『知るがいい……。自分の罪を、傷つき虐げられた者たちの苦しみを………』
すっかり夜も更け、静寂が辺りをつつむ。
一匹の青い蝶が、ヒラヒラとある家のベランダに舞い降りた。
音も無く窓が開き、シルクハットにタキシードを身につけた蒼い髪の青年…ジューンが部屋に入って行く。そして、部屋の主が寝ているベッドの側まで歩み寄る。
「長谷川美香……お前の夢を今、悪夢に変えてやろう」
ジューンはそう呟くと、美香の額に手を翳す。すると、白い光が灯りそれを確認すると、ジューンは指をパチンと鳴らし、自らを蝶の姿に変え、その光の中に入っていった。と同時に白い光は美香の頭の中へと消えていった。
ジューンは美香の夢の中に介入した。ナイトメアが一人でも夢への介入に成功すれば、すべてのナイトメアがターゲットの夢の中に入れる。エイプリルは天性のおっちょこちょいで、失敗する確率がかなり高いため、ジューンがその役目を担ったのだ。
大事な恋人のため、美香とのコンタクトを引き受けたジューンは、最初は些か乗り気ではなかった。何故かと言えば、ジューンが女性と関わると、必ず面倒事(惚れられる)になるのだ。エイプリル命のジューンにとっては酷い言い方をすれば、他の女性はすべてカボチャかじゃがいもに見えてしまうのだ。しかし、悪夢へ誘うには一番初めのコンタクトが重要なのだ。警戒心を持たれず、悪夢の中に入れなければ、今までの準備が水の泡になってしまう。警戒されたり、逃げられるとその時点で、悪夢は壊れてしまうのだ。
エイプリルは美香をよく思っていないどころか、雛の件でかなり頭にきている。感情的になることはこの任務には致命的だ。そこで、リープに言われジューンがやる事になったのだ。姉のような存在のリープに頼まれては、嫌ながらも頷くしかなかった。
「……エイプリルのためだ。やるしかない…!」
ジューンは夢の中にいるであろう、美香を捜すため、辺りに注意しながら暗闇の中を漂う。
しばらく探していると…………
「見つけた」
学校の校門らしき場所で、立ち尽くしている美香を発見した。ジューンは蝶の姿から青年の姿に戻り、美香に近づいていった。
《美香side》
「な、に?ここ……!!ここは!!」
美香困惑していた。眠ってしばらくして、突然何かに引っ張られるように飛ばされ、気がつくと見慣れた学校……。
そう、そこは美香が転校する前に通っていた学校。茜を陥れ、自殺に追い詰めるまで、おもちゃにしていた場所。
しかし、美香にとって、それは別に大した事ではなかった。なぜなら自分は『お姫様』だったから…。疑問なのは何故今になってこの場所の夢を見るのか……一人悶々と考えながら立ち尽くしていると、不意に後ろから声を掛けられる。
「こんばんは、お嬢さん」
はっと後ろを振り向く美香の目に映った人物は、黒いタキシードに身を包み、蒼い玉を付けたステッキを携え、シルクハットを被った蒼い髪の美青年だった。
(な、なに!この人!!私の隣に相応しい凄いイケメンじゃない!………これはモノにしなくちゃね…)
美香はにやける顔を引き締め、わざと恐る恐る振り返る。そして、目を潤ませながらか弱い女の子を演じ始めた。
「あ、あなたはだれぇ?ここはどこなのぉ…?」
美香は自分の美貌に自信があった。どんな男も落とす、上目遣いや首を傾げる仕草…すべてを駆使し、目の前の青年に媚びる。しかし、青年…ジューンは顔色一つ変えず、淡々と話しはじめる。
「俺はジューン。……覚えてないのか?君にとって楽しい思い出が詰まっている場所のはずだ」
美香は唖然とする。ジューンの言動よりも、自分の最高級なアピールに靡かないなんて…。しかし、そんな事でめげる美香ではない。ジューンの目の前まで歩み寄り、潤んだ上目遣いで見つめる。
「どぅいうことぉ?美香はずっと茜ちゃんにイジメられてて辛かったのにぃ……」
すがるようにジューンを見つめ、唇を震わせながら甘えるように言う。そんな美香を一瞥し、脇を通り過ぎて振り返る。
「話しはこの位にしておこう。ここは、君の思い出と向き合う場所…さあ、進むんだ。君の疑問の答えはこの先にある」
ジューンは奥に誘うように片手を校舎に向ける。
全く相手にされていない……ジューンの態度に美香はイライラした。
(美香がスルーされるなんて、有り得ない……有り得ないわ!)
