某交流所にて、再び市城さまに書いて戴きました。

悩み相談という面白そうなトピックに思わず挙手!!
琥珀の悩みを、郁さんと葵壱さんに聞いて戴きました!!

CAST:琥珀、郁さん、葵壱さん




気苦労少女ととんでも兄弟



席に着いた途端、脱力した。朝起きた『大乱闘』のせいで、疲れはピークに達している。登校したばかりだというのに、何故疲れる必要があるのか。困った、と机に額をつけた時、頭上から声がかかった。

「お前、悩みがあるんだろ」
「え……?」
「あるなら話せ、俺が聞いてやろう」

偉そうに前席に座ったのは、女をはべらせては捨てると噂の保健医だった。思わず、身構えてしまう。

「何だ、恋の悩みか? その顔は恋の悩みだな。いいだろう、俺が直々に教えてやろう」
「い、いえ、あの……」
「遠慮することはねぇ。女は素直な方がい……」
「困ってんだろうが察しろよ馬鹿兄貴が!!」

突然やってきた少年のタックルによって吹っ飛ばされる。驚いて目を瞬かせる琥珀に、少年は……

土下座した。

「すいませんっしたぁぁぁ!! 俺の駄兄がご迷惑を……! 何と言ってお詫びすればいいか…………あ、切腹? 切腹か! 誰か介錯をぉぉぉぉハサミしかないですがぁぁぁ!!!」
「お、落ち着いてください!」

クラスメイトにハサミを押しつけ涙を流す少年の腕を掴み、必死に宥める。これ以上この訳の分からない劇を見ていると、疲労が蓄積されてしまう。突破口を開くには、やはりこれしかないだろう。覚悟を決め、声を張り上げた。

「私の悩み、聞いてもらえませんか!!」

少年だけでなく、クラス全体が琥珀に注目した。もう帰りたい……これから始まるというのに、早くも家が恋しくなった。

「なるほど、姉と友人が大乱闘で家が大破、仲良くさせるためにはどうすればいいか、と」
「え、えっと……そんなかんじ、ですかね……?」

あまりの適当さに不安がよぎる。いや、もともと不安しかないのだが、さらにそれが強くなった気がする。

悪くなっていく一方の空気を払拭するかのように、少年が口を開いた。

「俺、琥雲葵壱っていいます。この馬鹿は郁、保健医で俺の兄です嫌だけど」
「は、はぁ……あ、私は琥珀です。えっと……今日はよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」

お互いに頭を下げ合い、挨拶。そんな二人を見やり、郁は面倒臭そうに溜息をついた。そして、偉そうに、それはもう偉そうに、机の上に足を乗せてふんぞり返る。一学校の教師にあるまじき態度だ。

「家が大破ねぇ……そりゃ、気の休まる時がねぇわな、可哀想に」

引きつった笑みしか浮かべられなかった。そんな態度で言われても、何も響かない。親身になってくれているとは思えないし、向こうから聞いてきたわりにどうでも良さそうに見えるのだ。

「……仲良くさせてぇんだろ?」
「は、はい。やっぱり皆仲良しの方が嬉しいですし、生活にも困らなくなりますし」
「本当に困ってるんだ……おい、そんな馬鹿な格好してないでちゃんと相談に乗れよ」
「うるせぇ消えろ」
「あぁ!? お前が消えろ!!」

椅子が倒れ、教室中に音が響き渡る。葵壱の怒りをそのまま表しているかのようなそれに、琥珀は一瞬尻込みしてしまった。だが、気遅れしている場合ではない。郁の胸倉を掴み、今にも殴りかかりそうな勢いだ。

「こ、琥雲君! 駄目です、落ち着いてください……!」
「あ、…………っぶ!?」

琥珀の言葉から、躊躇し手を緩めてしまったのが悪かった。数センチという至近距離から拳が飛び、机をいくつか倒して床に転がった。

「琥雲君!!」

慌てて駆け寄るが、葵壱は完全に気を失っている。保健室に……と思ったが、保健医は外でもない、この状況を作り上げた彼なのだ。連れていけるはずもなく、苦し紛れに『体罰』について説いた。だが、それは鼻で笑われて終わり、心が大きく傷付けられただけで何の解決にもならなかった。

どちらかというとまともな方の葵壱が気絶してしまい、いよいよ自分の悩みが解決される確率が0に等しくなってきた。あらゆる意味で青ざめる琥珀をよそに、郁は口元にうっすらと笑みを浮かべる。くつくつと喉を鳴らす様は、悪人でしかない。

「琥珀、いいことを教えてやろう」
「な、何ですか……」
「そう怯えるなよ。俺はあくまで教師だ。いくらさっきタックルかまされたことに腹立ててようと、法を犯すようなことはしねぇさ」

どの口が言うのだろうかと、思わず口に出しそうになり、ぐっと堪える。いくら心優しい琥珀でも、やはり限度というものがある。今日初めて話した相手でも、半殺しにされたら黙ってはいられない。苦手というより嫌いの部類に彼を振り分け、二度と関わらないと心に誓った。だから、今は我慢が利くのだ。

「二人に伝えとけ、励めってな」
「へ……?」
「友情ってのは、拳で語り合って深くしていくもんだ。俺達みたいに仲良くなりてぇなら、まずはお互いボコボコにすることだな」

これはすでに、教師の発言ではない。熱血系漫画に出てくるちゃちな不良の台詞だ、呆れ返って物も言えない。

葵壱を担ぎ上げ、嫌な笑みを零し去っていく。結局何も参考にならなかったわけだが、諦めはついた。この二人に比べれば、姉達は随分と大人しい……ような気がする。少なくとも、自分より力の弱い者を徹底的に叩きのめすような卑怯なことはしない。

(うん、そう思えば、あの人達に相談したのも間違いじゃなかったですね)

一人納得し、満足そうに教室を出ていく琥珀。その足取りは、ここに入った時よりも軽い。だが、琥珀は気付いていない。ただ気苦労を増やされただけだということに……。


END
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