軽い流血表現、死ネタあり。小説初挑戦のため、恐ろしい程グダグダです;閲覧注意!!夕梨と美夕の昔話。




「どうか…、母さん達の分まで……生きて……」





 最近、何度も同じ夢を見る。
それは、私たちがまだ幼い時の、暗く悲しい記憶…。


《緋色の記憶》



§§§


 「…ん…」

 今日は、朝から特に用事も仕事もなく、穏やかな日。
天気は雲ひとつない快晴…。
夕梨は、よろず屋の屋根の上でまどろんでいた。


 例の夢を見るようになってから、眠りが浅くなってしまったようで、昼近くになると眠くて眠くて仕方ない。


 最近は、悪党達もすっかり大人しくて、平和で退屈な毎日が繰り返されている。
 今日も今日とて、一応出勤してみたものの、案の定仕事はなし。
午前中は、室内で雑誌をパラパラめくり、時間を潰していたが、次第に眠気が襲ってきて、ついに我慢できなくなり、琥珀に断り、よろず屋の屋根で昼寝をしていた。


 「また、見ちゃったか…」

夕梨は紅い眼を細め、呟く。

 内容は、幼少の頃の記憶。
父と母、そして…幼い夕梨と生まれたばかりの美夕。けして裕福ではなかったが、幸福な毎日。

この幸福は、ずっと続く………そう思っていたのに。

その幸福は、あっけなく崩れていった。



§§§




 夕梨の父は人間だか、母は天狐と呼ばれる神獣だ。
容姿は、紅い髪と眼。
そして、その遺伝子は姉妹にそのまま受け継がれ、容姿は勿論、《千里を見通す》力もそのまま受け継いだ。

 母親は、父親と結婚するとき、自身の口から自分は天狐の化身であることや、自分の力の事を話したそうだ。父親はすべてを理解した上で母親を妻にした。
そして、ほどなくして生まれた夕梨を連れて、人里離れた山の麓に家を構え、暮らしていた。

 多少の不便はあったが、穏やかな日々を送っていた一家に、突然悪夢が襲い掛かった。

§



 一体、どこから聞いたのか、研究員と名乗る人物が黒服の男達を従えて一家のもとに現れた。

 彼等の目当ては、母親と幼い娘達。
そう、天狐の力だった。

連れて行かれたら、何をされるか分かったものじゃない。


 父親は、なんとか彼等の気を逸らし、母娘だけでも逃がそうとした。


「早く!早く逃げるんだ!」

「あ、あなた!!」

「お父さん!!」

「俺の事はいい!!夕梨と美夕のためにも、お前は生きるんだ!」


そして、父親は優しく夕梨の頭を撫でながら、

「夕梨…お母さんを頼んだぞ」

「お…お父さ…ん」

「早く行け!」

「………っっ!!ごめんなさい!あなたっっ!!」


「お…お父さぁん!!うわあああん!!」



 ……美夕を抱えた母に手を引かれ、ボロボロに泣きながら、必死で走る夕梨の耳に届いた3発の銃声。

夕梨が、父の死を確信した瞬間だった。

撫でられた時の父の大きな手の温もり……


…もう、お父さんはいない……撫で貰えないんだ……

それがまた悲しくて、夕梨が母の手をギュッと握ると、母も震える手で握り返した。


§§§

§§§



 ……どのくらい走ったのか……。

気が付くと、すっかり辺りは暗くなっていた。


 母は、夕梨の手を引きながら、

「夕梨…。もし、お母さんに何かあっても、あなたは美夕を連れて気にせず逃げるのよ」


えっ?と夕梨が、母を見上げると、優しく微笑む母の顔。

「お母さん、すごく幸福だった。お父さんと出会えて…夕梨や美夕のお母さんになれて……」


「お……お母さん?」


「この先、どんなに苦しくて辛い事があっても、強く生きるのよ。
あと、恨みや憎しみに囚われてはダメよ。生まれるのは悲しみだけだから」


「………ぅん…」


母は父と同じように、優しく夕梨の頭を撫でる。
…と、母の顔が急に険しくなった。

「追いつかれたみたいね。夕梨!!」

母は再び夕梨の手を引き、小走りにその場を離れた。


§




 走って、走って………
母娘は暗い拓けた場所に出た。

水の流れる音…近くに川が流れているようだ。

「「はあ、はあ」」

 母も夕梨も体力は限界だった。

「夕梨」

ふいに母が夕梨を呼んだ。
「なに?お母さん」

と振り向くと、美夕をくるんだおくるみを夕梨に抱かせた。

なにがなんだか分からない夕梨に、母は優しく強く言い聞かせた。

「どうやら、私たちの居場所が知られているみたい…。このままでは、親子諸とも捕まってしまうわ。この先に小さな村があるはずよ。……私が囮になるから、夕梨、美夕を連れて逃げなさい」

