某交流サイトで、毛糸さまに書いて戴きました。

雪合戦という一風変わった募集に思わず挙手!!
毛糸さま宅の、レゾンさんとアイディールさんとのコラボになっています。


CAST:レゾンさん、アイディールさん、琥珀、要




「おーい。投げるぞ、お嬢ちゃん」
 拳大に握った雪玉を手にして、そう宣誓した。と同時に、レゾンは満面の笑みを浮かべながら、それを投じる。狙った先には、如何にも人が良さそうな少女が居た。
 さして速度も無いそれだが、あわあわと盛大に慌てて、右往左往している。真紅の丸い、澄んだ瞳をした琥珀を見た時、まるで雪兎のようだと思ったのが、遠い昔のようだ。一体どのくらい、こうして児戯に興じているのかは分からない。なにせ、一面の銀世界である。時の経過を報せるのは、ゆったりと流れる綿雲くらいなものだ。
 知らず空を仰いでいたが、ぼすりという名状しがたい音がすると、紅蓮の瞳は先程までの位置に戻される。そこには、深く積もった雪の上で転んだ琥珀が目を回していた。恐らくは、レゾンが投げた玉を避けようとした結果なのだろうが、雪玉ひとつ直撃したよりも、明らかにダメージが大きいだろう。勢いそのまま、新雪に沈みこんだ両腕を慌てて引き抜きながら、少女は半ば涙目で抗議をしてきた。
「レ、レゾンさん……! さっきからどうして私ばっかり狙うんですか…!?」
「なんていうか……流れで? や、だって要とアイディはあっちで派手にやってるし。知らない内に二分化されてんだもんよ」
「じゃあせめて、私が雪玉作るまで待っててくださいよ~……! 私、雪合戦なんてしたことないから、雪を握る所からして上手くできな……」
「そういうのは実践あるのみだ。大丈夫、大丈夫。お嬢ちゃんスジは良いから、慣れればひょいひょい避けられる、投げられる」
「だっ、だから投げる雪玉が無いと、投げたくても投げられないじゃないですか!」
「よーし、その意気だ。もう一発投げるからなー。今度は避けてくれよ」
 実に尤もな琥珀の主張を全て無視した上で、レゾンは話している内に手早く作った玉を再び、放つ。眼前の男がまったく話しを聞き入れない事が、些か以上にショックだったのだろう。立ち上がろうとした途端に飛んできたそれを、避ける事もままならなかった。ぎゅうと固く瞼を閉じ、やがてやって来る衝撃に身を竦める。

しかし、無情なる雪玉の洗礼は、何時まで経ってもやってこなかった。
 代わりに、荒く雪を踏む音と共に近づいてきた気配が、息を弾ませながら彼女の前に立つ。驚いて目を開けると、そこには今まさに反撃の姿勢を取った要の姿があったのだ。
「さっきから――調子に乗りすぎなんだよ、てめえっ!」
 足元の白銀を踏み散らし、両足がしかと地面を捉える。ぐうと捻った上体に込められた力により加速して、弾けるように飛ぶ渾身の一撃を、レゾンは間一髪で回避した。漆黒の外套に僅か、一筋の白い線が残るのは、ぎりぎりのところを玉が掠めたせいだろう。軽くそれを払うと、乱入者を一瞥する。そこに驚いた様子は微塵もなく、飄々と肩を竦めると、傍らへと戻ってきたアイディールに視線を流す。
「……何時に間に休戦協定を結んだんだ? お前ら」
「別に、そんな大仰なものは結んでいないさ。ただ……君の行動はあまりにも目に余る、という意見が合致しただけの事だよ」
 溜息混じりに告げる白い英雄に、同意するような格好で要もまた頷いた。素手で雪を握っていた少年の指先は真っ赤だが、握り締めた手が震えているのは、けして冷たさのせいだけではない。
「大体……っ、雪合戦に慣れてない奴に対して配慮がなさ過ぎるだろ! なにが“慣れれば避けられる”だ! 慣れさせるつもりなんか微塵もねえくせに……!」
「おー……中々痛いとこ突くな、坊や。その通りだ」
「いや、あんた……なに堂々と開き直って」
「けどな、これは不可抗力だ。何故なら……――美人を弄り倒すのは、男のロマンだからな!」

 その瞬間――場の空気は凍りついた。
 胸を張って言い張るレゾンの姿は、それは威勢のいいものではある。だが、その主張内容といったら、改めて言うのも野暮なくらいに下らなかった。下らないのだが、如何な理由であれ、強引に押し切られると、正論に聞こえてしまいそうなのがまた、恐ろしい。事実、暫し再起の時間を要した要と琥珀は、開いた口も塞がらないといった様子だった。おもむろに眉間へ指先を当て、重い溜息をついたアイディールを除き、人影は絵画のように動かない。

「そ……そんな理由で、あんた……」
 ようやく、掠れた声で要が、停止しかけた心のエンジンを温め始める。ゆらりと一歩踏み出す、少年の怒りが限界に近づいているのは明らかだった。はらはらと見守る琥珀の頭は、この場の不穏な空気を払拭する術を絶え間なく考えるも、思いついた端から泡沫の如く弾けて消えてしまう。そんな彼女の様子を、しんみりと眺めたレゾンは、よせば良いのに最後の決定的な地雷を踏んでしまった。

「だって可愛いじゃないか。琥珀ちゃん」

 誰に同意を求めての、それなのか。朗らかな笑顔と共に、紡がれた無遠慮な口説き文句。まったく予期していなかった賛美に、琥珀は見る間に頬を赤らめる。そしてその一言は、要の心に土足で立ち入るものであるのは、最早覆しようもなかった。わなわなと肩を震わせながら、ことの元凶たる漆黒の英雄を睨みつける。
「ふっざけんなよ……てめえ。琥珀は、琥珀はオレの……――!」
「ほほう。なんだ、坊主。琥珀は、オレの?」
「うるせえっ! 琥珀は……!」
「は、え……? 要くん。私が……どうしたんです、か?」
「――ッ!? ……いや、その……」
 勢いのままに言いかけた告白は、あまりに真っ直ぐな琥珀自身の言葉によって封じられてしまった。喉奥で潰れた想いが、胸の辺りまで下がり、熱を孕んでわだかまる。二の句が継げず、要が視線を中に彷徨わせていると、忍び笑いを片手で隠しているレゾンの姿が、偶さか目に入った。――直後、憎き黒幕に向かい、少年が集中砲火を始めたのは言うまでもない。



『 雪合戦という名の浪漫 』
(ど、どうしよう……! 早く止めないと、レゾンさんが雪で見えなく……)
(ああ、いや……あれは放っといても良い、んじゃないかな。完全にレゾンの自業自得だし)
(でも、要くん……私に何て言おうとしていたんでしょう?)
(それは……うん、済まない。直接本人から聞くのが良いと思う。それより、雪の上に座り込んでいたら風邪を引くだろうから、そろそろ立とうか。ほら)
(あ、はいっ。有難う御座います!)

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END
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