もうすでに完結していますが、補足的な感じで書いてみました。

なるみに懐中時計が渡った経緯。
それはあの事件の後……




「なるみ。後でわしの部屋においで」
「はい。お爺ちゃん」


《想いはとこしえに…》




「………来たか。ここに座りなさい」
「はい」

16歳の誕生日の夜、なるみは祖父、隆正に呼ばれた。
高見沢家は代々、長男か長女が16歳の誕生日を迎えると、家長から必ず受け継がれる物がある。それは………


「これをお前に託す。無くしたり壊したりしないようにな」
「はい……!!これは、懐中時計!いいの?」
「ああ」

微笑み頷く隆正に、なるみは満面の笑みで、渡された懐中時計をしっかりと抱きしめる。
それは、幼い頃からずっと手にしたかったもの。
少しずっしりとしたボディには繊細な装飾が施され、文字盤は七色に輝く象牙。遥か昔に造られたものだが、現代っ子のなるみから見ても、ファッション性のある懐中時計だった。

しかし、

「……ねぇ、お爺ちゃん。少し気になったんだけど……」
「ん?」
「なんで私、お爺ちゃんから手渡されたの?普通は両親からでしょう?」

そう。家のしきたりからして、両親から受け取るはず。なぜ祖父から直接受け取るのか……。
隆正は少し考えていたが、静かに話し出した。



……………―
…………―

「この懐中時計は、ある人の想いが込められているんだ」
「…ある人?」
「ああ、随分と昔だが、その娘はお前と同じ年頃でな。ある青年と恋に落ちた」
「……………」
「しかし、その恋は叶う事は無かった。娘は不慮の事件に巻き込まれ亡くなり、青年も戦地で命を落とした」
「……そう…なんだ…」

愛する人と結ばれる事無く、この世を去った二人。
どんなにか無念だったか。
辛く、悲しかったか……。
なるみは改めて懐中時計を見つめる。
今も変わらず時を刻む秒針は、まるで二人が再び出会うその時を待ち侘びているような気がする。

「この懐中時計は娘が青年に贈ろうと用意したものだ。…彼の手に渡る事は無かったが…」
「…そう…。でもなんで私に……」
「それは………」

隆正は一つ息を吐くと、なるみを見つめた。そして、にこりと笑った。

「なんとなく…かな」
「なにそれ!?なんとなくって………;;」
「はははは……」

隆正の答えに思わず声を上げるなるみ。たがこれ以上、祖父に聞いても話してはくれないだろうとなんとなくだが感じた。

(……もう。なんとなくでしきたりを無視していいのかな…)

両親はこの事を知っているのだろうか。特になるみの父は長男だ。何も言わなかったのだろうか。

色々疑問が残るが、受け取ったからには自分が持っていなければならない。それに、祖父の判断なら父も納得するだろう。

「……わかった。大事にするから。ありがとうお爺ちゃん」
「なるみ」
「?なに?」
「お前ならいつか分かる時がくる……嫌でもな…」
「え……?」
「いや。さ、もう部屋に戻って休みなさい。今日は疲れたろう」
「?はい、おやすみなさい」

―パタン…―


なるみが部屋から出て、一人座敷に座る隆正は、ふと過去を思い出した。

自分がこの懐中時計を受け取った時に聞いた話しを。
当時の自分には衝撃的な話しだったのを覚えている。本来なら息子に渡してすべてを話し、息子からなるみに渡すべきだった。

しかし、自分の息子…なるみの父には渡さなかった。当時、息子と折り合いが悪く、不仲だった事もある。しかし、隆正はある思惑があった。

まだその時ではないと。息子に渡すべきではないと。もう少し、待つべきだと。なぜかそう感じ、息子には何も渡さなかった。息子の方も特に気にしていないようで、何も聞かれなかった。

やがて息子は結婚し、なるみが生まれた。その時に、隆正は衝撃を受けた。なぜなら、あまりにもそっくりだったのだ。
瓜二つだったのだ。あの日に見せてもらった、古いセピア色の写真に写る若い娘に。髪形はもちろん違うが、顔立ちや雰囲気などまだ赤子だというのに、似ている……いや生まれ変わりではないだろうかと思うほどに。



なるみならば…彼女、楓の想いを受け継ぎ、遂げる事が出来る。


根拠はないが、確信はあった。

その時に、祖父は決めた。

なるみに授けようと……。

きっとなるみが最後の継承者になる。


そう願って。

……………―
…………―


あの凄惨な事件の後、断絶したかに思われた高見沢家は、ある人物により立て直した。


…そう、高見沢家の長女、香澄の夫、和哉である。


戦地から無事に帰ってきた和哉は、ショックを受けた。
愛する妻と子供、義父や義妹までもすべて死んでいる事を知ったからだ。

そしてこれが殺人事件であった事、義妹が無実の罪で役人に捕まり、拷問死したこと、恋人が激戦地に送られ戦死した事、資産家の息子である間宮の仕業であった事を、仕出し屋の娘であり、義妹の親友である桜から聞いたのだ。

そして和哉はすぐに行動を起こした。
当時屋敷にいた使用人や近所の人に聞き込みをし、間宮が真犯人だという証拠を集めた。

そして、それを役人に突き出したのだ。最初は相手にされなかったが、諦めず何度も訴えた結果、再捜査され、程なくして間宮は捕まった。間宮の家を家宅捜索したところ、楓の遺品が多数見つかり、その中にあの懐中時計があった。

和哉は楓の遺品ともに懐中時計を持ち帰り、高見沢家の蔵にしまった。しかしそれ以降、不思議な事が立て続けに起こりはじめた。

「あれ?なんで……」

和哉が庭の手入れをしている時、ふと蔵の方をみると、蔵の扉が開いていた。
きっと閉め忘れたんだろうと思い、しっかりと閉め鍵をしめた。

しかし、そのあと何度も同じ事が続いたため、蔵に誰か忍び込んでいるのかと思い中を調べてみると…

「これは、懐中時計……?なんで箱からこれだけ出ているんだ?」

まるで、何かを訴えるように床に転がっている懐中時計。何か意味がある気がしてならず、和哉は懐中時計を詳しく調べてみた。
そして解ったのだ。

懐中時計の蓋に寄り添うように彫られた、二つのイニシャル。
これは贈り物だったのだ。義妹の楓が恋人に渡そうと用意したもの。
それも叶わず、間宮に他の遺品とともに奪われていたのだ。

「楓さん、無念だっただろう。よし」

和哉は決心した。
いつか…遥か未来に、再び生まれ変わった二人が出会った時に、今度こそ渡せるよう、家宝として受け継いでいこうと。

のち、和哉は後妻を迎え、再婚し男の子が生まれた。
そして、その男の子が16…楓と同じ年頃になった時に、事件の話と共に懐中時計を託した。その後、しばらくして和哉は亡くなった。
そしてまた、その息子が結婚し孫が生まれると、その子にも話しと共に託した。それがなるみの祖父、隆正だった。

こうして、高見沢家に代々受け継がれていく事になった。

しかし、隆正は自分の息子ではなく、孫であるなるみに託した。
彼女、楓とそっくりななるみに。

悲しみの終焉を願って。







運命も…
愛も…
悲しみも受け継ぎ、
いつか
想い遂げる日を夢見る




END

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