水樹と雫の過去。今では仲良しの二人の意外な過去が書きたくて、書いたお話です…が!例の如くグダりました。



「水樹、よく聞きなさい。たんぽぽだって立派な花なんだよ。強くて可憐な花」




おばあちゃん…私はたんぽぽみたく、強く可憐な花になれるかな……。



《桜とたんぽぽ》




 水樹には、雫と言う10歳歳の離れた姉がいる。
今ではすっかりシスコンな水樹だが、昔は幼い水樹にとって、姉はコンプレックスの塊であった。


理由は、何かにつけ比べられ、比較されてきた。

幼稚園に入る前から、ガキ大将と言われるほどお転婆で、生傷も絶えなかった水樹。それとは対称的に、雫は大人しくおしとやかだった。それに加え病弱で、風邪一つひくだけで、入院なんてざらだった。
両親も自然と姉に付きっ切りになる。幼い水樹はそれが面白くなかった。


その頃の姉は、水樹をどう思っていたのかは分からない。だが、なんとなく距離を置かれているな…と感じていたのだろう。いくら関わりが浅くても、大事な妹。意地っ張りで気の強い水樹の性格上、変に話し掛けたり構ったりすれは、余計に避けられてしまう。それに、自らの体の事もある。雫は時間に任せる事にした。

そんな姉妹を誰よりも心配していたのは、祖母だった。


水樹は、祖母が大好きで一緒にいることが多かった。姉の事ばかりで、ちっとも構ってくれない両親より、優しくて自分と遊んでくれる祖母の側にいたほうが幸せだった。


祖母と水樹はいつも縁側に座り、編み物をしたり、お茶をのんだりして過ごしていた。

だんだんと日が陰り始め、祖母は水樹に言った。

「水樹、そろそろ帰らんと」

「えー、まだいる」

帰りたくなかった。姉と両親がいる家なんかに。

すると祖母は、

「お父さんとお母さん、心配しとるよ」

編み物の道具を片付けながら、たしなめるように言った。
すると、

「…心配なんかしないよ……」

いつもより低い水樹の声。祖母は片付けの手を休め、水樹に向き直り、疑問を投げ掛けた。

「どうしてだい?」

水樹はポツポツと話し始めた。

「お父さんもお母さんも、雫姉ちゃんの事ばっかなんだもん…この間だって、参観日来てくれるって言ったのに、雫姉ちゃんが熱出したからって来なかったし…」

参観日だけではない。あらゆる行事は雫の体調いかんで中止または延期される。水樹は、それがイヤで仕方なかった。

「そうかい…。それは可哀相にね…」

祖母は水樹の頭を優しく撫でる。

「きっと、あたしはいらない子なんだよ。お母さんたちは雫姉ちゃんさえいればいいんだよ」

これは、水樹の本音。すべて雫中心で物事が回って、自分はそっちのけ…ただただ悲しくて淋しくて。それを聞いた祖母は、ふぅと息を吐き、

「……水樹。どこの親も我が子を要らないなんて思わないよ。生まれた順番も健康か病気かなんて関係ない。水樹も雫も、お父さんとお母さんの大切な宝物なんだ。そんな事を言っては駄目」

言い聞かせるように、水樹に少しでも伝わるように。

「だって…」

納得が行かない水樹は、口を尖らせ庭を見つめる。雀が三羽仲良く庭を歩いているのが見えた。

「水樹はまだ小さいからね。よく分からないだろうけど、もう少し大きくなればおばあちゃんの言っている事が分かるよ。きっとね」

親が構ってくれないのは、姉のせいだ。姉が病気だから。自分よりおしとやかで美人で、頭だっていい。それにくらべてあたしは……幼い水樹のこの気持ちは、明らかに雫に対する嫉妬と劣等感。


「………」

なんだか胸のあたりがもやもやして押し黙る。

「水樹?」

心配そうに声をかける祖母の声をきっかけに、そのどす黒い感情が、あふれ出した。

「あたし、いつも雫姉ちゃんと比べられるんだよ!この前だって、親戚のおじさんが、『雫ちゃんはまるて桜みたいだね。それに比べて、水樹はたんぽぽみたいだよな』って…あたし、たんぽぽなんてヤダよ、あんな地面に張り付いてるみたいに咲いてる花なんて…』」

二、三日前に、雫のお見舞いに来た伯父が、何気なく言った言葉。雫が桜で水樹がたんぽぽ。最初は嬉しいと感じた。でも、よくよくたんぽぽの生態を考えてみる。ひょろっとした茎、ちんまりした花。まるで剃刀みたいな葉っぱ…。そして極めつけは、綿帽子になって種がすべて飛んでいった後の姿……自分を馬鹿にしてるような気がして、挨拶もせずその場から走って離れた。


