夏の始めと女神




注意※蝉の生態は私自身も良く分からないので、間違ってるかもしれません。


爺ちゃんが生きてた頃を思い出した。





抜けるような青空。
ポカリと浮かぶ真っ白な雲。
最近暑くなってきたなあと思っていたら、もう夏だ。大学も試験が終わり、夏休みに突入するのを待つだけとなった。

「主!この音はどこから鳴っているのですか?」

いつものように、外を眺めていたニコルが後ろを振り返り、ベッドの上でごろ寝をしている僕に問い掛ける。

「音?」

「はい。ジジジとかミーン、ミーンとか…」

ニコルの話を聞き、僕はようやく夏に喧しいくらい自己主張するあの虫を思い出した。

「蝉だよ。ニコル」

「セミ?」

「ああ。夏の風物詩…って分からないか。夏にしか見られない虫だよ」

「そうなのですか!…ということは、夏以外はどこに?」

「土の中だよ」

「土に?」

「うん」

そこまで会話をすると、僕は起き上がり、紙と鉛筆を持ち書き始める。

「蝉はな、夏になるまでは幼虫のまま、土の中で生活するんだよ。そして蛹になって……夏になると脱皮して、成虫になって木の幹に止まって鳴くんだよ」

「なるほど。では、冬眠みたいなもの……でしょうか?」

「うん、そうだね」

ニコルはフムフムと頷き、ふと僕の顔を見る。

「主、セミはなぜ鳴くのですか?」

「へ?」

思いがけない、いや、尤もな質問をされ、言葉に詰まる。僕も虫に詳しい訳ではない。なんだったか…たしか求愛…だったっけ。

その時、小さい頃、爺ちゃんに聞いた話を思い出し、それを話してやる事にした。

「蝉はな、成虫になったら一週間しか生きられないんだ。その間にお嫁さんを貰って子孫を残さなきゃならない。だから精一杯鳴いて自分の存在を知らせるんだ」

「一週間……。そんな、短すぎます。可哀相です」

ニコルは泣きそうな顔で、つぶやく。

「…そうだな。でも、蝉にとっては、僕らの一生と大して変わらないかもしれない。ただ時間が短いというだけで。自由に空を跳んで、好きな雌と恋をして……たった一週間でも幸せかもな。夢の中を跳べるなら…」

「主……」

ニコルが僕を見詰める。スカイブルーの瞳が揺れている。そんな目で見詰められると、何故か落ち着かない自分がいて……







「さて…出掛けるぞ、ニコル」

「どこへ?」

「蝉、見たくない?」

「!見たいです!是非!!」

「公民館の近くの広場で祭がやってるみたいだし、ついでに行ってみるか?」

「はい!お供します!!主」




END

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