X'masという事でちろちろと書いてみました。毎度の事ながら駄文です。
White X'mas
12/23……。
街は色とりどりのイルミネーションが輝き、中央の広場には巨大なクリスマスツリー。サンタの格好をしたケーキ屋の店員が駅前でビラを配る中を、スタスタと歩く人物がいた。
黒いスーツに、イルミネーションの僅かな光を受け、キラキラひかる金髪は、右側をスーツと同じ、黒いリボンで留めている。
透けるような白肌に、サファイアを思わせる青い瞳。
言わずもがな、よろず屋従業員の一人、レスカである。
「全く……人が多いな。歩いているだけで酔いそうだ…」
幾分くたびれた様子のレスカ。それもそのはず、よろず屋の仕事と姉のBarの手伝いの梯子をこなし、ようやく帰宅の途に着けたのだ。
「早く帰って、眠りた……ん?」
欠伸を噛み殺しながら、辺りを見渡したレスカの目に、ある広告が止まった。
「……?クリスマスケーキコンテスト?優勝商品は…………パーティー一式?………一式ってなんだ?」
人の波を外れ、広告によく目を通すと、どうやらエントリーすれば誰でも参加出来るらしいが、優勝商品についての詳しい記載はなかった。
しばらく、広告と睨めっこしているレスカに、サンタの格好をした店員と思しき人物が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ~!!ケーキはいかがですか?………って、レスカじゃない!!」
「!?……葵じゃないか。そんな格好で何をしているのだ?」
「何って……ケーキ屋さんのアルバイトだよ」
店員の正体は、レスカのクラスメートの葵だった。だぼだぼなサンタの衣装に身を包み、手には一口サイズの試食用のケーキを持っている。
「こんな時間まで大変だな」
「まあね。今が掻き入れ時だからね。当日なんて殆ど半額だからね。今のうちにバシバシ売らないと!」
「ふーん」
「レスカ!ケーキはいかがですか?」
試食する?と差し出された小さなケーキを受け取り、レスカは無造作に口に放り込む。口に広がる洋菓子特有の濃厚な甘さに、レスカは少し顔をしかめながら飲み込んだ。そして、葵にあの広告の事を聞いてみた。
「葵、あの広告は?」
「広告?……ああ、あれね。毎年恒例の『クリスマスケーキコンテスト』でぇす!!」
「毎年?…え?毎年!?」
「……なんで二回聞いたの?まあいいけどさ。知らない?」
「ああ……初耳だ」
この街に来てかなり経つはずだが、そんな行事があったとは。基、レスカ自身、あまり菓子に興味がない…というのもある。だが、
「うちのオーナーは何も言っていなかったが」
「琥珀姉?毎年参加してるよ?知らなかったの?」
「は?毎年参加してる?それこそ初耳だぞ!?」
「マジで。ああでも、レスカってお菓子あんまり好きじゃないから、敢えて言わなかったんじゃない?
「……そうか。道理で毎年、すごい量のケーキが冷蔵庫にある訳だ」
毎年、様々なケーキが(多分失敗作)冷蔵庫を埋め尽くしていたが、そういう理由ならば納得行く。
「え?なになに?レスカも参加したいの?」
「え?いや、そういうわけでは…」
「してよ!しようよ!てかしろ!!」
「……何気に命令したな」
「だって、レスカってこういうイベント出たことないじゃない!?」
「ま、まあ…」
「琥珀姉も喜ぶと思うけどなあ」
「…………」
今までを思い返してみると、確かにイベントには参加した事はない。ロザリア辺りは面白がって参加しているようだが(賑やかなのが好きだから)、これまでそういうモノとは無縁で生きてきた自分には、未知の世界だ。しかし、やってみる事でわかる楽しさややり甲斐もあるはず。
(今年はこれで仕事納めだしな。たまには参加してみるか?)
