Episode3~行方~
アンジェラと最後に会った夜から、三日経ったある日。キリーは再び『ハーフムーン』を訪れた。
「あら?営業時間のはずなのに…」
看板は出ておらず、いつもなら窓から中の明かりが漏れているはずが、真っ暗になっており、キリーは首を捻る。どんなに嵐が酷かろうと、大雪が降ろうと、休む事はなかった店だ。何かよっぽどの事があったのだろうと、開くかは分からないが扉を開いてみた。
―カラン…カラン…―
「アン!?……なんだキリーか…」
「!?…マルロニ、こんな真っ暗な中で何してるの?それにアンジェラは?」
レジの傍らにあったマッチを磨り、オイルランプに火を付けるキリーに、マルロニは、はぁと息を吐く。
「そっか……お前も知らないんだな」
「?何があったの?」
カウンターでうなだれている、マルロニの傍のランプを付け、キリーは隣の席に腰を下ろした。マルロニはキリーをちらりと見遣り、俯いたまま口を開いた。
「アンが、アンが帰ってこねぇんだ…」
「……夫婦喧嘩でもしたの?」
「ちげぇよ!三日前に取引先に打ち合わせに行ったきり……帰って……来ない……」
「!?三日前……私、夕方にアンジェラに会ったわ。でも、別段変わった様子は無かったけど……スタンデッドの所は?」
「いや、スタンデッドには聞いてねぇ。大事な妹が行方不明なんて……言えるかよ……そっか……手掛かりなし、か」
ガックリと肩を落とすマルロニを前に、キリーは少し考えてから切り出した。
「………ねぇ、マルロニ。『Ripper』って聞いた事、ない?」
「…ああ、最近若い娘が襲われて……ってまさか!?」
「いえ、あくまでも仮定よ?」
「やめろ!!そ、そんな事!あるはずが…!」
「ない。とは言いきれない……自分でも分かっているんでしょ?」
「……っ」
「可能性はあるって……」
「やめろっ!!」
キリーの言葉を遮るように叫ぶマルロニは、ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしりながらうずくまった。
情報収集が得意な彼の事。調べている内にたどり着いた筈だ。
『Ripper』
という存在に。しかし、最愛の妻がまさかと、信じたくないという気持ちが強く出てしまい、否定してしまったのだろう。
マルロニの気持ちも解る。キリー自信もそんな結末は御免だ。しかし、少しでも可能性があるなら、調べてみる事でアンジェラの安否が解るかもしれない。
キリーは頭を抱えたきり、動かないマルロニを一瞥し、話し出した。
「これから独り言を言うから」
「……」
「『Ripper』の事件の被害者、アルマの花売りは、行方不明になったその夜に遺体で発見された…」
「…………」
「そのやり口からして、捕まえたら即殺す……といった感じよ」
「…………」
キリーは再びマルロニを見遣る。
「でも、今回はアンジェラが行方不明というだけで、遺体が発見されたという話はない」
「…………そんなん分かんねぇじゃん……」
「そうかしら?こんな小さな街よ?役人が隠そうとしても、すぐに広まるわ。そんな大事件があったら……今頃大騒ぎよ」
キリーがそこまで言うと、マルロニがゆっくりと顔を上げる。
「………ん?てことは……?」
「アンジェラは生きてるわ」
「…え?ほ、んとか?」
「ええ……。なぜ行方不明なのか、どこにいるのかは、さすがに今の時点では何とも言えないけどね…」
「………」
「最悪な結果を決め付けるのは……早いわ……」
「………っ、そうだな……俺、どうかしてたわ。いよし!!」
マルロニは少し笑うと、勢いよく立ち上がった。
「俺、もう一度調べてみるわ。手掛かりが見つかるまで、どこまでも…何度でもな」
「………そう。空回りしないよう、頑張って」
「ちぇっ!相変わらず辛口だよなあ、お前は……でもよ………」
「ん?」
「あんがとな…」
「………さ、私はもう行くわ。じゃあね、マルロニ」
背を向け、店を後にしたキリーを見送り、マルロニは苦笑いをする。
「最悪の結果を決め付けるのは早い…か。まさかお前に言われる日が来るとはな」
壊滅させる少し昔、サンテロット絡みで一悶着あった時、自暴自棄になったキリーに自分が言った言葉。まさかそれをまだ覚えていてくれたとは。
「…逃げずに向かいあわないとな。さて…」
マルロニは上着を片手に店の扉を開く。
「まずはシスコン兄貴に、ぶん殴られるの覚悟で、報告しなくちゃな。情報収集はそれからだ」
憂鬱だなあと空を見上げるマルロニの顔は、何か吹っ切れたように清々しかった。
つづく…
