同盟にて、古月さまに書いていただきました。

個人的に、ナタリアと咲夜の仲の悪さと、半ば呆れ気味の芹菜のやりとりが好きです。

CAST:咲夜、ナタリア、芹菜




ふ、と詰めていた息を吐く。次いで肩の力を抜けば、張り詰めていた緊張感は途端に霧散する。
咲夜が額に滲む汗を手の甲で拭おうと片手を挙げると、それを遮るように視界の端からタオルが現れた。

「お疲れ様…」
「芹、あなたいつからいたの?」

差し出されたタオルを礼を言って受け取ると、芹菜は少し考える素振りを見せてから口を開いた。

「咲夜が『白夜』を取り出した辺りから…」
「つまり、最初からいたのね。…声を掛けてくれれば良かったのに」

咎めるつもりはないのだが、鍛錬を見られていたと言う気恥ずかしさから、咲夜は不満げにそう付け加えた。すると芹菜は、邪魔をするのは良くないと首を振る。
邪魔だなんて、と反論の為に口を開いた咲夜だったが、言葉を発する前にその口を閉じてしまった。芹菜の背後に立つ人物に気付いたからだ。

「お邪魔だったかしら?」

さらりと流れるブロンドを耳にかけ、ナタリアはアメジストの様な瞳を細めて微笑んだ。

「あら、よくお分かりじゃない」

咲夜がつんと顎を持ち上げそう返すと、ナタリアはほんの少しだけ唇の端をつり上げる。振り向いてその笑みを見た芹菜は、また咲夜とナタリアの応酬が始まるのだろうかと、紅い瞳を左右に動かし二人を見比べた。

「――…と言いたいところだけれど、何か用があるんでしょう」

僅かに伏せた目蓋の下で、咲夜の瞳がナタリアを捕らえた。

「もしかして仕事…?」

咲夜の視線を追った芹菜の呟きに、えぇ、とナタリアは頷いた。
漸く汗の引いた咲夜はタオルを丁寧に折り畳みながら、何かしら、と軽く首を傾げる。もし家庭教師の依頼ならば博識な自分にはぴったりだと思いつつ、ナタリアの言葉を待つ。
どんな仕事だろうと期待を込めて見つめる二人に、ナタリアは肩をすくめてみせた。

「さぁ、知らないわ。私もまだ聞いてないもの。琥珀に咲夜達を呼んでくるよう頼まれただけだわ」

ナタリアの答えに、二人は肩透かしを食らった気分で顔を見合わせた。直前の高揚した気分が空回りに終わり咲夜は溜め息を吐いたが、すぐに思考を姉へと切り替える。

「そう…、なら待たせるわけにはいかないわね。さっさと行きましょ」
「あら、急ぎとは言ってなかったわよ。あなたの鍛錬が終わってからでも、琥珀は構わないと思うけれど」

歩き出そうとした咲夜を呼び止める形で声をかけたナタリアに、先程の彼女のように咲夜は肩をすくめた。

「私が構うの。それにお生憎様、鍛練はちょうど終わったところよ。ねぇ芹」

振り向き芹菜に同意を求めると、彼女はこっくりと一度頷いた。

「何事も早い方が良い」
「…それもそうね、よろず屋が失敗するわけにはいかないもの」
「珍しく意見が合いそうね」
「不愉快なことにね」

ふふ…、と咲夜とナタリアは笑みを浮かべ睨み合う。やはりこうなったか、と二人の姿に内心呆れているのは芹菜だ。彼女は咲夜とナタリアの背後に回り込むと、その背を軽く押して歩き出す。

「ちょっと芹!?」
「なんなのよ!?」
「琥珀を待たせるのは良くない…」
「「………」」

芹菜の静かな声音に、咲夜もナタリアもぐっと黙り込む。尚も背を押す芹菜に歩かされながら、二人はちらりと互いの顔を見合った。

「今日のところは、芹に免じて許してあげる」
「あなたこそ、芹菜に感謝するべきよ」
「…何よその言い方」
「その言葉、そのまま返してあげましょうか」
「咲夜、ナタリア」

背後から聞こえた、ほんの少し低くした芹菜の声に、咲夜とナタリアは今度こそ口を閉じた。
触らぬ神に祟りなし、である。



END
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