そう考えたレスカは、葵が差し出した参加用紙に名前を書く。
一体どんなコンテストなのか。少しワクワクした。
(クス………変わったな。私も…)
らしくないと心の中で笑いながら、いくらか人が少なくなった広場を横切り、帰途に着いた。
……コンテスト当日。
「まさか、レスカが参加したいって言ってくるなんて、驚きました!」
「ん?…好奇心というか、心変わりというか。まあ、よろしく頼む」
「はい!頑張りましょうね!」
会場に着き、用意を進める二人。あの後、琥珀に参加を伝えると、かなり驚かれたが、凄く喜んでくれた。それに加え、最近、殺伐とした依頼が多かったせいもあり、琥珀は俄然張り切っていた。
「参加は私たちだけか?」
「いえ、ロザリアと柚希ちゃんと………ユリアも来ます」
「……ユリア、か。大丈夫なのか?あいつの事だ、私たちの目を盗んで殺人兵器を作り出すぞ」
「は、はい。今まで内緒にしていたんですけど、葵が話しちゃったみたいで。私も参加する!って聞かなくて」
ユリアの料理は壊滅的。それはよろず屋の常識だ。彼女の作り出す『兵器』は下手な毒より強力で、しかもそれは、本来ならば無害なものから作られるため、ある意味、すごい才能だ。
そんな彼女が参加するのだ。しかも、なぜだか知らないが、自分の料理に絶対の自身を持っている。
おそらく今回も、琥珀の言うことは聞かないだろう。
「なんだか不安になってきました…」
「おいおい。始まる前から不吉な事を言うな。ロザリアと柚希もいるんだ、何とかなるさ」
「………はい;;」
レスカは見るからに落ち込み始めた琥珀を慰めながら、準備を進めた。
…………―
………―
暫くして、ロザリア、柚希とユリアが到着した。三人はレスカがいる事に些か驚いたようだ。
「なんや、どういう風の吹き回しなん?」
「珍しいよね。レスカがこういう場にいるの」
「レスカってお料理出来たっけ?」
「ん?それなりに出来るぞ?バーに手伝いに行った時なんか、つまみとか作っているし…」
「えぇ!?バーってマリアさんとこのだよね?あそこのガーリックトースト美味しいんだよね!もしかして?」
「多分、私のレシピだな。それを姉さんが作ってるんだろう」
レスカの意外な特技を聞き、驚きと感心の一同。
「もしかしたら優勝出来るかも!ね!琥珀さん!!」
「はい!そうですね!でも問題が……」
「?………あ!そういえばユリアがおるやん!なんでおるんや!?」
ロザリアはユリアが来るとは思っていなかったらしく、驚きの声を上げた。
「ええ?なんで驚いてるのよ!こういう事に私は付き物でしょ!?」
「付き物ねぇ………どっちかゆうたら憑き物やんな…」
「?なんか言った?ロザリア?」
「べつにー」
「ふーん。ま、私が居れば百人力だよ?大船に乗ったつもりで任せてよ!」
「………泥船の間違いやろ……」
「言ってやるな、ロザリア」
「そこまで言っちゃ可哀相だよ;」
「え?なになに?なんの話?」
「「「「なんでもない(です)」」」」
「そう?さ、頑張って優勝ねらうぞ!!オー!!」
「「「「…オー………」」」」
張り切るユリアに不安を抱えつつ、いよいよコンテストが始まった。
コンテストは………散々だった。
「ちょ、ユリア!!なんで唐辛子いれるの!?」
「だって!辛いほうが美味しいじゃない!!」
「………ユリア、何を作っているか分かるか?」
「え?ケーキでしょ?昨日雑誌で見たの!!赤いケーキ!!」
「それ、多分唐辛子じゃなくてトマトです…」
見よう見真似でアレンジをしようとするユリアに、ほとほと手を焼く一同。もう優勝はおろか、入賞するかすら怪しくなってきた。
「やっぱりこういうのはインパクトが大事よ!これもいれちゃおう!!」
「あ、おい!それは……」
「あーあ、やりおった…」
入れたのは大量の……
おろしニンニク……
「ああ……もう……;;」
「もうダメです……諦めましょう…;」
「え!なんで!?わからないじゃない?もしかしたらすっごく美味しいかも!!」
「んなら、ユリア全部食べぇな…」
「ええー?なんで私が?皆が食べてよ。きっと美味しいよ!」
「………作り直すか。まだ時間はある…」
「そうだね。ユリアには悪いけど、あんなの出せないよ」