美香は苛立ちをぐっと抑え、駄目押しをする。
「えぇ~…ジューンは一緒に来てくれないのぉ?美香、怖いよぉ……」
美香は、ジューンの服の裾を掴み、またも上目遣いで見つめる。そんな美香の手をそっと払い、シルクハットを目深に被り背を向ける。
「俺は一緒には行けない」
「なんでぇ?」
「君が自分で気付かなければ意味がないからだ。俺は先に行って待ってる。無事切り抜けられたら、また会おう…」
「え……?どういう……」
「じゃあ、俺はこれで………楽しい悪夢を……」
そう言い残すと、美香の言葉に答えず、ジューンはパチンと指を鳴らし、蒼い蝶の姿になり、校舎の方に飛んでいった。
一方の美香は、ジューンの言葉の意味を考えていた。
「美香が……気づく?切り抜けるってどういうこと?」
分からない…何もかも。そして何よりも、ジューンが自分に関心がないと言うことが。今まで、色んな男が自分に愛を囁き、チヤホヤしてきたのに……。しかし、ジューンにはどんな仕草も甘い言葉も通用しなかった。
「フフ……絶対美香のものにしてあげる……だってこの世に美香より可愛いい子なんていないんだから!!待っててね……ジューンννν……」
美香は妖しげに笑うと、校舎に向かい歩き始めた。
自分に降り懸かる、救いのない悪夢が、この先に待ち受けるとも知らずに………
《First contact》
すっかり夜も更け、静寂が辺りをつつむ。
一匹の青い蝶が、ヒラヒラとある家のベランダに舞い降りた。
音も無く窓が開き、シルクハットにタキシードを身につけた蒼い髪の青年…ジューンが部屋に入って行く。そして、部屋の主が寝ているベッドの側まで歩み寄る。
「長谷川美香……お前の夢を今、悪夢に変えてやろう」
ジューンはそう呟くと、美香の額に手を翳す。すると、白い光が灯りそれを確認すると、ジューンは指をパチンと鳴らし、自らを蝶の姿に変え、その光の中に入っていった。と同時に白い光は美香の頭の中へと消えていった。
ジューンは美香の夢の中に介入した。ナイトメアが一人でも夢への介入に成功すれば、すべてのナイトメアがターゲットの夢の中に入れる。エイプリルは天性のおっちょこちょいで、失敗する確率がかなり高いため、ジューンがその役目を担ったのだ。
大事な恋人のため、美香とのコンタクトを引き受けたジューンは、最初は些か乗り気ではなかった。何故かと言えば、ジューンが女性と関わると、必ず面倒事(惚れられる)になるのだ。エイプリル命のジューンにとっては酷い言い方をすれば、他の女性はすべてカボチャかじゃがいもに見えてしまうのだ。しかし、悪夢へ誘うには一番初めのコンタクトが重要なのだ。警戒心を持たれず、悪夢の中に入れなければ、今までの準備が水の泡になってしまう。警戒されたり、逃げられるとその時点で、悪夢は壊れてしまうのだ。
エイプリルは美香をよく思っていないどころか、雛の件でかなり頭にきている。感情的になることはこの任務には致命的だ。そこで、リープに言われジューンがやる事になったのだ。姉のような存在のリープに頼まれては、嫌ながらも頷くしかなかった。
「……エイプリルのためだ。やるしかない…!」
ジューンは夢の中にいるであろう、美香を捜すため、辺りに注意しながら暗闇の中を漂う。
しばらく探していると…………
「見つけた」
学校の校門らしき場所で、立ち尽くしている美香を発見した。ジューンは蝶の姿から青年の姿に戻り、美香に近づいていった。
《美香side》
「な、に?ここ……!!ここは!!」