「おや、可愛いじゃないかたんぽぽ。おばあちゃんはたんぽぽ好きだよ」

にこにこしながら祖母が言う。

「あたしはイヤ!!絶対」
あんな惨めな最後を晒す花なんてなりたくない。


すると、祖母は静かに語りはじめた。

「水樹…いいかい。よくお聞き。たんぽぽだって立派な花なんだ。桜と同じ。強くて可憐な花なんだよ」


水樹は祖母の方を向き、

「ほんと?」

と小さく呟く。


「ああ。確かに桜は美しいし立派だよ。でも、少しの間しか咲けないだろう?そして、一度に散っていく。でもたんぽぽは、どんな場所でもしっかりと根をはって、可愛らしい花を咲かせる。そして沢山の種を綿帽子にのせて、自分の証を残すんだ。たんぽぽって、強くて可愛らしい花だと思わないかい?」


水樹は、ふと雫の事を思う。

確かに雫は桜だ。
親戚や来客から、『綺麗』とか、『賢い』など言われている。でも体が弱く、いつも家の中に缶詰状態。そのため、学校に通えるはずもなく友達もいなかった。

もしかして、雫は淋しいのではないか?
たとえ、まわりにちやほやされていても、嬉しくないのでは?

現に、雫は褒められてもあまり嬉しそうではなかった。どこか、悲しそうな寂しそうな表情をしていた。


「雫…姉ちゃん……」

もしかして、自分はえらい勘違いをしていたのではないのだろうか。

水樹は思い出した。


まだ、水樹が小学校に上がって間もない頃、楽しそうに学校に行く水樹を、羨ましそうに見ていた雫。
いつも夜になると、一人泣いていた雫を。


自分はなんて自分勝手だったんだろう。
ちゃんと学校にも行けて、友達もいっぱいいて、自由に、めい一杯外に出て遊べる丈夫で健康な体。
自分はとても恵まれていた。たかが親に構ってもらえないだけで、姉に一方的に敵視して………


間違いに気付き、嗚咽を漏らし始めた水樹を、祖母は抱きしめる。


大好きな優しい温もりと匂いに、水樹は祖母にしがみつき、泣いた。


―――――


しばらくして、泣き止んだ水樹は、とてもスッキリした顔だった。


「おばあちゃん、帰るね。雫姉ちゃんに謝ってくる!!仲直りしてくるよ!」

笑顔で言う水樹に、祖母はシワだらけの顔をますますシワくちゃにして笑ってうなづく。

「そうだね。それがいいよ」

祖母は、駆けていく水樹を姿が見えなくなるまで、ずっと見送った。



――
―――――


水樹は、祖母のお墓の前にいた。


今日は祖母の七回忌だ。祖母はあの日からちょうど一ヶ月後、眠るように旅立っていった。

唯一の理解者であった祖母の死は、まだ幼い水樹に大きなショックを与えた。
しばらく誰とも口を聞かず、学校も休み引きこもってしまった。

その時、真っ先に水樹の元に来たのは…雫だった。

雫は、何も言わず水樹のそばにいた。
そんな雫の行動が、水樹にはとても心地良かった。おかげで、思いのほか早く立ち直る事ができたのだ。



「おばあちゃん、私になれるかな。たんぽぽみたいに強く可憐な花に」

祖母の墓前に問いかけた。
あれから、雫との関係は次第に修復された。自分から積極的に話し掛けるようになり、今では自他ともに認めるシスコンぶり。


「これからも仲良くするし、雫姉さんは私がちゃんと守るから…心配しないでね。おばあちゃん……」


水樹は持っていた小さな花束を墓に供える。


「水樹~!!そろそろ帰りましょう。お母さん達が待ってるわ」


大好きな姉の声に、うん!と返し、墓に向き直る。


「ありがとう、おばあちゃん…また来るから!バイバイ!!」


そう呟くと、

「待って~!!」
と姉の元に駆け出す。



そんな水樹を見送るように、墓に供えられた小さな…たんぽぽの花束がサワサワと揺れた。




桜だってたんぽぽだって、必死に生きて咲いてる。
だから、たんぽぽである自分に誇りを持って生きていこう。
すべてを賭けて守りたいものが出来たから………。


《桜とたんぽぽ》




「おばあちゃんと何を話してたの?」

「うん?雫姉さんを守るって約束したの!」

「…そう。ありがとう水樹。でも、あんまり無茶しないでね。心配よ、私…」


「もう!心配性だなあ。大丈夫だよ。雫姉さんを悲しませる事は絶対しない!誓うよ!」


「ふふふ…嬉しい。よろしくね水樹」


「うん!任せといてよ!」



《END》

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