ユリア達のやり取りを聞いていた、レスカと柚希は作り直すため、別のテーブルへと移動した。
………………―
……………―
…………―
「はい!では審査に入ります!皆さん、出来上がりましたケーキをこちらにお持ちください!」
司会者の声に、参加者が自作のケーキを、審査員のテーブルに置く。そんな中、琥珀たちは異様な物体と化したモノを持っていこうとするユリアを、必死で止めていた。
「ダメです!」
「なんで!?美味しいのに!」
「なら自分で食べてから持っていけや!」
「なんで私が?みんなが食べてよ~!!」
「「いや(や)(です)!!」」
「いいもん!ならあの人達に食べてもらうから!!」
ユリアは不機嫌そうに膨れると、ケーキを持ち審査員のほうへ走って行った。
「ああ…行っちゃいました…」
「はあ………ウチもう知らんわ…」
琥珀とロザリアは絶望やら諦めやらで脱力し、ユリアの背中を見送った。
…………………―
……………―
…………―
「さて!お次の方、どうぞ!!」
「はあい!!」
意気揚々とケーキを手に審査員の前に立つのは、殺人コックユリア。少し後ろで琥珀とロザリアが俯き加減で立っている。ふと、ロザリアが辺りを見回し、琥珀につぶやく。
「なあ、レスカと柚希は?」
「さあ?そういえばいませんね。…見捨てられちゃったかもしれないです」
「まあ、こんな状態じゃあなぁ」
琥珀とロザリアはお互いにため息を付くと、再び俯いた。
「え、と、これは?」
「ケーキです!美味しいですよ!!」
「へ、へぇ……ずいぶんと赤いけど何が入ってるのかな?」
「ふふ……食べてみてからのお楽しみです!」
「そうか………じゃあ…」
と、審査員がケーキに手を付けようとしたその時、
「「ちょっと待った!」」
「「!!」」
突然声が上がった。
会場の人達が一斉に声のしたほうを見ると、そこにいたのは、白い布が掛けられたものを手に立つレスカと柚希だった。
「それは失敗作で、こっちがよろず屋のケーキです」
柚希がそう言うと、レスカは手に持ったケーキを審査員の前に置いた。一瞬呆気に取られたユリアだが、すぐに言い返した。
「ちょ、失敗作って何よ!絶対美味しいんだから!!」
「味見はしたか?ユリア。こんな所で人死にを出す訳にはいかない」
「ユリア、アレンジはちゃんとレシピ通りに作れるようにならないとダメだって教えたでしょ?」
「うぐっ……;」
ユリアはぐっと詰まるとおとなしくなり、作ったケーキを持ち後ろに下がって行った。
「じゃあ、こっちのケーキを審査すればいいんだね。さっそく戴いてみようか」
審査員がそう言うと、柚希がケーキに掛かった白い布をとる。
「「「「わああ!!」」」」
会場が感嘆の声を上げた。そこには、まるで一流パティシエが作ったようなケーキがあった。
「ガトーショコラです。飾りはシンプルに粉砂糖のみにしました。男性でも食べれるように、甘さは少し控えめにしてあります」
柚希は切り分けながら説明する。
審査員は目の前に置かれたケーキを暫く観察していたが、一人、また一人とケーキを口に運んだ。
「う、美味い!!」
「こんなケーキ初めて!!」
「少し洋酒が入ってるね。チョコレートと合わさってとても上品な味だ」
「粉砂糖のモミの木とサンタの絵もかわいいね。洋酒が入っていなければ子供も喜びそう」
「パーティーにもいいけど、大切な人と二人でお祝いするときもいいわね。盛り上がるわよ!!」
次々上げられる称賛の声に、レスカと柚希は小さくガッツポーズをした。
………………―
……………―
…………―
「さあ、結果発表です!!優勝商品は、クリスマスのパーティー料理やジャズの生演奏付きの高級ホテルの会場です!!では、審査員長の町内会会長、お願いします!!」
司会者がそう言うと、白髪の小柄なおじさんがあらわれた。司会者からマイクを受け取ると、一つ咳ばらいをした。
「え~、皆さん、お疲れ様でした。皆さんの作品はそれぞれとても素晴らしく、審査員もかなり悩みました。さて、厳正なる審査の結果、優勝者は……」
ゴクリ…
と皆が息をのんだ。
「優勝者はよろず屋さんの『ガトーショコラ』です!!おめでとう!!」
「ゆ、優勝……か?」
「やった!!やりましたよ!!」