アンジェラと最後に会った夜から、三日経ったある日。キリーは再び『ハーフムーン』を訪れた。
「あら?営業時間のはずなのに…」
看板は出ておらず、いつもなら窓から中の明かりが漏れているはずが、真っ暗になっており、キリーは首を捻る。どんなに嵐が酷かろうと、大雪が降ろうと、休む事はなかった店だ。何かよっぽどの事があったのだろうと、開くかは分からないが扉を開いてみた。
―カラン…カラン…―
「アン!?……なんだキリーか…」
「!?…マルロニ、こんな真っ暗な中で何してるの?それにアンジェラは?」
レジの傍らにあったマッチを磨り、オイルランプに火を付けるキリーに、マルロニは、はぁと息を吐く。
「そっか……お前も知らないんだな」
「?何があったの?」
カウンターでうなだれている、マルロニの傍のランプを付け、キリーは隣の席に腰を下ろした。マルロニはキリーをちらりと見遣り、俯いたまま口を開いた。
「アンが、アンが帰ってこねぇんだ…」
「……夫婦喧嘩でもしたの?」
「ちげぇよ!三日前に取引先に打ち合わせに行ったきり……帰って……来ない……」
「!?三日前……私、夕方にアンジェラに会ったわ。でも、別段変わった様子は無かったけど……スタンデッドの所は?」
「いや、スタンデッドには聞いてねぇ。大事な妹が行方不明なんて……言えるかよ……そっか……手掛かりなし、か」
ガックリと肩を落とすマルロニを前に、キリーは少し考えてから切り出した。
「………ねぇ、マルロニ。『Ripper』って聞いた事、ない?」
「…ああ、最近若い娘が襲われて……ってまさか!?」
「いえ、あくまでも仮定よ?」
「やめろ!!そ、そんな事!あるはずが…!」
「ない。とは言いきれない……自分でも分かっているんでしょ?」
「……っ」
「可能性はあるって……」
「やめろっ!!」
キリーの言葉を遮るように叫ぶマルロニは、ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしりながらうずくまった。
情報収集が得意な彼の事。調べている内にたどり着いた筈だ。
『Ripper』
という存在に。しかし、最愛の妻がまさかと、信じたくないという気持ちが強く出てしまい、否定してしまったのだろう。
マルロニの気持ちも解る。キリー自信もそんな結末は御免だ。しかし、少しでも可能性があるなら、調べてみる事でアンジェラの安否が解るかもしれない。
キリーは頭を抱えたきり、動かないマルロニを一瞥し、話し出した。
「これから独り言を言うから」
「……」
「『Ripper』の事件の被害者、アルマの花売りは、行方不明になったその夜に遺体で発見された…」
「…………」
「そのやり口からして、捕まえたら即殺す……といった感じよ」
「…………」
キリーは再びマルロニを見遣る。
「でも、今回はアンジェラが行方不明というだけで、遺体が発見されたという話はない」
「…………そんなん分かんねぇじゃん……」
「そうかしら?こんな小さな街よ?役人が隠そうとしても、すぐに広まるわ。そんな大事件があったら……今頃大騒ぎよ」
キリーがそこまで言うと、マルロニがゆっくりと顔を上げる。
「………ん?てことは……?」
「アンジェラは生きてるわ」
「…え?ほ、んとか?」
「ええ……。なぜ行方不明なのか、どこにいるのかは、さすがに今の時点では何とも言えないけどね…」
「………」
「最悪な結果を決め付けるのは……早いわ……」
「………っ、そうだな……俺、どうかしてたわ。いよし!!」
マルロニは少し笑うと、勢いよく立ち上がった。
「俺、もう一度調べてみるわ。手掛かりが見つかるまで、どこまでも…何度でもな」
「………そう。空回りしないよう、頑張って」
「ちぇっ!相変わらず辛口だよなあ、お前は……でもよ………」
「ん?」
「あんがとな…」
「………さ、私はもう行くわ。じゃあね、マルロニ」
背を向け、店を後にしたキリーを見送り、マルロニは苦笑いをする。
「最悪の結果を決め付けるのは早い…か。まさかお前に言われる日が来るとはな」
壊滅させる少し昔、サンテロット絡みで一悶着あった時、自暴自棄になったキリーに自分が言った言葉。まさかそれをまだ覚えていてくれたとは。
「…逃げずに向かいあわないとな。さて…」
マルロニは上着を片手に店の扉を開く。
「まずはシスコン兄貴に、ぶん殴られるの覚悟で、報告しなくちゃな。情報収集はそれからだ」
憂鬱だなあと空を見上げるマルロニの顔は、何か吹っ切れたように清々しかった。
つづく…
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