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…―

「うわあ…年季のある建物ね」
「はい。基くんの事があるので、取り壊しを待ってもらっているんです」
「……そう。正しい判断ね。多分ここを壊されたら、基くんは二度と帰ってはこない」
「!!あ、あの…」
「なあんてね。ごめん。でも中を確認してみないとなんとも…ねぇ」

不安そうな暁子に微笑みながら謝るイズナは、再び屋敷を見上げる。すると、妙な違和感を感じた。

(静かすぎる………)

今は日中で天気は快晴。田舎だけに蛙や鳥の鳴き声が聞こえた。なのに今はなんの音も聞こえない。

(間違いなくこの家には何かあるわ。基くんは恐らく出口がわからずにさ迷ってる。急いだ方がよさそうね)

イズナはそう結論づけると、#名前#に向き直る。

暁子さん、ここの鍵は?」
「はい、ここに。祖母から借りてきました」

暁子から渡された古ぼけた鍵。この鍵が魔界への入口を開ける。

「さすが準備がいいわね。じゃあ、さっそく入ってみるわ。貴女はどうする?」
「……え?あ、私は……」
「ふふ……冗談よ。無理しないほうがいいわ。貴女は一度でもここに入ってしまった。『ここ』の住人たちが貴女を狙わない保証はない」
「!!」

この場所に入ってしまった暁子は明らかに『奴ら』に目を付けられている。引き込まれる危険性がある。そんな危険な場所に暁子を連れ込むのは、肉食動物の檻に兎を投げ込むようなものだ。

「貴女はここにいて」
「で、でも…」
「そうねぇ……今は…ちょうど10時か。夕方の5時までに私が帰らなかったら……おばあさんに連絡して」
「?なぜ祖母なんですか?」
「貴女のおばあさんはこの家で暮らしていた。変な言い方だけど、免疫が付いているわ」
「確かに……」
「それに……」

イズナは目を伏せると、小さくつぶやく。

「おばあさん、きっと何か知ってるわ……」
「え……?」
「あ、ううん。なんでもないわ。そう言う訳だから、お願いね?」
「は、はい……」

未だに納得しきれていない暁子を置いて、イズナは屋敷に入っていった。

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