「よしゃ!!一時はどうなることかと思っとったけど…」
「ふふふ…良かったですね。琥珀さん」
「はい!これも二人のおかげですっ!ありがとうございます!!」
「やれやれだな……おい、ユリア。優勝だぞ」
先程から大人しいユリアに向くと、口をへの字に曲げ俯いていた。
「………うん…」
「なんやなんや。なあに拗ねとんのや」
「ユリアも頑張りましたよ?元気出してください」
ロザリアと琥珀が慰めると、ユリアが泣きそうな顔をしながら呟いた。
「だって……私、また皆の足引っ張っちゃって……」
ゴメンなさい。と頭を下げたユリアに柚希は優しく微笑む。
「ユリアが一生懸命なのは皆分かってるから。だから謝らなくていいの。ね?」
「柚……ん、ありがと」
ユリアに笑顔が戻る。そんなユリアにレスカが前に出るように促す。ユリアは最初は渋っていたが、皆に急かされ前に出た。
「「「「わああ!!」」」」
パチパチパチ………
割れるような拍手と、賛辞の声に照れ臭そうに笑うユリアに、琥珀たちはにこやかに笑っていた。
………………―
……………―
…………―
X'mas当日、高級ホテルの広場によろず屋一同がいた。従業員の関係者をすべて招待して、かなりの人数になったが、綺麗に飾られた大きなツリーを囲み、美味しい料理とお酒、耳に心地好いジャズ……そして、レスカと柚希が作ったケーキ。
よろず屋一同は夢のような賑やかで楽しいX'masを送ったのだった。
White X'mas
12/23……。
街は色とりどりのイルミネーションが輝き、中央の広場には巨大なクリスマスツリー。サンタの格好をしたケーキ屋の店員が駅前でビラを配る中を、スタスタと歩く人物がいた。
黒いスーツに、イルミネーションの僅かな光を受け、キラキラひかる金髪は、右側をスーツと同じ、黒いリボンで留めている。
透けるような白肌に、サファイアを思わせる青い瞳。
言わずもがな、よろず屋従業員の一人、レスカである。
「全く……人が多いな。歩いているだけで酔いそうだ…」
幾分くたびれた様子のレスカ。それもそのはず、よろず屋の仕事と姉のBarの手伝いの梯子をこなし、ようやく帰宅の途に着けたのだ。
「早く帰って、眠りた……ん?」
欠伸を噛み殺しながら、辺りを見渡したレスカの目に、ある広告が止まった。
「……?クリスマスケーキコンテスト?優勝商品は…………パーティー一式?………一式ってなんだ?」
人の波を外れ、広告によく目を通すと、どうやらエントリーすれば誰でも参加出来るらしいが、優勝商品についての詳しい記載はなかった。
しばらく、広告と睨めっこしているレスカに、サンタの格好をした店員と思しき人物が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ~!!ケーキはいかがですか?………って、レスカじゃない!!」
「!?……葵じゃないか。そんな格好で何をしているのだ?」
「何って……ケーキ屋さんのアルバイトだよ」
店員の正体は、レスカのクラスメートの葵だった。だぼだぼなサンタの衣装に身を包み、手には一口サイズの試食用のケーキを持っている。
「こんな時間まで大変だな」
「まあね。今が掻き入れ時だからね。当日なんて殆ど半額だからね。今のうちにバシバシ売らないと!」
「ふーん」
「レスカ!ケーキはいかがですか?」
試食する?と差し出された小さなケーキを受け取り、レスカは無造作に口に放り込む。口に広がる洋菓子特有の濃厚な甘さに、レスカは少し顔をしかめながら飲み込んだ。そして、葵にあの広告の事を聞いてみた。
「葵、あの広告は?」
「広告?……ああ、あれね。毎年恒例の『クリスマスケーキコンテスト』でぇす!!」
「毎年?…え?毎年!?」
「……なんで二回聞いたの?まあいいけどさ。知らない?」
「ああ……初耳だ」
この街に来てかなり経つはずだが、そんな行事があったとは。基、レスカ自身、あまり菓子に興味がない…というのもある。だが、
「うちのオーナーは何も言っていなかったが」
「琥珀姉?毎年参加してるよ?知らなかったの?」
「は?毎年参加してる?それこそ初耳だぞ!?」
「マジで。ああでも、レスカってお菓子あんまり好きじゃないから、敢えて言わなかったんじゃない?
