13粒目



私には
平穏すら許されないの…?

Pure rain



「おはよう」

蓮汰との仲直りも出来、新たな希望を見出だした雪菜だったが、次の日の朝、いつも通り教室に入った雪菜は愕然とした。

「………うそぉ!」
「見かけによらずって感じ?」

自分を見て、ヒソヒソと話すクラスメイトに疑問を感じた雪菜は、人だかりが出来ている黒板に視線を写した。

「っ!?な、な…に?これ」

黒板に張り出された一枚の紙。そこには……

『イマドキの女子高生の楽しいアソビ』

という見出しの新聞記事。そこには写真が掲載されており、そこに写っているのは、紛れも無い雪菜自身だった。しかも、中年の男性と腕を組みホテル街らしき所を歩いている写真。しかし、雪菜には覚えは無かった。第一、ホテル街なんて足を踏み入れた事はなく、中年男性に知り合いはいない。しばらく呆然としていると、数人の女子に囲まれた。

「ふふっ……最低な淫乱女ね。蓮汰くんを裏切るなんて………悪魔よ!!」
「もう、蓮汰くんに近づかないでぇ?蓮汰くんが汚れちゃう」
「やっぱり、蓮汰くんは愛莉と付き合うべきなのよ!!みんな、もうわかったでしょ!?白川雪菜は最低な悪女だって!!」

愛莉の取り巻き達だった。彼女達の言葉に続き、クラスメイトから非難の声が上がった。

「ブスの癖に調子に乗るな!」
「淫乱女!!」
「蓮汰くんが可哀相!!さっさと別れなよ!」

ついこの間まで仲が良かった子たちにまで罵倒され、雪菜は体が冷えていくような感覚を覚える。足先や手先から次第に冷たくなり、やがて心臓にまで届こうとしたとき、

「雪菜!!」

息を切らせ、教室に入ってきた蓮汰は、真っ青になりガタガタと震えている雪菜を庇うように抱きしめる。

「蓮……ちゃ……」
「大丈夫か?お前ら………雪菜に何しやがった……?」

ハンパない殺気を纏わせ、クラスメイトを睨みつける蓮汰に皆は青ざめ、口をつぐむ。すると取り巻きたちが嬉々とした顔をし、蓮汰に歩み寄る。

「蓮汰くん、白川さんは蓮汰くんを裏切ったのよ!ほら、あれを見て?」
「あ?………んだよ、これ」

新聞を見た蓮汰は目を見開き、雪菜に視線を移す。雪菜は蓮汰の顔が見れず、俯いた。

「雪菜……」
「クス…蓮汰くんには、可愛くて一途な愛莉がお似合いよ!そんな子さっさと振っちゃったほうがいいわ!!」
「うるせぇ!!外野は黙ってろ!」
「!!……蓮汰く……でも貴方の為を思って……」
「こんなの何かの間違いだ。雪菜はそんな馬鹿な事はしねぇ…」
「で、でも実際…新聞の記事になってるのよ!?目を覚まして?」

取り巻きの一人が蓮汰の肩に手を掛けるが強く振り払われる。

「っ!!蓮汰くん……」
「触るな……ヘドが出る」
「「「っ!!」」」

蓮汰の呟きに取り巻き達は、ショックを受けたように立ちすくむ。と、その時。

「蓮汰くん、あれは事実よ。紛れも無い……そうよね?雪菜ちゃん……」

可愛らしい声だが、奥底に秘められた悪意のある声に、雪菜はびくりと体を揺らす。蓮汰がちらりと目をやると、そこには怒りを顔にあらわにした愛莉の姿があった。

「あ、愛莉…ちゃん……」
「貴女、蓮汰くんを裏切って悪いと思わないの?」
「わ、私……違う……何もしてない……!」

雪菜が震える声で否定したとき、


―パーン!!―


乾いた音と共に鈍い痛みを頬に感じた。平手打ちをされたのだ。

「!!」
「た、高嶺!!てめぇ!!」

雪菜を庇うように抱きしめる蓮汰に、愛莉は目に沢山の涙を浮かべ見つめる。

「蓮汰くん…気付いて。雪菜ちゃんは貴女を裏切ったの。私なら………裏切ったりしないわ。だから……」


―私の所に来て…?―


「あ?」
「っ!?」
「私、蓮汰くんが好き…大好きなの………。私なら、蓮汰くんを幸せに出来るわ」

蓮汰の腕に手を乗せ、涙目で辛そうに笑う愛莉。その表情はさながら、か弱い一途な美少女。蓮汰は困惑したように愛莉を見た。

「何言って……」
「好き………愛してるわ。蓮汰くん………」
「っ!!」
「!?ゆ、雪菜!!」

愛莉は雪菜を押しのけ、蓮汰に抱き着く。それを見た雪菜は堪らずに教室を飛び出していった。蓮汰が慌てたように呼び止めるが、雪菜は振り返る事は出来なかった。

これ以上、蓮汰と愛莉が抱きしめ合っている姿は見たくない。
背後から、勝ち誇った愛莉の笑顔を感じた。


この時、雪菜の心は完全に砕かれた。


Pure rain


ひび割れた心を
最後に打ち砕いたのは
他ならない
大好きな君………

もう
修復が出来ない


―砕かれた心―


END
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