美香困惑していた。眠ってしばらくして、突然何かに引っ張られるように飛ばされ、気がつくと見慣れた学校……。
そう、そこは美香が転校する前に通っていた学校。茜を陥れ、自殺に追い詰めるまで、おもちゃにしていた場所。
しかし、美香にとって、それは別に大した事ではなかった。なぜなら自分は『お姫様』だったから…。疑問なのは何故今になってこの場所の夢を見るのか……一人悶々と考えながら立ち尽くしていると、不意に後ろから声を掛けられる。
「こんばんは、お嬢さん」
はっと後ろを振り向く美香の目に映った人物は、黒いタキシードに身を包み、蒼い玉を付けたステッキを携え、シルクハットを被った蒼い髪の美青年だった。
(な、なに!この人!!私の隣に相応しい凄いイケメンじゃない!………これはモノにしなくちゃね…)
美香はにやける顔を引き締め、わざと恐る恐る振り返る。そして、目を潤ませながらか弱い女の子を演じ始めた。
「あ、あなたはだれぇ?ここはどこなのぉ…?」
美香は自分の美貌に自信があった。どんな男も落とす、上目遣いや首を傾げる仕草…すべてを駆使し、目の前の青年に媚びる。しかし、青年…ジューンは顔色一つ変えず、淡々と話しはじめる。
「俺はジューン。……覚えてないのか?君にとって楽しい思い出が詰まっている場所のはずだ」
美香は唖然とする。ジューンの言動よりも、自分の最高級なアピールに靡かないなんて…。しかし、そんな事でめげる美香ではない。ジューンの目の前まで歩み寄り、潤んだ上目遣いで見つめる。
「どぅいうことぉ?美香はずっと茜ちゃんにイジメられてて辛かったのにぃ……」
すがるようにジューンを見つめ、唇を震わせながら甘えるように言う。そんな美香を一瞥し、脇を通り過ぎて振り返る。
「話しはこの位にしておこう。ここは、君の思い出と向き合う場所…さあ、進むんだ。君の疑問の答えはこの先にある」
ジューンは奥に誘うように片手を校舎に向ける。
全く相手にされていない……ジューンの態度に美香はイライラした。
(美香がスルーされるなんて、有り得ない……有り得ないわ!)
美香は苛立ちをぐっと抑え、駄目押しをする。
「えぇ~…ジューンは一緒に来てくれないのぉ?美香、怖いよぉ……」
美香は、ジューンの服の裾を掴み、またも上目遣いで見つめる。そんな美香の手をそっと払い、シルクハットを目深に被り背を向ける。
「俺は一緒には行けない」
「なんでぇ?」
「君が自分で気付かなければ意味がないからだ。俺は先に行って待ってる。無事切り抜けられたら、また会おう…」
「え……?どういう……」
「じゃあ、俺はこれで………楽しい悪夢を……」
そう言い残すと、美香の言葉に答えず、ジューンはパチンと指を鳴らし、蒼い蝶の姿になり、校舎の方に飛んでいった。
一方の美香は、ジューンの言葉の意味を考えていた。
「美香が……気づく?切り抜けるってどういうこと?」
分からない…何もかも。そして何よりも、ジューンが自分に関心がないと言うことが。今まで、色んな男が自分に愛を囁き、チヤホヤしてきたのに……。しかし、ジューンにはどんな仕草も甘い言葉も通用しなかった。
「フフ……絶対美香のものにしてあげる……だってこの世に美香より可愛いい子なんていないんだから!!待っててね……ジューンννν……」
美香は妖しげに笑うと、校舎に向かい歩き始めた。
自分に降り懸かる、救いのない悪夢が、この先に待ち受けるとも知らずに………
《First contact》
END
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