「……そうか。道理で毎年、すごい量のケーキが冷蔵庫にある訳だ」
毎年、様々なケーキが(多分失敗作)冷蔵庫を埋め尽くしていたが、そういう理由ならば納得行く。
「え?なになに?レスカも参加したいの?」
「え?いや、そういうわけでは…」
「してよ!しようよ!てかしろ!!」
「……何気に命令したな」
「だって、レスカってこういうイベント出たことないじゃない!?」
「ま、まあ…」
「琥珀姉も喜ぶと思うけどなあ」
「…………」
今までを思い返してみると、確かにイベントには参加した事はない。ロザリア辺りは面白がって参加しているようだが(賑やかなのが好きだから)、これまでそういうモノとは無縁で生きてきた自分には、未知の世界だ。しかし、やってみる事でわかる楽しさややり甲斐もあるはず。
(今年はこれで仕事納めだしな。たまには参加してみるか?)
そう考えたレスカは、葵が差し出した参加用紙に名前を書く。
一体どんなコンテストなのか。少しワクワクした。
(クス………変わったな。私も…)
らしくないと心の中で笑いながら、いくらか人が少なくなった広場を横切り、帰途に着いた。
……コンテスト当日。
「まさか、レスカが参加したいって言ってくるなんて、驚きました!」
「ん?…好奇心というか、心変わりというか。まあ、よろしく頼む」
「はい!頑張りましょうね!」
会場に着き、用意を進める二人。あの後、琥珀に参加を伝えると、かなり驚かれたが、凄く喜んでくれた。それに加え、最近、殺伐とした依頼が多かったせいもあり、琥珀は俄然張り切っていた。
「参加は私たちだけか?」
「いえ、ロザリアと柚希ちゃんと………ユリアも来ます」
「……ユリア、か。大丈夫なのか?あいつの事だ、私たちの目を盗んで殺人兵器を作り出すぞ」
「は、はい。今まで内緒にしていたんですけど、葵が話しちゃったみたいで。私も参加する!って聞かなくて」
ユリアの料理は壊滅的。それはよろず屋の常識だ。彼女の作り出す『兵器』は下手な毒より強力で、しかもそれは、本来ならば無害なものから作られるため、ある意味、すごい才能だ。
そんな彼女が参加するのだ。しかも、なぜだか知らないが、自分の料理に絶対の自身を持っている。
おそらく今回も、琥珀の言うことは聞かないだろう。
「なんだか不安になってきました…」
「おいおい。始まる前から不吉な事を言うな。ロザリアと柚希もいるんだ、何とかなるさ」
「………はい;;」
レスカは見るからに落ち込み始めた琥珀を慰めながら、準備を進めた。
…………―
………―
暫くして、ロザリア、柚希とユリアが到着した。三人はレスカがいる事に些か驚いたようだ。
「なんや、どういう風の吹き回しなん?」
「珍しいよね。レスカがこういう場にいるの」
「レスカってお料理出来たっけ?」
「ん?それなりに出来るぞ?バーに手伝いに行った時なんか、つまみとか作っているし…」
「えぇ!?バーってマリアさんとこのだよね?あそこのガーリックトースト美味しいんだよね!もしかして?」
「多分、私のレシピだな。それを姉さんが作ってるんだろう」
レスカの意外な特技を聞き、驚きと感心の一同。
「もしかしたら優勝出来るかも!ね!琥珀さん!!」
「はい!そうですね!でも問題が……」
「?………あ!そういえばユリアがおるやん!なんでおるんや!?」
ロザリアはユリアが来るとは思っていなかったらしく、驚きの声を上げた。
「ええ?なんで驚いてるのよ!こういう事に私は付き物でしょ!?」
「付き物ねぇ………どっちかゆうたら憑き物やんな…」
「?なんか言った?ロザリア?」
「べつにー」
