お正月と女神



ガキの頃は待ち遠しかったな…





こたつが恋しくなる季節が来た。

大晦日。
商店街は早々と年末年始の品揃え。そしてテレビも年忘れの番組や紅白の話題で持ち切りだ。かく言う僕も早めに準備を開始する。まず買い出しにお節料理の下ごしらえ、そして…

「主!この白い丸いものはなんですか?」

「これは鏡餅。お正月にこの上に橙かミカンを乗せて飾り付けするんだよ」

「じゃあ、この緑の筒みたいなものは?」

「これは門松。本当はもっと大きくて、玄関先に飾るんだけど」

「あ、この太い縄は?」

「これはしめ繩。これもお正月の飾りだよ。ニコル、飾り付け手伝ってくれる?一人じゃ大変だ」

「はい!喜んで!!まず何からいたしましょうか」


…と言う感じで、ニコルに説明しながらの準備が進んでいく。ニコルにとって日本の正月は初めての経験。準備の段階ですでにテンションが高い。しかし、手際よく飾り付けをしてくれる所を見ると、ちゃんと僕の話を理解していてくれているんだと思う。


すっかり夜も更けて来た。そろそろ年越しの準備をしないとな……と台所に向かうと、ニコルが後ろからついて来た。

「主!お手伝いさせてください!」

「え?……別にいいけど。大丈夫なのか?」

「はい!」

「そうか。じゃあ、蕎麦茹でるから鍋に水入れて、沸かしてくれる?……あ、コンロはここ押すと火が付くからな。火傷するなよ」

「はい!了解しました」


いつもニコルを凄いと思うのは、一度言っただけでやれてしまう飲み込みの早さ。手早く鍋に水を入れ、コンロにセットし、ボタンを押す。コーヒーの入れ方から始まり、簡単な料理(目玉焼きとか)などもそうだが、この一年足らずですっかりキッチンを使いこなしている。この姿を見たら、きっと「この子は女神です」と言っても信じて貰えないかもしれない。
……まあ、未だに質問責めにあうが。それはそれで楽しいから良しとする。


「主!!袋に書いてある茹で時間でいいですよね?え…と10分!」

沸騰したお湯に蕎麦を投入し、タイマーをセットするニコル。そんな彼女を横目に、煮物を仕上げる。お節料理はもうすでに完成させ、冷蔵庫に入れてある。年が明けたら出そう。
丼を二つ出し、煮立てた蕎麦つゆを用意して準備完了。

「ニコル、そろそろ出来るから、テーブル片付けといてくれよ」

「はい!」


濡らしたふきんを持たせ、片付けて貰っている間に、茹で上がった蕎麦を丼に移し、つゆをかける。そしてスーパーで買っておいたかき揚げと海老天を乗せる。
毎年食べている、我が家の年越しそばだ。


「ニコル!!片付いたか?出来たから運ぶの手伝ってくれ」

「出来上がりですか!主!……わわっ!凄い美味しそう!!」


二人テーブルに付き、「いただきます」と蕎麦に箸を付ける。テレビでは新年に向かってカウントダウンが開始されている。

(もう、一年終わるんだな。……ニコルと出会ったのは3月。後三ヶ月しかないのか……)

今の今まで一緒にいる事が当たり前に思っていた。


(寂しいな……)


いつの間にかそんな風に思いはじめた自分に驚いた。僕がテレビを見ながらぼーっとしていると、蕎麦を啜っていたニコルが心配そうに見つめてきた。


「主?ご気分でも悪いのですか?」

「……え?いや、一年早いなって思ってさ…」

「……そうですね。でも、とても楽しい日々でした。ありがとうございます。主…」

「ニコル……」


僕とニコルが見つめあっていると、テレビからアナウンサーがカウントを始めた。



















《明けましておめでとうございます!!》

テレビから聞こえた歓声を合図に、僕はニコルに向き直る。


「明けましておめでとう、ニコル」

「明けましておめでとうございます!主!今年もよろしくお願いします!!」

「!!」

「?」

「…!いや、なんでもないよ。こちらこそよろしく」


『今年もよろしく』…不覚にもジーンときてしまった。

後、三ヶ月しかない。当のニコルはそれを知っているのかいないのか……いや、知っているはずだ。確かに最近、悲しそうな淋しげな目で僕を見ることが多くなった。


…寂しいのは僕だけじゃないんだ……


煮物やお節料理をつまみながら、努めて明るく振る舞うニコルに、これから三ヶ月を共に楽しもうと誓った。





「あ、そうだニコル。これ」

「なんですか?」

「お年玉」

「わあ!あ、開けてもいいですか?」

「え…う、うん」

「……かわいい。ネックレスですね!…あの、本当に貰ってしまって宜しいのですか?」

「うん。だって、ニコルのために用意したんだから」

「!!あ、ありがとうございます!大切にします……主……」




END

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