた。しかし、なぜか拒む気にはなれなかった。

 悲しそうな目で泣いている着物姿の美しい女性が、私の頭に映し出されたからだ。月を背に立つその女性の顔立ちは、どこか自分に似ていた。手を伸ばせば届くかもしれない距離。しかし触れることも近づく事も出来ない。

「このひとがかぐやひめ?」
「そうだよ。そして、その人は前世の君。君は月の民の血を引いている」

 思いがけない事に、かぐやは言葉を失う。

「え…でもわたしのパパもママもにんげんだよ?」
「そうだね。でも君は確かに月の民。その証拠に……」

 ユキは私の手を離し開かせる。そこには…

「いし?」

 いつの間にか、手の平のサイズの石が握られていた。

「これは月の石。よく見て。光ってるよ」
「わあ、キラキラしてる」

月の石はかぐやの手の中で暖かい光りを放ちながら、輝いていた。

「この石は月の民と神様しか持つ事が出来ないの。石はかぐやを選んだんだよ」
「ん~…」

うーんと考え込む私に、ユキはにこりと笑った。

「ふふ…難しかったかな。その石、かぐやにあげる」
「え?いいの?」
「うん、そのかわり大事にしてあげてね」
「うん!わかった!!」

 お互いに笑いあった時、私の体が光り出した。

「そろそろ戻らなくちゃならないね。かぐや、元気でね」
「え…ユキ、もう会えないの?」
「ううん、かぐやがもう少し大人になったら……」

 ユキは少し顔を曇らせる。今思うと、その表情はこれから私に起こる出来事を予知していたのだろうか。
「ユキとまたあえるんだね!わあい!!」
「かぐや…」
「またおはなししようね!!」
「………うん。さ、もうお帰り。運命を背負う子……」
「?……うん!またね!ユキ」

そう言うと同時に、私の体は光りの粒となり消えた。

「……運命、か。君はどうか、どうか負けないで。君は『かぐや』と言う名前を受け継いだその時に、自分の本当の名前を奪われた。トヨもそうだった…」

 思い出す、あの時会った少女の事。今のかぐやとそっくりな長い黒髪に白い肌。

「本当の名前を取り戻す手段、それは次の『いけにえ』を見つけること。トヨにとってそれはかぐやだった」

 見た目だけではなく、力まで受け着いたかぐやを、一族は見逃しはしないだろう。

「…いつかの未来、君は己の運命と向き合い、自分が創った世界と対峙する事になる。その時……」


―『ツキノセカイ』は君に何を求めるのか…―


深い深い闇の中、せせらぎしか聞こえない空間に、ユキの白い着物が静かに溶けていった。


―――…
――…

 ユキとの出会いから一日たち、私は目を覚ました。一年近い昏睡状態から奇跡的に意識を取り戻したらしい。
 祖母はしきりに私に、「ゴメンね」と言っていたのを思い出す。その時はなんで謝っているのかが解らなかったが、今はなんとなくわかる。

 ユキの言っていた言葉の意味も…。


 あれから十年後……私は向き合っている。自分の運命と。そう…



『ツキノセカイ』と……


どんな運命(さだめ)を
背負っていたとしても、





自分の未来だって切り開けるはず……






《END》
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