「ふーん。ま、私が居れば百人力だよ?大船に乗ったつもりで任せてよ!」
「………泥船の間違いやろ……」
「言ってやるな、ロザリア」
「そこまで言っちゃ可哀相だよ;」
「え?なになに?なんの話?」
「「「「なんでもない(です)」」」」
「そう?さ、頑張って優勝ねらうぞ!!オー!!」
「「「「…オー………」」」」
張り切るユリアに不安を抱えつつ、いよいよコンテストが始まった。
コンテストは………散々だった。
「ちょ、ユリア!!なんで唐辛子いれるの!?」
「だって!辛いほうが美味しいじゃない!!」
「………ユリア、何を作っているか分かるか?」
「え?ケーキでしょ?昨日雑誌で見たの!!赤いケーキ!!」
「それ、多分唐辛子じゃなくてトマトです…」
見よう見真似でアレンジをしようとするユリアに、ほとほと手を焼く一同。もう優勝はおろか、入賞するかすら怪しくなってきた。
「やっぱりこういうのはインパクトが大事よ!これもいれちゃおう!!」
「あ、おい!それは……」
「あーあ、やりおった…」
入れたのは大量の……
おろしニンニク……
「ああ……もう……;;」
「もうダメです……諦めましょう…;」
「え!なんで!?わからないじゃない?もしかしたらすっごく美味しいかも!!」
「んなら、ユリア全部食べぇな…」
「ええー?なんで私が?皆が食べてよ。きっと美味しいよ!」
「………作り直すか。まだ時間はある…」
「そうだね。ユリアには悪いけど、あんなの出せないよ」
ユリア達のやり取りを聞いていた、レスカと柚希は作り直すため、別のテーブルへと移動した。
………………―
……………―
…………―
「はい!では審査に入ります!皆さん、出来上がりましたケーキをこちらにお持ちください!」
司会者の声に、参加者が自作のケーキを、審査員のテーブルに置く。そんな中、琥珀たちは異様な物体と化したモノを持っていこうとするユリアを、必死で止めていた。
「ダメです!」
「なんで!?美味しいのに!」
「なら自分で食べてから持っていけや!」
「なんで私が?みんなが食べてよ~!!」
「「いや(や)(です)!!」」
「いいもん!ならあの人達に食べてもらうから!!」
ユリアは不機嫌そうに膨れると、ケーキを持ち審査員のほうへ走って行った。
「ああ…行っちゃいました…」
「はあ………ウチもう知らんわ…」
琥珀とロザリアは絶望やら諦めやらで脱力し、ユリアの背中を見送った。
…………………―
……………―
…………―
「さて!お次の方、どうぞ!!」
「はあい!!」
意気揚々とケーキを手に審査員の前に立つのは、殺人コックユリア。少し後ろで琥珀とロザリアが俯き加減で立っている。ふと、ロザリアが辺りを見回し、琥珀につぶやく。
「なあ、レスカと柚希は?」
「さあ?そういえばいませんね。…見捨てられちゃったかもしれないです」
「まあ、こんな状態じゃあなぁ」
琥珀とロザリアはお互いにため息を付くと、再び俯いた。
「え、と、これは?」
「ケーキです!美味しいですよ!!」
「へ、へぇ……ずいぶんと赤いけど何が入ってるのかな?」
「ふふ……食べてみてからのお楽しみです!」
「そうか………じゃあ…」
と、審査員がケーキに手を付けようとしたその時、
「「ちょっと待った!」」
「「!!」」
突然声が上がった。
会場の人達が一斉に声のしたほうを見ると、そこにいたのは、白い布が掛けられたものを手に立つレスカと柚希だった。
「それは失敗作で、こっちがよろず屋のケーキです」
柚希がそう言うと、レスカは手に持ったケーキを審査員の前に置いた。一瞬呆気に取られたユリアだが、すぐに言い返した。
「ちょ、失敗作って何よ!絶対美味しいんだから!!」