「え??お母さんは?」

「私は……いいの、もう。きっとお父さんも分かってくれるわ。
夕梨………どうか、お母さん達の分まで、生きて…」

「お母さん!!お母さん!!いや…嫌だよ!!一緒に…」



「こっちか?!抵抗するなら殺して構わん!捕らえろ!!」


「…くっ!夕梨、早く行って!」


そう言うなり、母は本来の天狐の姿になり、声のした方に走っていった……。

美夕を抱きしめ、呆然と母を見送るしか出来ない夕梨。

ほどなくして聞こえた、男達の怒声と数発の銃声。


この日、夕梨と美夕は最愛の両親を一度に失った。




§§§


§§§




 ……それから5年の月日がたった。

 夕梨は13歳、赤ん坊だった美夕は5歳になった。

夕梨と美夕は、父の古い友達の家にお世話になっていた。
親族がいない両親は、万が一の時のためにとお願いしてあったのだ。


 父の友人に我が子のように育てられ、何不自由なく暮らしていた。

しかし夕梨は、あの日の事をけして忘れる事はなかった。
そして、大好きな両親の命を奪った奴らへの復讐……
そしてついに、それを実行に移したのだ。



§§§




 …全員が寝静まった夜。
夕梨は必要最低限の荷物を持ち、書き置きを残し、そっと家を出た。


 戻るつもりはなかった。
奴らを消したら、自分も死ぬつもりでいた。
正直、美夕を一人にしてしまうのは、心苦しい。

 でもそれ以上に、奴らがヘラヘラ生きているのがどうしても解せない。
自らの手で、奴らに引導を渡してやる……。

 復讐に囚われた夕梨の心は荒み、次第に壊れていった。



 「恨みや憎しみは何も生まないからね」


母が言った言葉は、この時の夕梨の心からスッポリ抜けていた。



§§§




 朝、美夕は夕梨がいない事に気がついた。

そして、理解した。

「復讐を果たしに行った」と……


 でも美夕は、優しかった姉が帰ってきてくれる事を願わずにはいられなかった。なぜなら…また大切な家族を失うなんて堪えられなかったから…。



§§§


それから10年の年月が流れて行った。

少女だった夕梨は23歳に、幼女だった美夕は15歳になっていた。


 美夕は、いまだ帰って来ない姉をひたすら待ち続けた。
いつか、いつか「ただいま」と帰ってくる日を夢見て。

 でも、同時に不安感も大きくなった。
もしかして、もう…と何度も考えてしまう。

 一度考えてしまうと、もうダメだ。
居ても立っても居られない。

 そこで、美夕は学校のクラスメートから聞いた《よろず屋》へ依頼する事にした。


§§§


 「くっ…!!」

真っ赤に染まった肩を押さえ、壁にもたれるようにして移動する、一つの影。

 ショートカットに切り揃えられた紅い髪……。
鋭く光る鮮血を思わせる紅い眼……。
そして、右手には鞭。


…夕梨は生きていた。


様々な邪魔が入り、ずいぶんと時間が掛かったが、ようやく、奴らの本拠地に潜りこむ事が出来たのだ。

 しかし、些か劣勢気味の状態だった。

潜りこんだまでは良いのだが、予想以上に警備が厳しく、取り囲まれ右肩を撃たれた。


「やっと、ここまで来たのに…」


近づいてくる敵のにおいと足音…
そして、出血が酷く思うように動かない体。


「いたぞ!!」

「殺せ!!」

「生かして帰すな!!」


…あぁ、ここまでかな……

と、逃げる事を諦め、目を閉じる。


 ふと、母の言葉を思い出す。

「恨みな憎しみが生むのは悲しみだけだから…」



「…はは。本当だね。ロクな事ないね。母さん、父さん……美夕、一人ぼっちにしちゃうね。ごめん、ね……」



と、その時、




ドゴーン!!



***


 凄まじい爆音のあと、モウモウと煙りが立ち込め、視界を奪われる。


 とたんに、夕梨の体は何者かに抱え上げられ、その場から離れた。


「なんやなんや。びびってんか?情けない奴らや!!」

「ロザリア、今日は許します!好きにやっちゃってください!!」


 あまり突然の事に、呆然としている夕梨。
すると、夕梨を担いでいた人物が、

「おい、何危険な発言をしているんだ。琥珀」

と、窘めるように言うと、ゆっくり夕梨を下に下ろす。

それとほぼ同時に、煙が晴れていく。



 次の瞬間、夕梨の目に映ったのは、トンファーを持った銀髪の少女と、なにやらこちらに喚いている身の丈ほどあるバズーカを担いだ、金髪ツインテールの少女と自分のとなりにいる、こちらも金髪で右側の髪を黒のリボンで結った、黒スーツを着た少女。(どうやらツインテールの子は自分のとなりの彼女に喚いているようだ)


