『許せない…俺から茜を奪ったお前だけは。もうこれ以上、誰も傷つけさせはしない、絶対に……』


《失いし者》
???Side




俺には双子の妹が人居た。素直で真っ直ぐで、おっちょこちょいなのが玉にキズだが、俺のたった一人の兄妹だった…。

ある日、茜は凄く疲れた顔で帰って来た。心なしかやつれている。


「茜、どうした?学校、上手くいってないのか?」

さりげなく声をかけると、茜は一瞬息を呑むような表情をしてから、いつものようにニコッと笑う。


「う、うん!皆と仲良くやってるよ!!心配しないで!!」

「………そうか……。まあ、なんだ。頑張れよ」

「………うん……。頑張るよ」


さっきの表情は気になったが、あまり触れられたくないように感じたので、聞くのを止めた。でも、その後俺は、この判断を悔やむ事になる。






様子がおかしいと感じてから一ヶ月後、茜は自分の部屋で首を吊った……。
第一発見者は俺だった。朝、いつものように朝が弱い茜を起こすため、部屋に行き呼び掛けた。


「茜!!もう7時半だぞ!起きろ、遅刻するぞ!!」


……返事がない……。
いつもなら、寝ぼけ眼で部屋から出てくるのに……。
…嫌な予感がした。

妹とは言え、女の子の部屋に勝手に入るのは憚られたが、思いきってドアを開けた……。
始めに目に飛び込んで来たのは、茜の後ろ姿。

……そして、首から伸びるロープ……。

ゆらゆらと揺れる体は力を失い、重量に従いだらんと垂れ下がっていた。


この現状を目の当たりにして、俺は自分の目を疑った。信じたくない……認めたくない…こんな現実。俺はしばらく妹の亡きがらを夢見心地で眺めていた。ふと、茜の机の上に封筒が置かれているのが目に入った。
飾り気のない白い封筒。

(俺宛て?…俺に読めってことか?茜…)

封筒を手に取り中を出さす。封筒と同じく真っ白い便箋に、女の子らしい丸っこい文字で綴られていた。






この手紙を読んでるって事は、私はもうこの世にいないんだね…。
まず、謝らせてください。嘘を付いてごめんなさい。私、始業式の日から皆に嫌われて、暴行を受けてました。
始業式の日に、長谷川美香ちゃんに呼び出されて……嵌められたの。私は何もしてないって何度も言ったけど、誰も信じてくれなくて……。寂しくて悲しくて、潰れそうだった。私…美香ちゃんに何かしたのかな。理由が分からないまま、殴られたり蹴られたり、それだけならまだ良かった……私の机の上に花瓶がおいてあったの。それを見たとき、何かがプツンと切れちゃって、どうでも良くなってきちゃったの。
死んだら楽になれるかもって……馬鹿だよね私。

真二は優しいから、私を凄く心配してくれた。私ね…それだけで、真二の優しい気持ちだけで充分だから。これ以上、真二に迷惑掛けたくないから……。

いままでありがとう。

茜より



…俺は、すべてを悟った。茜が嵌められ、イジメを受けていたこと。クラスの奴らが茜を追い詰めていたこと。諸悪の根源が長谷川美香という女生徒であるということ。


許せない……絶対に………

許してなるものか!



俺は長谷川美香に対し、凄まじい殺意を持ち、そして復讐を誓った。


茜の葬儀の日、クラスの連中に守られるように囲まれ、涙を堪える長谷川美香を見かけた。そっと近づき、様子を伺った。すると、とんでもない会話が耳に入った。


「ちっ……死んで逃げるなんてな。やっぱり最低女だぜ」

「美香にあんな酷いことして、もっと苦しめばよかったのにね!」

「美香、あんな奴の為に泣くなって!死んで当然なんだよあんな奴!!な?」


聞き捨て難い言葉の数々……最低女?もっと苦しめ?死んで…当然?




―フザケルナ―



思わず飛び出しそうになったが、なんとか踏み止まる。今は茜の葬儀中、騒ぎを起こすわけにはいかない。怒りに震える俺の耳に甘ったるい声が聞こえた。


「み、みんなぁ…そんな事言っちゃダメだよぅ……可哀相…だよぅ……」



長谷川美香……茜を殺した女………


俺は長谷川美香の姿を記憶に刻み付ける。
お前は必ず俺が地獄に堕とす。せいぜい今は楽しめばいいさ。

しばらくすると連中は、焼香もせずに好き放題茜の悪口を言いながら、帰って行った。



それから、聞いた話しによると何人かの生徒が長谷川美香に嵌められ、クラスに標的になったようだった。
そして、しばらくたったある日、『親の仕事の都合』で転校したらしい。大方、今まで付いていた嘘がばれそうになったからだろう。



その直後、俺が通う学校に転校してきた。

俺は接触を図るべく、奴の視界に入るようにした。すると、


「ねぇ…、私と付き合って?」



―罠に掛かった―



しかも俺の彼女雛の悪口まで言いはじめた。それを聞いて俺は…茜の事を思い出す。雛を茜の二の舞にさせたくない。いや、今まで犠牲になった子たちの為にも、俺が終わらせてやる。

しかし、長谷川を振ったことで、雛が標的になってしまったのだ。そして俺も、長谷川が差し向けた連中により、暴行を受け、体中打撲し手足は骨折。学校を休み寝たきりになってしまった。雛が何度か見舞いに来てくれたらしいが、こんな姿を見せてしまったら、余計心配させてしまう。なので母親に頼み帰って貰った。
ベッドに横たわりながら、俺はある儀式を思い出していた。


―ナイトメア―



憎い相手、許せない相手を悪夢に閉じ込め、死を与える儀式。
代価は自分の命というリスクがあるが、これ以上雛が苦しむ事も、長谷川美香に好き勝手させることも堪えられなかった。




そして俺は、禁断の呪術に手を出した。



後悔はない。茜…もうすぐそっちに行けるよ。
雛…ゴメンな…。



……俺はこの時知らなかった。雛も儀式をしていた事を。そのくらい雛が追い詰められていた事を………。



《失いし者》
END

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