ギシ……ギシ……

屋敷の中にはイズナの足音だけが響く。古い床板や壁は少しでも力を加えれば崩れてしまいそうだ。

「床が抜けたら、基くんを助ける前にこっちが危ないわね」

用心しながら、周りを見回し歩きつづける。
台所、居間、トイレ、風呂……一階をすべて回り、二階に上がろうと階段に向かったその時、



ダダダダダダダ


「!?」

二階から走り回る足音がした。

「基くん?まさか『奴ら』に……急がなくちゃ!」

イズナは全速力で廊下を走り、階段を登ろうと階段の手すりに手をかけると、あれだけ五月蝿かった足音がピタッと収まった。

「基くんじゃないの?じゃあ………!!」

疑問に思ったイズナが階段を見上げていると、暗闇の中で何かが動いた気がした。
モゾモゾと動く影。イズナは目を凝らした。そして、見てしまった。



長い黒髪を垂らした、赤い着物を着た女性………。



しかし、イズナはその女性に危険な感じがしなかった。どちらかというと、何かを訴えかけているような………。気付いて欲しい。助けて欲しい。そんな思いを感じたのだ。

「もしかしたら、基くんの事知ってるかも…」

イズナは女性に意識チャンネルを合わせる事にした。意識チャンネルを合わせるのはイズナの得意技でもある。
静かに目を閉じ、意識を女性へと合わせる。まるでラジオのチューナーを合わせるように。
しばらくすると、イズナの意識に女性が声を乗せてきた。

『……助けて……』
「貴女は誰?」
『私…私は……この家の長男に嫁いだの……』
「そうなの。一体何があったの?」
『子供……産まれた……でも…………れた。助け……』
「子供…?子供に何があったの?」
『……この家………奪われ……私………に……』

次第に聞き取りにくくなってくる。しかし、まだ会話は成立出来る。イズナは本題に移った。

「ねぇ。ここに小さな男の子は来なかった?五、六歳くらいの」
『……………男の子…』
「そう、探してるのよ」
『………………』
「…………」

暫くの沈黙の末、破ったのは女性の方だった。

『駄目…………』
「え?どうして…」
『あの子は……私の子供……』
「な、何言ってるの!?」
『返さない……今度こそ…………私…………』

次第に薄くなる女性の気配に、イズナは焦る。

「待って!!基くんを返しなさい!!」
『…………………』

イズナの叫び虚しく、女性は完全に闇の中に消えた。


取り残されたイズナは、心の中で舌打ちをした。あの女性がどんな経緯でここに縛られ、助けを求めているか分からないが、基が女性に捕われているのは確かだ。

「手遅れ…だというの?そんな事させない。必ず基くんを取り戻して見せる!」

イズナは決意を新たに、魔界へと続く階段を上り始めた
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