Episode4~捕獲~



Episode4[捕獲]


「うわああああん、お母さーん!!」

「ケイト!!!早くこっちへ・・・・!!」

「動けないよう・・・・お母さーん!!」

「ケイトォォォォォォオオ!!!」


母親らしき女性が、逃げ遅れた娘を必死に呼ぶ。しかし、娘の方は腰が抜けてしまったのか座り込んだまま動けない。母親は娘の方に駆け寄ろうとするが、近くにいた男性に止められる。

「は、離してえええ!!私の娘が!!ケイトォォォォォ!!!!」

「もうだめだ!!あんたまで死ぬぞ!!」


そうこうしている内に廃人と化した『兵器』たちは、娘に狙いを定める。背後に気配を感じた娘は、今まさに自分に振り落とされる斧を見て、目を見開くと同時に・・・・・・・


「いやあああああああああああああああ!!」


母親の絶叫が響いた・・・・・・・・・とその瞬間、


ガシッ・・・・・・・・・ガシャン・・・・


振り下ろされた斧は、娘を切り殺すことなく止められ、地面に落ちた。

娘が恐る恐る目を開けると・・・・・・目の前に広がる漆黒・・・・・。

流れるような黒髪に真っ黒なロングコート。あの大男の斧を受け止め、叩き落した小柄な体からは想像つかない程の腕力。

そう・・・・・・・・・・・『Bloody cat』ことキルエリッヒだった。


「さっさと逃げれば?死にたくなければね・・・・・・」


背中を向けたまま娘に言うと、うまく動かない足をなんとか動かしながら、母親の方に駆け寄る。

母親が娘を抱きしめるのを気配で感じると、キリーは紅い瞳を細め目の前の『兵器』を見据える。

街の人間はキリーの出現に驚き、慌ててその場から去っていき、やがて人っ子一人いなくなり、静寂が包む。

男たちは、一度フラフラと後ろに下がると再び武器を構える。

一方のキリーはグローブを締め直すと、男たちに拳を握り左手を返し「来い」と誘った。


すると、


ヴアアアアアアア・・・・・・・・!!!!


男たちが雄叫びを上げながら、キリーに襲いかかる。
自分を切りつけようと振り上げられた斧を、余裕で躱し残像を残しながら背後に回り首筋に肘打ちし、首をつかみ投げる。投げられた男はほかの何人かを巻き込み、壁に激突し動かなくなった。


「やはりね・・・・・・・・攻撃力は高いけど、撃たれ弱い・・・・・・」


初期段階か・・・・・ここで手を打てば、廃人になってしまうことも、自分のように不老不死になることは回避できるかもしれない・・・・・・・・。


キリーはふとマリーナとの会話を思い出した。



****************************



「兄の・・・・ジャックは最近記憶があやふやなことがあって・・・・・本人はすごく気にしていました」
「記憶・・・・?」

「はい。最初は幼い頃の記憶が混濁し始めて・・・・数ヶ月、数週間、数日・・・・・ついには昨日のことやついさっきのことまでわからなくなってしまったんです」

「いつから?」

「・・・・・・・サンテロットの人達と一緒にいることが多くなってきた、半年前からです・・・・・」

「・・・・・・・・マリーナ、これは私の憶測よ。もしかしたら、ジャックは半年以上前にに死にかけたことはなかった?」

「え・・・・どうしてそれを?確かに兄は去年、乗馬中に転落して頭を打って、打ちどころが良くなくて入院していました。そしてやっと、半年前に退院できて仕事にも復帰したんです。でもそれとどんな関係が?」

「・・・『前例』があるのよ。サンテロットが、密かに人体実験をしているのは知ってるわね?その人体実験に使う『モルモット』はどこで手に入れると思う?」

「・・・・・・・・・ま、まさか」

「・・・・・・・・事故や処刑で死亡した人間。又は瀕死や脳に激しい衝撃を受けた人間・・・・・おそらくだけど、ジャックが事故に遭い、頭部を強打し脳に多少記憶障害を持っている事を奴らが嗅ぎつけ、研究員が接触を測り交友関係を築く・・・・・」

「ち、ちょっと待て。じゃあ・・・・・」

「・・・・・・・・・・最初から、ジャックを実験体にする目的で近づいて、マインドコントロールを施した。それも怪しまれないように少しずつ・・・・・・・」

「なるほど、事故の後遺症だと思わせるためか!!!」

「そう・・・・・」

「そんな・・・・・・・・じゃあ兄は・・・・?」

「おそらく、実験体にされているわ」


マリーナは顔面蒼白になり、泣き出してしまった。オロオロするマルロニとは対照的に、キリーは表情を動かさずマリーナを見つめる。


「マリーナ」


「もう・・・・・兄はダメなんですね・・・・・もう帰ってこない・・・・」


「マリーナ・・・・・・・」

「私が、私がちゃんと気をつけていれば・・・・!私のせいだわ!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・ねえ」

「もういいんです!!・・・・・・あきらめます!!ありがとうございました!!!!!」


「マリーナ!!!!」


普段のキリーからは想像出来ない、大きな声にマリーナとマルロニまでもビクリと動きを止める。


「・・・・・・・私の話は終わってないわ」

「え・・・・・」

「方法があるのか?」

「・・・・・・・・・・人体実験の目的は兵器を造るため。記憶や良心を司る脳は、兵器にするには邪魔になる。でも、どんなにサンテロットの技術が高いといっても、完全に排除し支配するにはまだまだ時間がいるわ」

「て事は・・・・・・」

「・・・・まだ間に合うかもしれない」

「・・・・・・!!!!本当ですか?」

「・・・・・ただ、五分五分よ。必ずとは断言できないわ・・・・・・・・・マリーナ、私に賭けてみる?」

「・・・・・・分かりました。私キリーさんを信じます。どうか・・・・どうか兄をお願いします」



*****************************


「まだ、『完全』じゃないのね。・・・・・・・・・・・・なら」


キリーはジャックが振りかぶった時を見計らい、素早く懐に飛び込むみ右手のグローブの上に左手をかざすと、バチバチと黒い閃光が走る。キリーは足を踏ん張り、拳を握り締めた。


「荒療治だけど・・・・・・・・・・・悪く思わないでね・・・・・・」



ドゴオオォォォォォォオ!!!!


強烈なボディブローを決めた。

ジャックはくぐもったうめき声を発しその場に倒れこんだ。


「このままここに置いておいたら、役人に回収されてまた研究所に逆戻りかもね・・・・・・・・・仕方ないわ。あいつの所に連れて行こう・・・・行きたくないけど・・・・・」


キリーはジャックの体を軽々と担ぐと、夜の闇に消えていった。


************************************


第一部いよいよ佳境です!!それに伴い新キャラも登場します。

それにしても文才が欲しい・・・・・(´;ω;`)

ここからは親バカの戯言です(笑)

キリーは自分の生い立ちからか、死と言う言葉が嫌いです。なので、本能的に回避する手段を取る(助ける)んだと思います。
妹の件で、サンテロットに恨みはありますが、皆殺しにしようていう考えは持っていないと私は思います。そんな彼女がどんな解決策を考じるのか…。

そろそろサンテロットと正面対決です!
亀執筆ですが、頑張ります!

銀だこでした!!
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