琥珀と呼ばれた銀髪の少女が、

「間に合ってよかったです。さ、帰りましょう!」


手を差し出す。

夕梨は困惑した。

「え…?帰るってどこへ?それにまだ……!!」


すると、ロザリアと呼ばれたツインテールの少女が、

「そのザマでまだ言うんか!意地張んのもいい加減にしいや!!」


外見に似合わず、流暢な関西弁で叱り飛ばされる。


夕梨はムキになり、言い放った。


「……奴らは、私が。父さんと母さんの仇を取るまでは…!!」


何かを察したらしい、レスカと呼ばれたスーツの少女は、静かに

「……復讐を果たしたら、どうするつもりだったんだ?」

と、聞いた。


「……!!そ、それは…」
思わず顔をそらす。


すると…


「死ぬつもりだったんですね………ばか!!」

「な、!?」

突然怒鳴られ、ビクッとなる。


「復讐なんて、そんなことあなたのご両親が望んでいるとでも?
しかも、死のうだなんて!!美夕さんはどうするんです?」


琥珀は、赤い目にうっすらと涙を浮かべ、訴える。


「……っ!」

……夕梨は何も言えずに押し黙る。


 すると、傍らにいたレスカが、そんな夕梨を一瞥し、静かに言った。


「お前が、家を出てから10年間、美夕はずっとお前を待ち続けているんだ。いつか帰ってくると信じて…な」

…美夕が?突然いなくなった私を??


……美夕……美夕………


「!!………ぅうっ……」


涙が込み上げた。



逢いたい……美夕に逢いたい!!


するとロザリアは、目線を合わせるようにしゃがみ込み、


「奴らの事はウチら任せとき!あんさんは、さっさと妹んとこ行って、安心させてやらんと、な?」


ぽんっと肩を叩かれ、顔を覗き込まれた。


「……ん。…ありがとう…」

夕梨は、精一杯の笑顔で3人に礼を言った。


琥珀が優しく微笑み、

「さて、行きましょうか。美夕さんのところへ。」


と手を差し延べる。その手を掴もうと手を伸ばす夕梨。

「……美夕……今帰るよ…」


しかし、その手は琥珀の手には届かず、もう少しというところで、パタリと落ちる。


「え?!夕梨さん!!」

琥珀はオロオロと声を掛ける。


夕梨の手首に手を当てたレスカは、


「……心配ない。気を失っているだけだ。妹に逢わせる前に病院だな…」


と心なしかホッとしたように呟いた。


「まったく、人騒がせな姉ちゃんや」


ロザリアが、ヤレヤレと首をふる。


そんなロザリアを見て、レスカが一言、


「それを、お前が言うのか…」

と窘める。


すると、

「あん?やんのかゴラ!!」

噛み付かんばかりに、食いつくロザリア。


早くも乱闘勃発…かというところで、琥珀があわてて止めに入る。


「ちょ、喧嘩はやめてください!」


§§§



そのあと、夕梨は桜花町にある病院に搬送された。


心身ともに疲れ果てていた夕梨は、そのまま3日ほど眠りつづけた。

目が覚めたあと、奴らは琥珀達よろず屋により、壊滅したと聞いた。

そして…

首謀者である男は、15年前に夕梨達の両親を殺したことを認めた。

さらに、その後も恐喝や暴行事件、はたまた誘拐殺人などの前科も発覚。
もはや、救いようがないということで、然るべき処分を受けることとなった。

おそらく、もう塀の中からは出られないだろう。

これで、すべて終わったのだ。



*
**
***

「…あ、お姉ちゃん!!」

夕梨が、再びウトウトしていると、聞き慣れた声が聞こえる。
起き上がり、ゆっくり振り返る。


そこには制服に身を包んだ美夕が笑みを浮かべ手を振っている。


「迎えに来たよ!帰ろう!」

美夕のその言葉に、夕梨は嬉しそうに微笑み返し、美夕の元に歩いていく。


《夕梨、美夕…》


ふと、呼ばれた気がして空を仰ぐ。


お父さん、お母さん。


私と美夕は、大切な仲間がいるこの町で、生きていきます。

いつか、二人のもとにいく日まで、精一杯誇りを持って生きていきます。


きっと、私たちは大丈夫。


だから、その時まで



さようなら……


忌まわしい、悲しい記憶。でも、忘れてはいけない…繰り返してはいけない、それは、私たちの心の中にある、



《緋色の記憶》



《END》

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