こいのぼりと女神




『こいのぼりみたいに空を泳ぎたい』なんて思ってたガキの頃が懐かしい。






「主!!」

5月5日…学校とバイトが休みで、部屋でまったりしていると、買い物から帰ってきたニコルが、目を輝かせながら駆け寄ってきた。

「どうした?」

今日はまた何を見つけたのか…。最近このやり取りが当たり前になってきている。

「主!!大きな魚が空を飛んでました!!」

「……は?魚?」

「はい!凄く大きな魚です!!」

かなり興奮しているのか、ニコルは頬を紅潮させながら、身振り手振りで訴えて来る。そんな彼女を見て、ようやく「ああ」と理解する。

「ニコル、それは『こいのぼり』だよ」

「こいのぼり!!そのような名前の魚なのですね!?」

「いや…えっと」

確かに魚だが、どう説明すればいいか悩むが。純粋に僕の言葉を信じてしまうニコルに、あまり下手な事は教えられない。

「あれはな、魚であって魚じゃないんだよ」

「??ではなんなのですか?」

「あれはな…えっと……」


期待を込めた眼差しで僕を見つめるニコル。僕は心の中で溜め息を付く。悩んだ末、昔、祖母から聞いた話を聞かせる事にした。


「端午の節句っていう、子供の成長を祝うお祭りの時に飾る縁起物だよ。
昔、大きな滝を魚達が登ろうとしたけど、どの魚もダメだった。でも唯一、鯉って魚だけが、登りきる事が出来たんだ。そして鯉はそのまま空まで上がって龍になったんだ。その事から、『鯉のように逞しく強く育ってほしい』という願いを込めて、5月5日…今日だな。こいのぼりを飾るようになったんだ」


「そうなのですか!鯉とは強く、立派な魚なんですね!!それにしてもさすが主!!物知りですね!!」


「そうか?」

「はい!!主はとても立派です!!」

「……そっか。………さてと」

手にしていた雑誌をテーブルに置き立ち上がると、不思議そうにニコルが見上げる。

「出掛けるよ、ニコル」

「え?どこにですか?」

「近くの神社」

「??」

「今日はこどもの日だから、お祭りをやってるんだよ」

「!!はい!お供します!主!!」

弾けるような笑顔を見せるニコルに、不覚にもドキドキしたのは内緒だ。



「あ、そうだ。帰りに団子屋に寄ろう」

「?団子屋?」

「柏餅とちまき、食べた事ないだろ?」

「!はいっ!!ありがとうございます!主、大好きですっ!!」

「お、大袈裟だな////(悪い気はしないけどさ)」



END

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