「味見はしたか?ユリア。こんな所で人死にを出す訳にはいかない」
「ユリア、アレンジはちゃんとレシピ通りに作れるようにならないとダメだって教えたでしょ?」
「うぐっ……;」
ユリアはぐっと詰まるとおとなしくなり、作ったケーキを持ち後ろに下がって行った。
「じゃあ、こっちのケーキを審査すればいいんだね。さっそく戴いてみようか」
審査員がそう言うと、柚希がケーキに掛かった白い布をとる。
「「「「わああ!!」」」」
会場が感嘆の声を上げた。そこには、まるで一流パティシエが作ったようなケーキがあった。
「ガトーショコラです。飾りはシンプルに粉砂糖のみにしました。男性でも食べれるように、甘さは少し控えめにしてあります」
柚希は切り分けながら説明する。
審査員は目の前に置かれたケーキを暫く観察していたが、一人、また一人とケーキを口に運んだ。
「う、美味い!!」
「こんなケーキ初めて!!」
「少し洋酒が入ってるね。チョコレートと合わさってとても上品な味だ」
「粉砂糖のモミの木とサンタの絵もかわいいね。洋酒が入っていなければ子供も喜びそう」
「パーティーにもいいけど、大切な人と二人でお祝いするときもいいわね。盛り上がるわよ!!」
次々上げられる称賛の声に、レスカと柚希は小さくガッツポーズをした。
………………―
……………―
…………―
「さあ、結果発表です!!優勝商品は、クリスマスのパーティー料理やジャズの生演奏付きの高級ホテルの会場です!!では、審査員長の町内会会長、お願いします!!」
司会者がそう言うと、白髪の小柄なおじさんがあらわれた。司会者からマイクを受け取ると、一つ咳ばらいをした。
「え~、皆さん、お疲れ様でした。皆さんの作品はそれぞれとても素晴らしく、審査員もかなり悩みました。さて、厳正なる審査の結果、優勝者は……」
ゴクリ…
と皆が息をのんだ。
「優勝者はよろず屋さんの『ガトーショコラ』です!!おめでとう!!」
「ゆ、優勝……か?」
「やった!!やりましたよ!!」
「よしゃ!!一時はどうなることかと思っとったけど…」
「ふふふ…良かったですね。琥珀さん」
「はい!これも二人のおかげですっ!ありがとうございます!!」
「やれやれだな……おい、ユリア。優勝だぞ」
先程から大人しいユリアに向くと、口をへの字に曲げ俯いていた。
「………うん…」
「なんやなんや。なあに拗ねとんのや」
「ユリアも頑張りましたよ?元気出してください」
ロザリアと琥珀が慰めると、ユリアが泣きそうな顔をしながら呟いた。
「だって……私、また皆の足引っ張っちゃって……」
ゴメンなさい。と頭を下げたユリアに柚希は優しく微笑む。
「ユリアが一生懸命なのは皆分かってるから。だから謝らなくていいの。ね?」
「柚……ん、ありがと」
ユリアに笑顔が戻る。そんなユリアにレスカが前に出るように促す。ユリアは最初は渋っていたが、皆に急かされ前に出た。
「「「「わああ!!」」」」
パチパチパチ………
割れるような拍手と、賛辞の声に照れ臭そうに笑うユリアに、琥珀たちはにこやかに笑っていた。
………………―
……………―
…………―
X'mas当日、高級ホテルの広場によろず屋一同がいた。従業員の関係者をすべて招待して、かなりの人数になったが、綺麗に飾られた大きなツリーを囲み、美味しい料理とお酒、耳に心地好いジャズ……そして、レスカと柚希が作ったケーキ。
よろず屋一同は夢のような賑やかで楽しいX'masを送ったのだった。
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