誕生日と女神



自分の生まれた日を祝われたのは、何年振りだったか…





秋も深まり日もだんだん短くなり始めた。
そろそろジャケットを出そうと押し入れを漁っていた時、古ぼけた菓子箱を見つけた。

(なんだろ………)


中に何が入っているのか思い出せず、とりあえず開けてみる事に。不要なものならば処分してしまえばいいし……。


「……!これは……」


中を見た僕は、思わず息を呑んだ。そこに入っていたのは…………



おもちゃのロボットだった。


「主!ただいま戻りました!」

そのロボットを手に取ったその時、買い物カゴを下げたニコルが帰ってきた。

「ああ、おかえり」

「主!今日はお魚が安かったので、買ってきました!」

「そうか…ご苦労様」

「主?いかがしました?……それは?」


ニコルは僕が手にしていたロボットを見つけ、首を傾げる。おそらく、女神であるニコルには馴染みのないものだ。僕はニコルにロボットを見せながら、簡単に説明をし渡した。
案の定、ニコルは裏表をひっくり返したりしながら観察していた。そんなニコルを眺めつつ、僕は叔父さんとの思い出を思い出していた。


叔父さんは、僕が小さな頃によくお世話になっていた。父さんのお兄さんで、結婚はしていたが、子供はいなかった。(奥さんが体か弱かったからだと父さんから聞いた)そのせいかどうかは分からないが、僕はよく色んな所に連れてってもらったり、おもちゃやお菓子を買ってくれたりと可愛がってくれた。
しかし、僕が高校に上がる前に飛行機事故で亡くなった。海外出張からの帰りの矢先の出来事だった。

このロボットは、叔父さんが亡くなる少し前に、遠く離れた国からわざわざ送ってきてくれた物だったのだ。

「まさかこんな所にしまい込んでたなんてな……」


忘れたかった訳じゃない。認めたくなくて、受け入れられなくて………僕はロボットを箱に入れ、押し入れにしまった。まるで、叔父さんとの思い出を封印するかのように。


「叔父さん……ちゃんと覚えてるからさ」

「……主」

「……僕の誕生日。叔父さんは忘れないで祝ってくれた。なのに僕は……忘れようとしてしまった。悲しいから、辛いからって」

「……」

「僕は……恩知らずな奴だ。大切な思い出、しまい込んだままなかった事にしようとして………」


そこまで言った時、何か暖かい物に包まれた。

「私は昔の主の事は知りません。でも、主にとってその叔父さんがとても大切な存在だということは分かります。……これから思い出して上げればいいんですよ。そうすれば、主の心の中に叔父さんはいることが出来るんですから……これからは私が叔父さんの代わりにお祝いして差し上げます。だから………泣かないでください……」


ニコルは泣いていた。感情の起伏が激しい奴だけど、泣いたのは初めてだった。僕はニコルの腕の中で、まる小さい頃のように久しぶりに声を上げて泣いた。ニコルはただ黙って涙を流しながら、僕の頭を撫でていてくれていた。


……今だけ……このまま泣かせてほしい………
そして、泣き止んだら思い出話をしよう。


……心優しい『女神』と一緒に………






「主!!」

「ん?」

「お誕生日、おめでとうございます!!」

「!!……(笑)サンキュ……」




END

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